47話 こいである
「お待たせしました」
シデロスの画策により実行された平原での数日間キャンプ擬き。
チェーニの問題には少しばかりの進展があった……がそれだけで全て解決できているかというとそんな簡単な話でもない。結局喋り方に改善が見れたとは言え快活明朗とはいかないし内容も同様。
取り敢えず彼女に一応触れられること、その状態でしどろもどろではあるが会話ができることは確認できた。そんな訳で一旦休憩と言う名の昼食タイムということになった。そういえばチェーニとも一緒に昼食……というのは初めてだっけ。大丈夫かな、一緒に食事取れるんだろうか……。
「チェーニさん、出来れば岩の後ろから出てきて欲しいんですが……」
「ひゃっ……え……えと……」
フィリアの呼びかけに驚きの声をあげるチェーニ。俺がいるという時点で今まではお話にならなかったけど、今回はどうだろうか。
「……こ……こで……」
スッとわずかばかり顔を覗かせそういった。大体4割くらい。その程度だけ姿を見せてフィリアが持っていたその皿を受け取る。それから岩に背中を預けて食事に至った。
まぁ前よりはやっぱりマシになってるのかな。
それでもって俺が指摘したからだろうか、前より彼女自信も積極的というか……そんな感じはする。姿前より見せているだけで積極的という単語を用いていいのかは分からないけど。流れ……というとまた変な話にはなるけれど、こう、何というか……3人で一緒に団らん……みたいなもんを勝手に想像してしまっていたが、そんなとんとん拍子に行くわけもないよな……。それでいうなら、岩の後ろに完全に隠れきらないだけ良しとしよう。
兎にも角にも俺だってお腹空いてきたし一旦食事だ。彼女の問題については食後にまた考えようか。
「うん、おいしい……」
「どうかしました?」
「いや……こう変な視線みたいなものがさ……」
勿論その変な目線というのはチェーニからのものである。こちらが彼女の方を見ていないとやけに感じるのだが、じゃあと思ってこちらからチェーニのいる岩の方へと目をやるとスッと顔を反らす。何なんだ。
昔やったゲームにこんな敵キャラいたな……とか変な事をふと思い出してしまった。
「まぁそればかりは……それにこっちを積極的に見ようとしているのは良い傾向なのでは?」
「うん、喜ばしい事ではあるけど……」
それでも誰かにまじまじみられる、というのが中々レアな体験なもので無駄にこうこちらが緊張してしまう訳で。
「……?」
視線を感じる俺に対して何故だか怪訝な表情を時折見せるフィリア。
「……何かついてる?」
「い、いえ……別に」
チェーニといいフィリアといい何だというのか……。
■
食事後、片づけを……と思ったのだがフィリアから止められた。この型付けだけでも手伝う……というのはいつものルーティンみたいになっていたものだ。
「ちょっと丁度いいのでミヤトさんは少しどこかで狩りでもしてきてもらえませんか」
「え……何でまた……? もしかしてまださっきの一件を……」
まさかクビ宣告というやつなのか。そうかこれから俺の追放系異世界冒険譚が……などと適当な事を考えていたけれど、当然そんなトンチキな理由ではない。
「いえそうじゃなくて……まぁ許し切ってもいないですけど、そうではなくてチェーニさんと少しばかりお話がしたいので」
「チェーニと……? まぁ……そういう事なら……」
しかしこれ本当に俺の処遇を決めるための話し合い渡河だったりしない?勿論考え過ぎだろうという事は着も承知だが。
しかしまぁ席を外してくれ、と頼まれて食い下がるような人間ではないので大人しく一人狩りに出かけることにした。どんな会話が繰り広げられているかは気になるところであるけれど、遅かれ早かれ食材調達自体は必要だったし、そういうことで割り切るとしよう。
フィリアからの命令として、盗み聞き対策にモンスターの討伐数を言い渡された。その数4種類。4匹ではなくて4種類との事。それが終わるまでは戻ってくるなというお達しである。これが出稼ぎというやつか……。しかし此処で断るメンタルもなく、了承してしまい平原の別の場所へと歩を進めた。
4種類と聞くと多くはあるけれど、今までの俺で言えばそれ以上の数のモンスターを一応は討伐している……はず。ロックタランドス、フレアハインド、グリーンボアにスネークフラワーに……。まぁそれらが一同に会するわけじゃないけど。とりあえず実績自体はあるという事で。
「しっかしほんとに何の話なんだろ……悪口とか言われて無きゃいいけど……」
チェーニではないがこんな時に変に思われているんじゃないかとついネガティブな思考をしてしまうな……。
「……さっさと5匹討伐して、盗み聞きしようかな」
尤も、フィリアにかけてもらった聴覚を高める魔法の効果はとっくの昔にきれてるので頑張って耳を傾けるかそれこそ岩の陰にでも隠れながら聞くかの二択になるけど。
……そんなことしたら今度こそ追放もとい通報されるかな……。とりあえず、ちゃんと狩りを続けよう……。
……。
「ええと、グリーンボアにフレアハインドに……」
ストレージの中身を確認する。それぞれのアイテム名を見てちゃんと5種類いるかの確認だ。うん、問題ないな。これなら胸を張って彼女たちのもとに心置きなく帰れるな。
そうして二人と別れた例の場所へ。食事の準備に用いた焚き木やらがそのまま残っているのでわかりやすい。
二人の待つ場所へ戻るやいなや4種のモンスター討伐の確認など知らぬという具合にフィリアからちょいちょいと手招きされた。どうやら今度は俺に話があるとかで。
……もしかして本当に俺のやらかしに対しての処罰が下るというのか……?
フィリアとチェーニ、二人の前へ。何を言われるのだろうかと変な汗が出てる気がした。
「ええと……少しチェーニさんのミヤトさんに対する様子が怖いというソレとは違う気がしまして」
まずは話の前提かららしい。男性嫌い、男性恐怖症のそれとは違う……という事だよな?
「話を聞いた感じ、チェーニさんは多分ミヤトさんのことが気になっています」




