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いずれは勇者、英雄と称えられたいだろ?

 昼のだいぶ前に依頼先に着いたはずなのに、コラードが言いたいことを言い終わった時には、昼までいくらか近い頃となっていた。


 反論できる立場でないカイムたちと、これも報酬の内と割り切ったウィルたちは、くどくどと非難、嫌味、グチを言われて気疲れしていたこともあり、


「……少し早いけど、お昼にしない」


 このメリルの提案に、誰も反対しなかったので、ウィルたち四人は驚くことになった。


 ウィルたちが携帯食糧ですませようとしたのに対して、カイムとメリルは近くの食堂で、毎日、昼食を食べているという。


 カイムとメリルのランチは別段、おかしなものではない。冒険者は仕事中、携帯食糧を口にせねばならないという規則があるわけではない。むしろ、味気がない携帯食糧があろうが、マトモな食事が口にできるなら、冒険者は食堂などを利用する。


 ただし、それは懐に余裕のある冒険者の話である。駆け出しの冒険者は、安くて味気のない携帯食糧で我慢するのが普通だ。


 懐に余裕のない新米冒険者四人だが、これから共に仕事をする相手ではあるし、その仕事の打ち合わせもせねばならないので、苦渋の決断の末、懐に余裕のある新米冒険者二人に合わせることとし、近くの食堂で最も安い食事を注文した。


 昼に近づくにつれて混み出してきた食堂で、六人はテーブルの一つを囲み、改めて互いの自己紹介をしてから、


「どうして、君たちは冒険者になったんだ?」


 カイムにそう問われたウィルたちだが、四人は「孤児院の出身で生活のため」としか答えようがない。


 この返答はお気に召さなかったらしく、メリルは感じの悪い笑みを口の端に浮かべ、カイムも何とも言えない表情となったが、気を取り直したか、


「ボクは世の邪悪を斬るためさ。いずれは魔王も倒して、勇者と言われるようになってみせる」


 たったこれだけで、ウィル、ユリィ、リタ、そしてセラにもわかった。こいつはバカなのだ、と。


 いや、こいつらと言うべきか。カイムの宣言に、メリルは笑うでも呆れるでもなく、満足げにうなずいている。


 四人は携帯食糧よりマシな昼食を口にしながら、自分の実力を過信し、名声欲をむき出しに語るカイムの話を聞き流す途中で、二人の懐に余裕がある理由を理解した。


 カイムとメリルはそこそこ良い家の末っ子として生まれたためか、甘やかされて育ったらしい。冒険者として旅立ち際、親からまとまった金をもらったそうだ。


「ウィル。君も冒険者になったからには、世のため人のために邪悪と戦い、いずれは勇者、英雄と称えられたいだろ?」


「いや、冒険者でいくらか実績を積んだら、それをセールスポイントに衛兵とかに採用されたい。後は可愛い嫁さんをもらって、安定した家庭を築きたいかな」


 同業者とはいえ、あまり親交を深めたい相手ではないので、ウィルは愛想なく正直なところを述べた。


 気に入らない答えにカイムは鼻白み、メリルは小バカにした小さな笑みを浮かべる。


 この反応にセラはややむっとした表情となったが、それに気づくことなく、また気を取り直したカイムは、


「ボクは正規の剣術を修めているし、メリルは正統な魔術を修めている。本当はトロール退治くらいから始めたかったんだけどね」


 掲示板に貼られている依頼は、誰でも受けられるわけではない。


 トロールは人の倍の背丈、石のように硬いヒフ、再生能力も有する怪力の怪物で、腕の立つ冒険者でなければ確実に返り討ちにあう。


 新人がトロール退治の依頼票を持っていっても、冒険者ギルドの受付は受理しない。冒険者ギルドはあくまで仲介するだけとはいえ、明らかに失敗する者を依頼先に送っていては、組織としての信用を失うことになる。


 新人二人ではゴブリン退治すら任せてもらえないので、


「仕方なく、できる依頼を片っぱしからこなすことにしたんだよ。まったく、ギルドのお役所仕事には参るよ」


 ウィルたちには、新人がワガママを言って、ギルドの受付を困らせる図が容易に想像できた。


 コラードは依頼主だからグチも報酬の内と割り切ったが、カイムたちに気を遣うだけの利益はない。


「そのできる依頼につまずいたわけだ」


「向かって来さえすれば、大ネズミなんてカンタンに倒せるんだ。逃げ回りさえしなければ、とっくにこんな仕事は終わっていた」


「ええ。実際に私たちは、向かって来た大ネズミを一匹ずつ、剣と魔法で仕留めたわ」


 吐き捨てるようなカイムと憮然とうなずくメリルのセリフを聞き、ウィル、ユリィ、リタは内心で呆れた。


 大ネズミと言われるが、そのサイズは子犬程度、人間の方がずっと大きい。なので、大ネズミも普通のネズミも人間を見たら、まず逃げるという同じリアクションを取る。そして、普通のネズミのように、逃げにかかった大ネズミに人間が追いつくのはまず不可能だ。


 興奮状態にある大ネズミなら、労働者に噛みついたように、カイムやメリルに襲いかかったように、逃げずに向かって行くことがある。


 不意打ちを食らわない限り、人間が大ネズミに遅れを取ることはない。実際にカイムとメリルは剣と魔法であっさりと返り討ちにしている。


 しかし、襲いかかって行かない大ネズミは、剣を振るうより、魔法を使うより早く逃げ去ってしまう。


 とりあえず、カイムとメリルが実力はさておき、無為無策であるのがわかったウィルは、


「一つ提案があるんだが、報酬は大ネズミを仕留めた数で割らないか?」



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