あなた方のような新人ではない
大ネズミ駆除の依頼は、スウェアの町の公共工事、区画整理に関するものだ。
町の中に廃屋の固まっている一角があり、そこを解体しようとしたが、人は住んでなくとも大ネズミが何匹も棲みついていたため、解体作業は中断。しかし、中断したまま放置できないので、大ネズミを駆除を冒険者ギルドに依頼したのだ。
「この仕事は報酬こそ安いが二つの利がある。一つは町の人間、労働者たちと顔見知りになれることだ。町の人間と顔見知りになれば、町での情報収集など、今後の活動がやり易くなるはずだからな」
金額にばかりに目がいき、そうした視点を持たなかったことに、セラは衝撃を受けると共に、自らの不明を恥じた。
「もう一点は、ゴブリン退治に限らないが、同じ仕事ばかりに偏るのは良くないと思うからだ。色々な仕事をした方が幅のある経験が積める。同じ経験を積むのが悪いことではないが、そこに慣れが生じてしまえば、ゴブリンが予想外の行動を取った時、遅れを取るかも知れんからな」
人脈と経験。
金では得られないその報酬の重要さはセラにも理解できたので、眉間のシワはいつの間にかなくなり、当人も気づかぬ内にいつもの笑顔に戻っていた。
「後、心に留めておくべきは、こいつが追加募集ってくらいか」
冒険者が依頼を受けたはいいが、雇った側がその冒険者だけでは達成困難と判断した場合、冒険者を追加で雇うことがある。
追加募集をかけられるということは、力量不足と判断されたということであり、冒険者にとっては不名誉なことだ。
「先は二人組で、剣士と魔術師という組み合わせみたいだな。まっ、こんな仕事を受けるくらいだから、オレらと同じ新米だろう」
「いや、あなた方のような新人ではないと思いますよ」
そう思わないでもないセラであったが、そのツッコミは胸の内にしまった。
ウィル、ユリィ、リタに加え、セラも納得したので、いつまでもギルドの隅にいる必要はない。
四人は追加募集の特記事項のある依頼票を掲示板からはがし、亜麻色の長い髪のキレイな女性が立つ、ギルドの受付カウンターへと向かった。




