第6話「理解と拒絶」
ざわめきは、しばらく消えなかった。
視線。
警戒。
そして——
畏れ。
リオが一歩進むたびに、空気がわずかに揺れる。
道が、自然と開く。
「……露骨だな」
リオが呟く。
「いや、これ普通じゃないからね!?」
セリアが小声で返す。
「めちゃくちゃ見られてるし!」
実際、視線は刺さるようだった。
だがそれは“敵意”だけではない。
もっと複雑なもの。
「……混ざってる」
リオが言う。
「え?」
「恐れと、期待と……反発」
「反発?」
「うん」
その証拠に。
「——止まれ」
低い声が響いた。
前方。
一人の魔族が立ちはだかる。
腕を組み、睨みつける。
「グラム、何を連れてきた」
「見ての通りだ」
軽く返す。
「ふざけるな」
その視線が、リオに向く。
「なぜ人間を——」
言葉が、止まる。
一瞬。
ほんの一瞬だけ。
目が揺れる。
(……感じた)
セリアにも分かった。
この人も、“何か”を感じた。
だが——
「……っ」
歯を食いしばる。
「関係ない」
無理やり押し込める。
「ここは人間の来る場所じゃない」
「だとよ」
グラムが肩をすくめる。
「どうする?」
リオは少しだけ考えて——
「別に帰ってもいいけど」
「え?」
セリアが驚く。
「いいの?」
「無理にいる場所でもないし」
あっさり。
だが、その言葉に。
ざわ、と空気が揺れた。
「……逃げるのか」
魔族が言う。
挑発。
「逃げる理由もないけど」
リオは視線を向ける。
「歓迎されてないなら、意味ないでしょ」
淡々とした言葉。
だが、その中に妙な余裕がある。
「……っ」
魔族が言葉に詰まる。
そのとき。
「——通せ」
別の声。
奥から、年配の魔族が現れる。
周囲の空気が変わる。
「長……」
誰かが呟く。
「客だ」
短く言う。
「それも、特別なな」
視線がリオに向く。
一瞬だけ。
深く、測るように。
「……入れ」
道が開く。
今度は、明確に。
拒絶ではなく——
受け入れ。
だが、それでも。
完全な歓迎ではない。
その中を歩きながら。
セリアが小さく言う。
「……ねぇ」
「なに」
「なんか、怖い」
正直な感想だった。
リオは少し考えてから、
「正常だよ」
と答えた。
「え?」
「ここは、そういう場所だから」
人間の価値観が通じない場所。
弱ければ奪われる。
強ければ従われる。
単純で、残酷な世界。
「……私、あんまり好きじゃない」
セリアが呟く。
「だろうね」
「リオは?」
「嫌いじゃない」
即答だった。
セリアが顔を上げる。
「なんで?」
少しだけ間。
リオは前を見たまま言う。
「分かりやすいから」
「……分かりやすい?」
「うん」
「嘘が少ない」
その言葉に、セリアは黙る。
周囲を見る。
確かに。
敵意はある。
警戒もある。
でも——
(隠してない)
人間みたいに、裏で何かを企んでる感じじゃない。
全部、表に出ている。
「……それでも」
セリアは言う。
「傷つけることが前提なのは、嫌」
「それも分かる」
リオは頷く。
「どっちも正しいよ」
「え?」
「ここも、君も」
その言葉に、セリアは少しだけ驚いた顔をする。
「じゃあ……どうするの?」
その問いに。
リオはすぐには答えなかった。
(……どうする、か)
過去の記憶がよぎる。
支配したこともある。
放置したこともある。
壊したこともある。
どれも——
うまくいかなかった。
「……まだ決めてない」
それが、今の答えだった。
セリアは少しだけ安心したように笑う。
「そっか」
そのとき。
前方で、グラムが振り返る。
「おい、こっちだ」
広場のような場所に出る。
中心には、石の台。
そして——
多くの魔族。
全員が、見ている。
試すように。
測るように。
「……さて」
グラムが笑う。
「ここからが本番だぜ」
その言葉通り。
ここから——
“選ばれる側”ではなく。
“選ぶ側”としての時間が、始まる。




