第8話「討伐隊」
村の空気は、まだ重かった。
火は消えたが、焦げた匂いと不安は残っている。
「……静かすぎる」
リオが呟いた。
「そう?」
セリアは首を傾げる。
「みんな疲れてるだけじゃない?」
「それもある」
だが違う、とリオは感じていた。
(“間”がある)
嵐の後ではなく——前の静けさ。
そのときだった。
「——誰だ」
低い声が響いた。
村の入口。
そこに、数人の武装した人影が立っていた。
統一された装備。
無駄のない動き。
ただの兵士ではない。
「……来たか」
リオが小さく呟く。
「え?」
セリアが振り向く。
その集団の中から、一人の男が前に出た。
長身。
鋭い目。
無駄のない佇まい。
「我々は王都直属、対魔族討伐隊だ」
静かだが、よく通る声。
「この村で異常があったと報告を受けた」
ざわめきが広がる。
村人たちが顔を見合わせる。
「もう……終わりました」
一人が言う。
「魔物みたいなのが出て……でも、なんとか」
「“なんとか”?誰がやった」
男——ガルドの目が細まる。
空気が張り詰める。
誰も答えない。
答えられない。
その沈黙を、ガルドは見逃さない。
「……隠すな」
一歩、踏み込む。
「ここに“何か”がいるな?」
その言葉に、セリアの肩がわずかに揺れる。
リオは動かない。
ただ、観察している。
(速いな)
想定より早い介入。
そして、この男。
(強い)
直感で分かる。
今までの人間とは違う。
「ねぇリオ……」
セリアが小さく囁く。
「これって……」
「討伐隊」
「やっぱり……」
「しかも当たり」
「当たりってなに……」
軽口のようでいて、視線は鋭いまま。
ガルドが周囲を見渡す。
焼け跡。
倒れた半魔族の痕跡。
そして——
「……妙だな」
しゃがみ込み、地面に触れる。
「この破壊、統一されすぎている」
指でなぞる。
「複数の個体が、同時に制御されていた形跡」
セリアの心臓が跳ねる。
(そこまで分かるの……?)
「自然発生の魔物じゃない」
ガルドは立ち上がる。
「“使役者”がいる」
その言葉が、重く落ちる。
空気が凍る。
村人たちの視線が、無意識にさまよう。
疑い。
恐れ。
そして——
「……お前」
ガルドの視線が、止まる。
リオに。
「子供にしては、落ち着きすぎている」
「そう?」
リオは平然と返す。
「怖くないのか」
「怖いよ」
「そうは見えない」
「表に出さないだけ」
淡々としたやり取り。
だが、その裏で探り合いが続いている。
「名前は」
「リオ」
「……そうか」
ガルドは一歩近づく。
距離が縮まる。
圧が強い。
普通の人間なら、目を逸らす。
だがリオは逸らさない。
「——お前」
その瞬間。
セリアが間に入った。
「待って!」
ガルドの動きが止まる。
「その子は関係ない!」
「ほう」
ガルドの目がセリアに向く。
「なぜそう言い切れる」
「ずっと一緒にいたから!」
「戦闘の瞬間もか?」
「それは……」
言葉に詰まる。
完全には否定できない。
「ならば可能性はある」
冷静な判断。
正論。
「違う!」
セリアが食い下がる。
「この子は、そんなことしない!」
沈黙。
ガルドはしばらくセリアを見て——
そして、リオに視線を戻す。
「……いいだろう」
一歩、下がる。
「今はな」
完全に疑いが消えたわけではない。
ただ、“保留”にしただけ。
「だが覚えておけ」
低く言う。
「もし貴様が“それ”なら」
その視線は鋭い。
刃のように。
「次は斬る」
空気が張り詰める。
リオは、ほんのわずかに笑った。
「怖いね」
「そう思うなら、祈れ」
ガルドは背を向ける。
「人間であることをな」
討伐隊が動き出す。
村の調査。
残骸の確認。
そして、証拠の収集。
セリアはその場に立ち尽くしていた。
「……大丈夫?」
リオが言う。
「え?」
「顔、固まってる」
「そりゃそうだよ……」
小さく息を吐く。
「ねぇ」
「なに」
「バレてた?」
「半分くらい」
「半分ってなに!?」
「確信はない。でも疑いは強い」
「最悪じゃん……」
頭を抱えるセリア。
リオは少しだけ空を見上げた。
(……面白くなってきた)
追われる側と、追う側。
その構図が、はっきりした。
そしてそれは——
過去にも何度も繰り返してきた形。
「リオ」
「なに」
「これから、どうするの?」
静かな問い。
リオは少しだけ考えてから——
「さてね」
そう答えた。
だがその目は、すでに次を見ていた。




