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9話 スネークフラワー

 向こうから感じる気配がスネークフラワーのものかは分からない。どころかモンスターの気配かも……なんなら気のせいかもしれない。

 確証なんてものは一切ないが……しかしどこかで確信があった。


「多分……いる……」

「え?」

「何か、感じるんだ……あの花の方向に。ほんっとにヤマカンでしかないけれど……」

 しかしなんでこんなに感覚がするどくなっているのだろう。少なくとも、元の世界にいたときはここまで気配らしい気配に敏感だった記憶は……。


「兎に角、あっちの方探してみよう」

 しかしこんな森の真ん中に花畑が広がっているというのは中々不思議な光景だ。この一帯を抜けたら再び一気に森の中。意図的にくりぬかれたと言われた方がまだ自然かもしれない。

 まぁここまで花が咲き乱れてるのは、それこそこうして木々がくり抜かれて日が当たるからだろうか。

 花畑を見つけ、そこで不思議な気配こそ覚えたもののそこから先は根気になる。最低限の広さがある。

 取り合えずこの感覚がより鋭敏なところを探せば或いは……。


「スネークフラワーってことは蛇だから……長いんだよね?」

「え……まぁそうですね」

「あそこ若干動いてるような……」

 遠目から見ているだけなので花が揺れている様なんかを見間違えている可能性も十二分にあり得る。フィリアが言っていた魔法障壁とやらの説明をまるまる信じて解釈するのであれば噛まれたところで問題ない……とは思うが、だからって蛇相手に簡単に近づこうと思うほど肝は座っちゃいない。


「少し持ち上げて見ますか」

「えっ?」

「マラキア」


 杖を一振り、呪文と共に。

 先ほど使っていた風の魔法というやつだろう。

 忽ちふわりと辺り一帯に風が舞いこみ、周囲からは土埃。そこら一帯の花が地面から引き抜かれたかのように持ち上がる。

「スネークフラワーは花なんかに比べたら余裕で重いモンスターです。通常個体ならこれで持ち上がってるんじゃないかなと……」

「凄いパワープレイだな……」

 花を引き抜くという自然破壊まで行っているし。

 しかしながら手当たり次第に探すよりは効率的なのはまぁ間違いない。


「アレか!」

 地面がむき出しになった事で花の色に擬態するというその見た目が逆に目立っている。地面を這う、カラフルな蛇の姿がそこにはあった。

 この異常現象にモンスターが逃げてしまうよりも先に魔法を繰り出す。

「よしっ……クラドス!!」


 道中でフィリアから習った魔法の一つ。

 魔法で物理的な物質を一時的に編みだすもの。そうして生まれた槍状のものを相手目掛けて放つという魔法である。

 地面であるし相手は蛇であるけれど気分は銛をついているような感覚になる。


 動きが素早かったが、運の良い事に一発でヒットした。その槍状の魔法は地面に深く蛇の体を貫いて突き刺さる。

「ミヤトさん、そのままとどめを!」

「よし……もう一度、クラドス」

 槍でもって身動きがとれなくなったところにもう一度魔法を放つ。今度は狙いを定める動作も必要なく、生み出した緑がかったオーラを纏うその槍を突き刺す。

 これでモンスターが倒せた、ということだろうか。不思議なエフェクトを放ちながら蛇の姿が消えていき革と袋のようなものに変貌する。


「……袋……?」

 そうしてドロップしたアイテムはまずは蛇の皮。元の世界でも蛇革はあったっけか。パイソンとかなんとか……。それを踏まえるならこちらの世界でも見つけるものとして加工されるのだろうか?

 それともう一つが気になるところで、袋である。全体的にぬめっとしていて、

「スネーク種の体液袋ですよ」

「体液袋……」

「スネークとかサーペント系はこうして皮と体液袋を落とすことが多いんです」

 フィリアがいうにこの体液もちゃんと買い取ってもらえるらしいし、なんならそれなりに価値の高いものだという。


「体液袋の中の液は香料の素材になるんですよ。香水とか主流ですね」

 とのことらしい。香水の材料として使われているということは道行く人がこの体液袋の中身を身に纏っているのか……。あんまり考えたくないな……。

「見た目はこれですけど花を主食にしていたりこういった場所に生息してるので匂いはいいらしいですよ?」

「匂いはいい……ねぇ」

 ただただ何となくでしかないが持つことすら躊躇う見た目をしているが……。

 ひとまずずうっと放置している訳にもいかないため体液袋を素手で掴む。当然ながらべたッとした感触があってなんとも不快だ。ドロップアイテムという扱いであるがこの辺の感触だとかはそのままである。

 掴んだアイテムは仕舞うと念じながらバッグの方へ押し付けるか自らのポケットなどに押し付けるなどすれば勝手にストレージに収納される。理屈だなんだはやはり考えるだけ馬鹿らしいのでやめた。


「体液袋と皮……一応これで依頼はクリアってことになるのかな?」

「おそらくは……。それにしてもよく見つかりましたね……気配で見つけるって……」

「ううん、俺もよく分かってないけどモンスターに対して何か感じるのかも」

 先ほどのスネークフラワーは当然ながら、巨大なグリーンボアの時もそれより前……フィリアに出会った時にもずっとそれらしいものがあった。

「ここまでとなると何かスキルがあるんですかね」

「スキル……そうだ」

 彼女に言われてふっと思い出す。そう言えば一つ気になったまま放置していたものがあったではないか。

 自分のパラメータを開いてそこにあるスキルを改めて確認する。

 鑑識と言語認識、それからもう一つ気配察知というもの。

「気配……察知?」

 フィリアなら何か知っているのではと思ったがしかしスキルの存在自体を話しても知らぬ存ぜぬといった表情であった。

「少なくとも私は持っていませんね……ただ名前とミヤトさんの感覚から考えるなら……モンスターに対して何か感じ取る……とかでしょうか?」

「多分それで合ってるとは思うけど……実際どうなんだろう」

 不親切な事にこのスキルというもの、名前こそ書いてあれど詳細なスキルの情報については全く書かれていない。そうである以上は深く考えても仕方のないことか?

「フィリアでも分からないっていうなら、まぁ追々調べるしかないかな……少なくともデメリットではなさそうだし。それに今は……」

 それに今は――。

 散らかった花畑。その周囲に広がるのは広大な森、トレシスフォレスト。

 花畑を見つけたことだとか、スネークフラワーの確保だとか記憶を軽く上書きするようなことが続いた所為で失念していたが、俺たち二人は絶賛森の中で迷子になっているのだった。

 地図とのにらめっこは再び始まる。

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