#1‐1 お仕えしておりますお嬢様と、夜会に赴きます
今更な、悪役令嬢ものを書いてみようかと…。
悪役令嬢もの私は、好きでよく読んでいます。で、色々、その周りの人物の背景とか、宮廷の背景とか勝手に妄想を広げるのが好きで…要は、それができたらなぁと。拙いながら…。
ファンタジーです。現実の西欧中世風と近代と日本の明治・大正に現代も混ざっていて、時代考証もなにもないです!良いんです。好きな世界を作るのがファンタジー~。細かいことはお気になさらず、さらっと、ふわっと読んでいただければと存じます。
1.
高い天井からは、色とりどりの魔灯が下がっている。十一月二十五日、今日の、『建国記念夜会』のために、特別に造形されたクリスタルで飾られている。そのクリスタルが、屈折させ分光した、幾万ともいえる色調の光が、満点の星々よりも、煌びやかだ。磨き抜かれた白い大理石の壁や鏡が、更に光を反射する一方、杉、桜、マホガニー、チーク様々な木々を寄木して作られた天井、壁との境にあるコーニスやレリーフを彩る暗めの金や木の色、壁に飾られる重厚な色調の絵画や、床に敷かれた深紅の絨毯は煌めきを適度に抑え、夜会ホールは、荘厳ささえ感じさせる。
耳を傾ければ、宮廷オーケストラが、奏でている弦楽五重奏が、流れている。耳に心地よく流れる音楽は、集まった貴族達のささめきを、少し控えめにさせる。今は弦楽だが、オーケストラボックスには、金管楽器を抱える楽団員も座っており、国賓や国王の入場時、あるいは夜会が始まれば、華やかな音楽を奏でるのであろう。
夜会ホール内は、盛装に身を包む王国貴族達が、小さなグループを作りながら、談笑している。男女とも大半は『帝国式洋装』のうち、夜会などにふさわしいイブニングと呼ばれる盛装を着ている。男女とも、色とりどりだが、形は、ほぼ固定されている。男性は、スラックス、ベストにジュストコール。女性は、体に沿い、ベアトップというかビスチェタイプというか、胸元から腕を大きく出した上衣に、床まで届くスカートというドレスだ。元々、この『ペルフェアドゥス王国』は、とある別世界の日本と同じ、『着物』が、伝統的な服装だ。手袋をしているとはいえ、首から肩や腕を露出する装いに、やや抵抗があってか、ストールをかける女性も、そこそこいる。着物を着ている貴族も、少数派だが居る。女性の色留や振袖は、ドレスが単色から同系色なのに対し、彩々の柄で、ホールの華やかさを増している。
宮廷騎士が、左右に並び立つ入口からは、入場する者の名を読み上げる儀礼官長の声が、朗々と響いている。儀礼官長が、名を読み上げるのは伯爵以上だけだが、国王や国賓も参加する夜会だ。たとえ高位貴族でも、身体チェックをされる。入場には、それなりに、時間がかかるのだ。男爵や子爵位であれば、入場にも並び、上位貴族の入場が終わるのを、会場でも延々と待つことになる。前エリティス公爵である祖父、緋凰玄司と入場した、緋凰星麗は、遅めに入場した方だ。祖父のエスコートを受け、かけられる声に笑顔で返しながら、二人は、壁にところどころ設けられたアルコーブに立ち止まった。さりげなく、玄司の近侍と星麗の侍女が、二人の姿を隠す。
「星麗…本当に、良いのか?」
心配そうな顔の、祖父玄司を、見上げる星麗は、のどかな笑みを、浮かべている。一方、アルコーブ入口に控える、侍女、青木燈子は、必死で無表情を装っている。この夜会で、起こるであろうことに、緊張で、手にじっとり汗をかき、口はカラカラだ。反対に控える、同じく侍女の館花侑華を、横目で見る。彼女の横顔も、無表情だ。藍色のまとめ髪も、普段通り、一糸乱れぬ状態なのだが、燈子には、侑華が、緊張しきっているのが、わかる。
