皆さん、ご在宅ですか?
ウィル、セラ、ユリィ、リタ、そしてサリアの共同生活の場となっているのは、古ぼけた小さな馬小屋が併設されている以外は、一家族がどうにか暮らせる程度の古い借家だ。
基本的に寝室と台所という間取りで、後は小さな床下収納庫と狭い屋根裏があり、寝室に女四人、屋根裏にウィルの粗末な寝台がある。
この地区の共同井戸からはやや離れている点は不便だが、馬小屋付きの物件とはいえ、五人分の宿代を思えばいくらか安上がりとなる。さらに自炊できる点も加えれば、経済的な負担もずっと軽くなる。
戦利品の売却と新居の整理も一段落つき、その日も床下収納庫に詰めるだけ詰めた食材の一部を使い、台所で夕食を取った後、サリアは四人にそのような提案をした。
「ミューゼとか、あの辺りの村はどこも、収穫とかって状態じゃないからな。サリアの意図は何となくわかる」
ミューゼのある一帯の村々は田畑をゴブリンに踏み荒らされたが、それ以前に収穫に取りかかれる状態にはなかった。
町の周りにある村々は、朝早くいくつか野菜をもぎ、それを町に売りに来るのだが、ミューゼら被害を受けた村の小売りが途絶えたところで、食糧の価格に大した影響はない。
「スウェアの周辺の村は収穫物をこの町の商会に買い上げてもらうだろうから、買い上げる収穫物の量が減れば減るほど、価格は高騰するものだ。たしかに、そうした状況を利用できれば金を稼げるという話もわかる」
ユリィが言うとおり、問題は収穫期の後である。
秋になれば、農村は田畑の実りを刈り入れ、それを近隣の商会が買い上げる。仕入れた穀物などを商会は業者に卸したり、市場に流したりして、小売りによって儲けるのが基本的な原理なのだが、大量に仕入れて売ればそれだけ儲かるほど、市場原理は単純にできていない。
需要より多く供給すれば商品が余ってしまい、余剰分を何とか売るために値下げが起きる。そして、需要より供給量が少なければ、人々は必要分を確保しようと例年より高くとも買っていき、それが更なる値上げを招く。
今年はミューゼなどの村からの買い上げ分がなくなるのだから、全体的に供給量が減るのは明白であり、食糧品の高騰は避けられない。
食糧品が高くなると思い至ったからこそ、ウィルたちは床下収納に入るだけの保存の効く食べ物を買ったのだ。
ただ、それだけではこれから起こる値上がりという嵐を避けるための自衛策でしかなく、売るだけの量はない。
「だが、それは絵に描いた黄金のようなもんだ。オレたちには資金、仕入れ、輸送、保管の術がない」
ウィルの指摘にユリィとリタはうなずき、
「どういうことですか?」
セラは小首を傾げる。
「先の冒険でオレたちはそれなりに稼いだが、そんなもんでは小売りの一つもできんということだ」
ゴブリンからの戦利品で儲けたとはいえ、その程度では小商いもできないほど、商売というのは金が動く。
大量の現金を用意するのが困難ゆえ、商会はもちろん、個人の商人でも為替や手形で仕入れを行う。だが、為替や手形はその商人が信用
できるという前提のものゆえ、ウィルたちの素人の振り出す手形など、文字どおりの紙切れでしかない。
「仮に資金があったとして、私たちには商売に関するノウハウやコネがない」
「まっ、適当な商会で買い付けをすれば、必ず足元を見られるやね。で、割高な食糧をあの荷馬車で運べる量を売っても、足が出かねない。でも、人を雇って大量の食糧を運んでも、それを保管する場所がない」
「……なるほど」
漠然とだが、セラはこのプランの欠点を理解する。
手持ちの資金で買える量の食糧では、高騰する点を見込んでも、輸送費などのコストを思えば、収益が出るか微妙なのだ。
そして、儲かるだけの食糧を扱える用意がウィルたちにはない。
が、それらの指摘にサリアは慌てることも、自信のある暗い笑みを崩すことなく、
「すいませ~ん。皆さん、ご在宅ですか?」
しかし、彼女がその意図を口にしようとした瞬間、玄関から聞き覚えのある女性の声が響いた。
ストックが完全になくなったので書きたまるまで更新を停止します。




