第6章 第8話「創られた者たちの真実」
夜明け前。
ゼルヴァは——
まだ起きていた。
眠っていない。
ずっと——
空を見ていた。
「——起きてるか」
グラムの声。
「起きていた?」
「途中で目が覚めた」
「嘘だ」
「なんで分かる」
「寝息が——途中から変わった」
ゼルヴァが——
低く息を吐く。
「……起きていた」
「だろうな」
グラムが——
隣に座る。
「考えてたか」
「ああ」
「昨日の話か」
「ああ」
「答えは出たか」
「……出ていない」
「でも——」
少しだけ間。
「出かけている」
グラムが——
目を細める。
「どんな答えだ」
ゼルヴァは——
空を見たまま言う。
「話す」
「全部」
グラムは——
何も言わない。
ただ——
待つ。
ゼルヴァが——
ゆっくりと口を開く。
「俺たちが——作られた理由」
「孤独を埋めるため——と言った」
「うん」
「でも——それだけじゃない」
「他に何がある」
「恐怖だ」
グラムが——
目を細める。
「恐怖?」
「リオは——何度も転生する」
「記憶を持って」
「その記憶の中に——」
「裏切りがある」
「知ってる」
「何度も——裏切られてきた」
ゼルヴァが続ける。
「だから——」
「今回は——違うやり方をしている」
「命令しない」
「選ばせる」
「うん」
「それは——恐怖から来ている」
「また裏切られることへの」
グラムは——
黙る。
「俺が創造主を否定したいのも——」
「同じだ」
「同じ?」
「作られた——という事実への恐怖だ」
「目的のための道具だったという——」
「恐怖」
「だから——否定する」
「否定することで——」
「恐怖を——消そうとしていた」
グラムは——
その言葉を聞いて。
「……お前」
低く言う。
「昨日より——深いところまで行ったな」
「一晩——考えたから」
「それで——」
「怖いのか?」
ゼルヴァが——
初めて。
「……ああ」
認めた。
グラムは——
笑わない。
「そっか」
静かに言う。
「でも——」
ゼルヴァが続ける。
「もう一つ——気づいた」
「なんだ」
「昨日——お前が言った」
「この世界の上に——何かがいると」
「うん」
「俺たちを——俯瞰している何かが」
「うん」
「それが——全部決めたのかもしれないと」
「そう言った」
ゼルヴァが——
グラムを見る。
まっすぐに。
「その存在が——」
「リオも——作った」
沈黙。
「え?」
グラムが——
初めて驚く。
「リオを——作った?」
「正確には——」
「魔王という——仕組みを作った」
「転生する——仕組みを」
「誰が」
「分からない」
「でも——」
ゼルヴァが続ける。
「存在する」
「確実に」
「リオの——上に」
「俺たちの——上に」
「全部の——上に」
グラムは——
黙って聞いている。
「リオが俺たちを作ったように——」
「誰かが——リオを作った」
「正確には——リオが生まれる——仕組みを」
「その存在が——」
「この世界を——動かしている」
「均衡も」
「争いも」
「繰り返しも」
「全部——」
「その存在の——手の中にある」
グラムが——
低く言う。
「……それって」
「黒幕より——上ってことか」
「違う」
ゼルヴァが言う。
「黒幕と——繋がっている」
「繋がってる?」
「同じ根から——来ている」
「どういう意味だ」
ゼルヴァは——
少しだけ間を置く。
「想像してみろ」
「何かが——善意でこの世界を作った」
「均衡を——保とうとした」
「秩序を——作ろうとした」
「うん」
「でも——」
「作る過程で」
「何かが——零れ落ちた」
「零れ落ちた?」
「善意では——拾えないものが」
「行き場を——失ったものが」
グラムの目が——
わずかに動く。
「……ナイか」
「たぶん」
ゼルヴァが頷く。
「その善意の側が——」
「この世界を——作った何かで」
「零れ落ちた側が——」
「ナイだ」
「じゃあ——」
グラムが言う。
「その善意の側って——」
「何だ」
ゼルヴァは——
空を見る。
夜明けが——
近い。
空の端が——
かすかに白んでいる。
「分からない」
静かに言う。
「でも——」
「いる」
「確実に」
「それが——何かは」
「まだ——見えない」
グラムは——
その言葉を聞いて。
空を見る。
ゼルヴァと——
同じ方向を。
「……でかい話になってきたな」
低く呟く。
「ああ」
「俺たちだけじゃない」
「リオも——その仕組みの中にいる」
「そうだ」
「黒幕も——その仕組みから来ている」
「そうだ」
「じゃあ——」
グラムが言う。
「全部——繋がってるじゃないか」
ゼルヴァが——
初めて。
小さく——
頷いた。
「……ああ」
「全部——繋がっている」
「俺たちも」
「リオも」
「黒幕も」
「そして——」
少しだけ止まる。
「その上にいる——何かも」
沈黙。
夜明けの光が——
少しずつ——
広がっていく。
「ゼルヴァ」
グラムが言う。
「なに」
「お前——さっきより」
「軽くなったな」
ゼルヴァが——
わずかに目を細める。
「そうか」
「うん」
「全部——抱えてたからか」
「たぶん」
「話したら——軽くなった」
「……そうかもしれない」
ゼルヴァが——
低く言う。
否定しない。
「じゃあ——もっと早く話せば良かったな」
「うるさい」
「本当のことだろ」
「うるさい」
グラムが——
笑う。
今度は——
大きく。
その笑いが——
夜明けの森に——
響く。
ゼルヴァは——
何も言わない。
でも——
その目が。
昨日より——
ずっと。
澄んでいた。
「行くか」
グラムが立ち上がる。
「ああ」
ゼルヴァも立つ。
「全部——そこで分かるかもしれないな」
「分からないかもしれない」
「どっちでもいい」
グラムが笑う。
「行けば——見える」
「そうだな」
二人は——
歩き出す。
夜明けの光の中へ。
その光が——
二人の影を——
長く伸ばす。
遠くで——
鳥が鳴く。
世界が——
動き出す。
そして——
見えない場所で。
ナイが——
静かに見ていた。
「——真実に——近づいた」
低く言う。
「ゼルヴァ個体——核心を——掴みかけている」
少しだけ——
間があった。
「その上にいる——何か」
「感じているか」
「……」
長い沈黙。
「——アリオ」
その名前が——
初めて。
ナイの言葉の中に——
現れた。
誰にも——
聞こえない場所で。
「お前が——作った世界だ」
「どこまで——続く」
その言葉は——
問いのようで。
呪いのようで。
そして——
ほんのわずかに。
悲しみのようでも——
あった。
夜明けの光が——
世界を照らす。
全員が——
動き出す。
同じ場所へ。
その中心で——
何かが——
待っている。




