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2-4

「お呼びかい? 狐」

 玄関からいきなり聞こえてきた声に驚きながらベッドの置いてある部屋を飛び出て、玄関を見ると、嵐がにやりと笑っていた。

「嵐。どうしたの?」

「ん? ちょっと瘴気臭いからね。やっぱり、こいつだったか。ほれ」

 嵐が投げ渡したのは一つの丸薬入れ。入れ物に入っていても強烈な臭気に眉を寄せて目で嵐にたずねると嵐は鼻をつまんで肩をすくめた。

「一段目は、滋養強壮、二段目は毒消し、三段目がなんだっけな……。あ、そうそう、解熱。解熱は作用が強いから、犬にゃ向かねえよ」

「え?」

「薬とかいつも使わないから、効きやすいんだ。すぐ中毒起こして大変なんだがな。毒消しの標準服用数は五、六粒だが、三粒で効くと思う」

「了解」

 丸薬入れを振って中に入っていることを確認して、くるりときびすを返して、夕香は月夜の隣へ戻った。

「タオルと、着替えと、おけ出しておくからな」

「何で知ってるのよ」

「幼馴染だし?」

 顔を覗かせる嵐にじと目を送ると、月夜が眉を吊り上げて天井をにらんでいた。

「起きた?」

「何でこんな騒がしい?」

「お邪魔してまーす」

「てめえは帰れ!」

 手短にあった時計を投げつけて起き上がった月夜は肩で息をつきながら、さっさと帰る嵐の背中を見て肩から力を抜いた。

「ちょ、大丈夫なの?」

 と、夕香が言うそばからベッドに倒れこんで天井をにらむ月夜は重いため息をついた。

「……」

 かすかに泳ぎ、焦点も失いかけている目に危うさを感じながら、夕香は月夜の顔の目に手をかざして振った。

「まだ意識ある?」

「かろうじて」

「飲んで」

 嵐に渡された丸薬入れの二段目を手渡すと何があるかわかっているらしい。月夜は小さな丸薬二粒を出して口に放り込んだ。

「それだけでいいの?」

「体調が悪いときに薬飲んでも吐くから少なめに飲むんだ」

 体が薬を処理しきれなくなってしまうらしい。きつく目をつぶった月夜に夕香は、ベッドのそばにある月夜のイスに座ってそっと肩の力を抜いた。

「ね……」

「こんなに、強いものだとは思わなかったよ」

 何かをたずねようとした夕香の言葉と月夜の言葉がかぶった。夕香は口をつぐんで目をつぶったままの月夜の顔を見ていた。

 月夜は声を出すこともおっくうな様子で、疲れた声で続ける。

「天狐の瘴気、なのか、狐の瘴気、なのか。ね。……まあ、どっちでもいっか」

 とつとつとした言葉に眉を寄せるときつく瞑られた目がふっとゆるんだ。開かれた口が閉じられて、言葉が寝息に変わる。

「月夜?」

 そう呼んでも答えはない。

 眠ってしまった月夜に夕香は苦笑しながら乱れた布団を整えて、そっと、首元までしまっているシャツのボタンを緩めた。

 玉の汗がにじむ首筋を、濡れタオルで拭って顔ににじむ脂汗を拭く。

「……」

 気が抜けたような寝顔に夕香は唇を真一文字に引き結んで目を伏せた。投げ出された手に手をやれば、また冷え切っていた。

「っ……」

 思わずその手をとって硬く握り締めて、夕香は額に押し当てた。

 そして、しばらくしてから夕香は嵐に投げつけた時計を拾って、元にあった場所に戻した。幸い、壊れていないようだった。

 ふと、見えた月夜の辛そうな寝顔にもう一度ため息をついた。明るい日差しの中、眠る月夜はとても白かった。

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