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皆にはイヤな思いをしてもらいたいものです

 新米冒険者であるウィル、セラ、ユリィ、リタの懐は、安宿に泊まるのがせいぜいで、小さいとはいえ一軒家を借りるだけのまとまった金などなかったのは、先日までの話である。


 ウィルたちはゴブリン・イグナイテッドの率いるゴブリンの大群を撃破したが、その報酬はミューゼの村からの当初のゴブリン退治の分と、サリアの提示した追加分のみで、決して労力と戦果に見合ったものではない。


 それでも報酬の一部である荷馬車を叩き売れば、それなりのまとまった金になるが、ウィルたちのいる借家の小さな馬小屋には、その時の報酬の一部である荷馬車があった。


 この借家の前家賃や保証金となったのは、ゴブリンたちからの戦利品だ。


 ゴブリンの武器は粗末な物ばかりで、売っても大した金にはならない。が、今回は多くのゴブリンを討ち、粗末の武器とて大量入手したので、チリも積もれば何とやらという値で売れた。


 だが、それより大きかったのは、ゴブリンたちがいくつもの村を制圧した直後だけあって、その懐に小金や小物があったことだろう。当然、数が数ゆえ、それをかき集めればそれなりの額となった。


 かくして、充分な資金を手にしたウィルたちは、大ネズミ退治の時に知り合ったコラードの元に行き、不動産屋を紹介してもらったのだが、そこにはサリアが同行していた。


 正確には、ウィルたちがミューゼの村から出た時に彼女もくっついて来て、故郷を捨てて共にいるのだ。


 当然、ウィルたちはサリアに理由を問うており、


「あれだけの被害を受けては、村には前途なんてありません。留まっても、生活はどんどん苦しくなり、遠からず村を捨てることになります。なら、余裕がある内に次の生計を立てた方が正解です」


 ドライだが間違った見解と判断ではない。


 ただ、サリアの割り切りに釈然としないものを感じてセラは、

「故郷を捨てることになりますよ? 良いのですか?」


「愛人の子と蔑まれるだけの故郷に未練なんてありません。これまで私にイヤな思いをさせてきた分、故郷の皆にはイヤな思いをしてもらいたいものです」


 顔立ち自体は可愛いのだが、表情が暗いだけではなく、性格も暗い娘は、暗い笑みを浮かべながらそう答えた。


 もちろん、ウィルたちに一から十までサリアの面倒を見る義理はない。しかし、考えは暗くとも甘くない娘の手元には、当座の資金があった。


 懐をそこそこ重くしている現金は、家に隠してあった金である。つまりは、ウィルたちへの報酬として渡したのは全額ではなく、半分以上は自分の懐に残しておいたのだ。


 さらにサリアは、自宅から村の権利関係の書類一式を持ち出していた。


 硬貨や小物は目ざとく奪っていくゴブリンだが、書類、紙切れには

目もくれない。だが、廃村となるであろうミューゼの権利関係であっても、その紙切れにはまあまあの金となるだけの価値は残っていた。


 決してほめられた性格や考え方ではないが、その背景を思えば突き放すわけにもいかないし、サリアも同情を強引に売りつけるようなバカではない。


 ウィルたちの懐を当てにするような素振りは見せず、自らの生活費は自分の懐から出し、借家を借りる際の資金もこれからの家賃の払いも、五分の一はきちんと出している。また、一方的に世話になるだけではなく、戦利品の運搬を手伝うなど、ギブアンドテイクをわきまえている。


 加えて、ウィルたちにレンタル代を払って荷馬車を貸してもらい、

荷運びで生計を立てようとしているので、


「直に起こる一時的な食糧不足を利用して、一儲けしてみませんか?」



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