68.シケクド草を探そう
あっ、これ無理だ。無理無理。退散。
ごめんね土ゴーレムちゃん。犠牲は無駄にしないよ。
そりゃみんなもスルーするよ! あんなの倒せっこない。
幸い、バッドマイマイは追撃してはこないみたいだ。さっさととんずらしよう!
慎重に元いた通路から離れて、ようやく一息ついた。
うーん。甘く見てたよね。ここは東沼ダンジョンの8層。ストーンランクのソロ冒険者には、本来、荷が重い場所だ。
ここに来た目的はシケクド草の採取だ。それ以外のことに、欲目を出してる場合じゃないよ。
いつかは倒してみたいな。あの通路の先も気になるし。でも今じゃない。今はスルーしていこう。
濃い魔力のエリアから離れていく。目指すは9層だ。
薬師だから森での活動が多い分、方向感覚とかは鍛えられてるんだ。このダンジョンの広さからすれば、そろそろ次の階段が見えてくるはず。
通路が少し広くなってるところに出た。十字路になっていて、交差点の先にあったよ。下に降りる階段。
階段脇の岩陰に、バレバレだけどコボルドが三匹。ははーん、また階段前に落とし穴があるな?
どうやって倒そうかな。こちらも隠れて様子を伺ってたら、おや? 十字路の右の通路からも気配が……。
他の冒険者パーティだ。
パワフルな棍棒を担いだ女性を先頭に、ネコっぽい動きの軽装の女性と、スタッフを持った魔法使いっぽい細身の女性の三人組。
落とし穴がありそうな方へ向かっていくけれど、こんなところにいるくらいだ。それなりの実力者たちだろう。7層も通ってきただろうから、落とし穴にも気付いているはず。
ようし、どうやって切り抜けるか見てみよう。他の冒険者の対応の仕方を見るのも勉強だよね。どれどれ。
まず、パワフルなお姉さんが前に出て、おっきな棍棒を……地面に叩きつけた!
地面が振動して、隠れてたコボルドたちが飛び上がって出てきたよ。
そこをすかさずネコのお姉さんが投げナイフで一匹倒す。続いてスタッフお姉さんのアロー系の魔法が飛んでいく。二匹目。
気付いたらすでに、パワフルお姉さんが棍棒で三匹目を倒してた。あっという間だ。
最初の振動で崩れて現れた落とし穴を、大股で跨いで、あるいはジャンプで飛び越えて、こともなげに三人は階段を降りていった。
うん。真似のしようがないね。
けっこうな実力者だったみたい。このあたりなんてまだ通過点でしかないんだろう。私がこそ見してたのも気付いてたようだね。ネコのお姉さんが後ろ手で、こっちに手を振る余裕もあったくらい。
やれやれ。あの域になるまでにはまだまだ修行が足りないよ。でも私は私で、自分のペースでのんびりやろう。ということで、便乗して私も落とし穴を飛び越えて進ませてもらいやーす。
***
階段を降りたら、もうさっきの三人組は影も形もなく、さっさと先へ進んだみたい。
さて9層だ。
9層に出る魔物は、ポイズンバッドと、精霊ノームだよ。
ポイズンバッドはその名の通り、毒を持ったコウモリ。また飛ぶやつが出てくるよ! 巨大コウモリよりかは幾分小さく、毒々しい赤みがかった体だ。飛ぶスピードも速いらしい。
精霊ノームは四大精霊といわれている精霊種のひとつで、この四大精霊とは戦わないように、と冒険者ギルドで教わった。
なんでも向こうから攻撃してくることはほとんど無く、近寄らなければ問題なく通り過ぎることができるようだ。
といっても、けっして人間に友好的というわけでもないらしい。うっかり怒らせると戦闘になっちゃうよ。むやみに関わらないようにしようね。
ここに来た目的のシケクド草を探すよ。
階段近くにあるといいんだけどなあ。そううまくはいかないかな。雑草はそこここに生えてるけれど、お目当てのシケクド草はなかなか見当たらないね。
この9層はヒカリゴケが気持ち多めで、見通しが良い。ときおり壁の罠が発動して、頭の上を矢がスコーンスコーンと通り過ぎていくけれど、それ以外は順調に進んでいるよ。
お、水の音が聞こえてきた。
水場があるということは、植物が育ちやすい環境だということだ。行ってみよう。
少し進んだところに、大きな円形の広間になったところがあった。
その中央に、こじんまりとした泉のようなものがある。あれが水の音の発生源だな。泉の周りには、様々な種類の草が、たくさん生えている。
ここならシケクド草がありそうだぞ。よし、ここで腰を据えて探してみよう!
まず泉の水を確認だ。少し掬って見定める。水の見極めも得意だよ。薬師だからね。
ヒカリゴケに近づけたり、ちょびっと舐めたりしてみた。やや硬水寄りかな。濁りは少なめで、これなら飲用にも問題ない。ごくごく。
飲めるということは、コウモリが寄ってくる可能性があるな。あまり長居はできないかも。
シケクド草は湿気を好むから、このあたりにあるはずだ。急いで探そう。
見た目は普通の雑草と大して変わらないから、他の草と紛れてしまうと見つけにくいんだ。重要なのは目で見るだけじゃなく、匂いだよ。
ちょっと生臭い匂いがするんだ。あまり嗅ぎたくはないけどね。
這いつくばって、泉の周りを周りながらくんくんと草の匂いを嗅いでいく。いろんな草の匂いがするけれど、その中に、ようやくお目当ての匂いを嗅ぎ当てたよ。
匂いを頼りにガサゴソと進んでいくと、シケクド草と、茶色いブーツが目に入った。
見上げたら、ちっちゃいおじいちゃんみたいな精霊ノームが、四つん這いの私を見下ろして、ぼそっとつぶやいた。
「…………なんじゃコイツ」




