8話 魔法障壁と物理ダメージ計算の話
森の中にもそれらしい場所はあるだろうという推察まではできた。問題はどうやってそこに辿り着くかというところなので進捗率で言えばほぼゼロに等しい。
「まぁ……考えても仕方ないし、道確認しながら歩くか……」
「どっち……というかどう行きましょう?」
「うーん森で迷子の時のセオリーは川を探せとは言うけど……」
その川もどこに行けば見つかるのか分からないからどうしようもないな。取り合えずアモールの街から歩いて体感的に数時間とかだろうか。感覚的にそこまで奥には行っていないと思うが……。
「取り合えず帰り道を確保してそれからやり直しの方が……ん」
「また何か見つけました?」
確かに何か見つけたような感覚はある……がこれは地図がどうこうではない。単純な気配のようなものを近くで感じる。
「何かいるかも……」
「何か……?」
忽ち地図をしまうように指示してその場から立ち上がる。冒険者であるとかそもそも気のせいであれば杞憂だけれど万が一モンスターだった場合は多少なりとも戦闘態勢であるべきだろう。
「なんか草木が揺れてるような……」
「いや、ミヤトさん……それどころか大地まで……」
『ブオオオオ!!!』
「でかっ!?!? ……ッ!!!」
周囲の木々をさも平然となぎ倒しながら巨大な猪が現れてはこちらに気づいたのか、それともそこいらの木と同じにしか見えていないのか一気にこちらへと近づいて、そして体が直撃する。
途端にふわりと体が浮いて、弾き飛ばされる。
「なっ……」
「ミヤトさん!!!?」
宙を浮いている。当然これは魔法なんかではなくシンプルな物理。巨大な猪にぶつかられたが故の衝撃。
元の世界で一度死んだような感覚があった。
この世界でもまた再び死ぬことになる……のか。
当たり所が良かったのか、弾き飛ばされた瞬間に肉塊に……ということはなかったがしかしこの空中からの落下。正気で済む筈がない。
俺が弾き飛ばされる瞬間、フィリアはこちらの服の袖を掴んでいたようで、俺と一緒に弾き飛ばされている。
「ちょっと耐えてくださいねっ!!」
宙に浮きながらもフィリアは杖を右手に持ち、素早く魔法を唱える。
「マラキアッ……!」
死を覚悟したつもりで目をつむった。しかしどうだろうか、彼女が魔法を唱えた途端に落下していくその感覚がなんというか緩やかになった。
「……生きてる」
目を開けると地面が目と鼻の先に近づいてこそいるが、そのまま停止している感じだった。そこからゆっくりと地面に落ちていく。故にダメージらしいダメージはほぼ存在しなかった。
「今の……」
「マラキアですか? 周囲の空気を操って風を起こす魔法で……」
風の魔法でもって地面にぶつかるときの衝撃を和らげた、ということらしい。器用なものである……が、いや待て。
「待って……地面にぶつかったとき無事だったのはわかったけど……」
それで説明を片付けて良いのかというところはあるがいったん置いといて。地面に落下したとき以上に気にすべきことがある。
「あの巨大な猪に当たって無事だったのは……」
「猪……? あ、グリーンボアですか?」
「ああ、うんさっきのデカいの……じゃなくてなんでちょっと痛いくらいで済んでるのさ」
「魔法障壁貼ってましたから」
「魔法障壁?」
新しい概念が飛び出してきた。何とまぁ便利な事か、フィリア曰く攻撃をある程度弾く魔法だという。それでもってフィリアレベルであれば先ほどの猪にぶつかられても吹き飛ばされる衝撃こそあれど、受けるダメージ自体はほとんどないのだという。
「……あれ、魔法障壁ってのでグリーンボアのダメージは防げるんだよね? さっきの地面にぶつかるのもそれでよかったんじゃ」
であればさっきのマラキアとかいう風魔法も衝撃こそあれど必要なかったのではないか?
少なくともグリーンボアなるモンスターにぶつかられた時の衝撃で無事であったのだし。
「いや……魔法障壁は物理攻撃への耐性は今一つですし」
さっきのモンスターの体当たりも物理攻撃じゃないのかという疑問が自然とわいてくるのだが、彼女曰くモンスターの攻撃と物理的な攻撃、人に殴られたりそれこそ地面に衝突したりというものは別らしい。
参照するパラメータが違うという事なんだろうか。
例のステータスとやらではそれっぽいのは武力と魔力、守りでいうなら耐久と体力だったか。この辺りに差異があるということか、それとも隠しパラメータ的なものが存在するのか果たして……。
ひとまずここがどこか改めて確認しなくてはならない。あのデカいのに飛ばされた衝撃で現在地がどこかなど確認している余裕もなかった。あの時に上空から地形を確認できていればまた話は変わっていただろうか、まぁ無茶な話だが。
「あのミヤトさん……あれ」
そういうフィリアが指さす先に見えるのは一面の花畑。今回一旦の目的地としていたものに他ならない。
「花畑……!」
しかもそれだけではなかった。はっきりとしたことは言えないけれど、感じる。その花畑の方向から、何か気配が――。
「これは……」




