宇宙の管理者は今日もサボろうとする
ユーライザから連絡が来るのは週に一回か二回だ。
管理者としての仕事が発生したときだ。
最初の一ヶ月で、脱落した星の状況確認を全部終わらせた。グリード人の星、ヴェルカ人の星、ザウロの星、ウォーレン人の星、全部状況を確認して、最上位宇宙に保護申請を出した。全部通った。
ザウロから連絡があった。
不思議な回路を通じて、声みたいに頭に届く感じで。
「約束を覚えていてくれたのか」
「覚えてると言った」
「感謝する」
「子どもたちは元気か」
「元気だ。お前の話をしたら信じなかった」
「地球人の高校生が宇宙の管理者か、普通信じないな」
「お前は面白いやつだ」
「よく言われる」
「いつかまた話したい」
「こちらも」
トーナメントは廃止された。
下位宇宙の間引きは、別の方法で調整されることになった。具体的にはヴァールが考えた。宇宙の膨張を調節する仕組みを作るらしい。管理者の権限でできる。直樹には詳細がわからないが、ヴァールが「任せてくれ」と言ったから任せた。
「信用しすぎじゃないのか」
彩に言われた。
「向いてることを向いてるやつに任せる。地球の話で言ったら合理的だろ」
「地球と宇宙じゃスケールが違いすぎる」
「でも基本は同じだ」
「直樹はおおざっぱだな」
「ヴァールが細かいから大丈夫だ」
「真逆の性格なの?」
「真逆だと思う。でもなぜか話が合う」
「性格が違う方が補い合えるんじゃない」
「そうかもな」
---
学校は普通に続いている。
数学のテストで初めて平均点を超えた。
彩が異様に喜んだ。
「やばい。感動した」
「大げさだ」
「大げさじゃない。あんたが平均点超えたって、ほぼ奇跡だよ」
「ひどい言い方だ」
「事実だよ」
「もっと喜ばせる成績取ってやる」
「期待してる」
「期待してろ」
---
男バスに顔を出した。
助っ人として、週二回。
最初は部員たちが固まっていた。元エースが戻ってきた、みたいな空気があって居心地が悪かった。
でも一時間も一緒にやれば慣れる。
背番号7の右肘を指摘した。
「気づいてたけど直せなかった」
「意識するだけで変わる。やってみろ」
やってみたら、シュートの軌道が変わった。
「入った!」
「だろ」
「なんで直るんですか。教えてもらうまで誰にも言われなかったのに」
「見てたから」
「え。いつ」
「ちょくちょく」
「屋上から見てたって話、本当だったんですね」
「彩から聞いたか」
「はい」
「あいつはしゃべりすぎだ」
「でも先輩が気にかけてくれてたって聞いて、うれしかったです」
直樹は少し黙った。
「……練習、頑張れ」
「はい!」
悪くなかった。
こういうのも、悪くなかった。
---
ある夜。
ヴァールから連絡があった。
「緑色の空の星は、どんなところですか?」
違う。直樹が聞いたのは赤い空の星だった。
「ヴァール、お前の星は緑色の大気じゃなかったか」
「ああ。でも正確には、朝は緑で夕方は赤くなる。その中間の時間帯が一番美しい」
「そうか」
「いつか見に来い」
「行けるのか」
「管理者なら移動の制限は少ない」
「行ってみたい」
「招待する。子どもたちに会え。お前の話をしたら半信半疑だったが、会いたいと言っている」
「会いたい」
「では決定だ」
「彩も連れていっていいか」
「幼馴染か。もちろんだ」
「あいつは驚くな」
「驚かせてやれ。人生、そういう驚きは多い方がいい」
「同意する」
「では、また連絡する」
「待ってる」
---
屋上。
夕暮れ。
彩が隣にいる。
「ねえ」
「なに」
「宇宙の管理者って、暇な時間ある?」
「ある。というか今がそうだ」
「管理者の仕事中は?」
「週に一回くらいの対応だ。あとはヴァールが大抵なんとかしてくれる」
「あんた楽してるな」
「役割分担だ」
「ヴァールが気の毒だ」
「向いてることをやってるから本人は楽しいらしい」
「そうか」
彩は空を見た。
「直樹、さ」
「なに」
「今、楽しい?」
直樹は少し考えた。
「楽しい」
「全部が?」
「全部が。数学以外」
「数学は楽しくなれないの」
「楽しくはないけど、わかると少し面白い」
「それで十分だよ」
「そうか」
「うん。全部が楽しくなくていい。何かが楽しければいい」
「何が楽しいかわかってればいい、ってことか」
「そう」
「お前がいること、かな」
「…………」
「隣にいること」
「……それは」
「それが一番楽しい」
彩はしばらく黙った。
「言い方、ずるいな」
「ずくないだろ」
「ずるい。そんなこと言ったら勝てない」
「勝ち負けじゃない」
「……そうだね」
彩は笑った。
今まで見た中で一番すっきりした顔で笑った。
「あたしも楽しい」
「そうか」
「直樹の隣がやっぱり好きだ。昔から」
「昔からか」
「ずっとそうだった。バスケしてるの見てた頃から」
「なんで早く言わなかった」
「言えるわけないじゃん」
「なんで」
「あんたが気づいてくれなかったから」
「俺のせいか」
「半分は。でも半分はあたしも言えなかったから、半分は自分のせい」
「公平な分担だな」
「でしょ」
「お互い気づくのが遅かった」
「そうだね。でも」
「でも?」
「今気づいたから、これからでいいかなって思う」
「これから、か」
「うん」
「長いな」
「長くていい。長い方がいい」
直樹は空を見た。
宇宙は広い。
でも今は地球だけでいい。
この学校だけでいい。
この屋上だけでいい。
隣にこいつがいるだけでいい。
「じゃあよろしく」
「よろしく」
夕暮れが金色に変わっていた。
ヴァールの星の空に少し似ているかもしれない、と直樹は思った。
でもやっぱり地球の夕暮れの方がいい。
ここが、帰るべき場所だから。




