第5章 第4話「王都の空気」
王都は、祭りのようだった。
旗が飾られている。
花が撒かれている。
「勇者様——!」
「ガビ様——!」
通りを歩くだけで——
声が飛ぶ。
ガビは手を振る。
笑顔で。
迷いなく。
「……人気だな」
後ろを歩くガルドが——
低く呟く。
感情のない声。
「みんな、喜んでくれてます」
ガビが言う。
「ああ」
「嬉しくないですか」
「俺への声援じゃない」
「でも——」
「期待だ」
ガルドが遮る。
「期待?」
「あの声は——お前を見ていない」
「"勇者"という概念に向けている」
ガビは少しだけ——
その言葉を考える。
「……難しいですね」
「そういうものだ」
「ガルドさんは——」
「何だ」
「あの声、嬉しくないんですか」
「関係ない」
即答だった。
二人は王城へ向かう。
大きな門。
衛兵が頭を下げる。
通される。
廊下。
絨毯。
調度品。
すべてが——整っている。
「ガビ」
前方から声。
国王だった。
老いているが——
目は鋭い。
「よく来た」
「はい」
ガビが頭を下げる。
「調子はどうだ」
「問題ありません」
「力は——馴染んできたか」
「はい」
「それは良かった」
国王が笑う。
温かい笑み。
だが——
ガルドはその笑みを見て——
(計算だな)
そう思った。
感情ではなく——
政治的な笑み。
「ガルド」
国王が視線を向ける。
「はい」
「育成の進捗は」
「順調です」
「いつ頃——動ける」
「もう少し」
「具体的には」
「一ヶ月以内には」
国王が頷く。
「急いでくれ」
「各地の報告が——良くない」
「均衡が崩れている」
「知っています」
「魔族の動きも活発だ」
「知っています」
「だから——」
「急ぎます」
短い答え。
国王は少しだけ——
ガルドを見る。
何かを言いかけて——
やめる。
「頼む」
それだけ言って——
背を向ける。
廊下に——
足音が消えていく。
「……国王様って」
ガビが小さく言う。
「なに」
「なんか——疲れてる感じがした」
ガルドは答えない。
「心配してるのかな」
「世界のことを」
「当然だ」
「でも——」
ガビが続ける。
「なんか、別のことも心配してる気がして」
ガルドが——
わずかに目を細める。
(鋭いな)
だが——
「余計なことを考えるな」
と言った。
「任務に集中しろ」
「はい……」
ガビは頷く。
素直に。
疑わずに。
二人は廊下を歩く。
窓の外。
王都が広がっている。
旗が風に揺れている。
その景色を——
ガビは眩しそうに見る。
(守りたい)
この景色を。
この人たちを。
その思いは——
本物だった。
純粋で。
真っ直ぐで。
疑いのない——
本物の気持ち。
だから——
余計に。
「——良い素材だ」
ナイの声が——
どこかで響く。
誰にも届かない場所で。
「純粋であるほど——」
「深く、入れる」
その言葉は——
王都の空気に溶けて。
消えた。
旗が——
また揺れる。
祭りのような街で。
誰も——
気づかない。