『主人』星麗は、年が明ければ十八歳になるが、十二、三歳かと思うほどに、かなり小柄で華奢だ。しかし、真直ぐに背を伸ばし、凛としている姿は、小さくは見えない。透き通った象牙色の肌、卵型の顔の中、大きく少し垂れた瞳が、親しみやすさを、醸し出す。夏空色の青い瞳。その虹彩には、金や銀、赤や紫と彩々の星が散っている。不思議な瞳だ。クリスタルを通した魔灯に煌めく銀髪は、根元付近や、陰になった部分が、薄紅に見える。未婚の女性らしく、ハーフアップにしているが、肩や胸元に垂れた髪が、陽光に輝きながら散る桜の花弁、さながらだ。身を飾るドレスも、流行の先を行く、斬新かつ上品なものだ。『婚約者』が『送ってきた』、『独特』な生地を、美しいドレスに変えたのは、星麗のアイディアだ。燈子は、その時を思い出し、『ぷちざまあ』を感じ、少しだけ留飲を下げる。
因みに、贈られた生地は、灰色がかった緑の…有体に言おう、溝色のドレス生地だ。特別な夜会では、婚約者同志で自分や相手の瞳や髪の色の、宝飾やドレス、ドレス生地などを贈るのが、慣習だ。確かに、婚約者の髪は緑だが、エメラルドグリーンだ。罷り間違っても、こんな色ではない。
「はい。私は、何一つ、後ろ暗いことなど、ありませんもの」
星麗が、凛とした佇まいと正反対の、のどかな口調で、答える。燈子が、つらつらと、考え事ができる、たっぷりの間の後だ。彼女は、行動の全ての速度が、大変に遅い。会話も、ミステリアスなほどに、ゆったり――間延びする。星麗は、思考と読み書き、ピアノを弾く速度以外、すべてが遅い。運動神経が、絶望的なのだ。ヒールで歩き、自己紹介をして、カーテシーができた時、奇跡だと、母親と家庭教師を、歓喜で泣かせた。なので、陰口は『愚鈍』『鈍間』『ダンスが絶望的』にまつわるものが、後を絶たない。ただ、辛抱強くさえ接すれば、愚鈍ではないのは、明白だ。深い洞察をし、斬新で、大胆な問題解決を、できる人だ。そもそも、他は、けちのつけようがないのだろう、と燈子は、いつも心の中で、鼻息荒く息巻いている。彼女の祖父、玄司も、辛抱強く最後まで聞いて、しっかりとうなづく。
「星麗の胆の太さは、良くわかっている。だが…」
「私も、外交面では、不安を禁じえませんが…国王陛下は、『よき余興』と、笑われたのでしょう?」
現国王は、善政を敷いているが、時々、『突拍子もない』ことを、面白がり、臣下の頭を、抱えさせるのだ。玄司は、現国王が若かったころ、剣術指南役を務めていた。だから、個人的に良く知っている。
ふむと、言った後、にやり、に近い角度で、口角を上げる。厳ついせいで、どう見ても、悪役顔になってしまうが。
「何れにしろ、何が起きても、私が、必ずお前を護ろう」
「ですから、私が、『突拍子もないこと』を、するのですね。おじい様が、わたくしのおじい様で、幸せですわ」
ふふふ、と楽しそうに笑う孫に、厳しい皺をすべて緩め、玄司は目尻を下げる。今度は、悪役顔とは言えない。
「星麗、本当に可愛いなあ、お前は。そういわれると、無限に頑張ってしまうぞ。では、名残惜しいが、私は、『挨拶』に回ってこよう」
情けないほど、孫に、でれでれだ。
「はい、お気をつけて、おじい様。」
「後ほどな。」
『貴族の顔』に戻ると、まっすぐ伸ばした背中で、玄司は、貴族の群れの中に紛れていく。
「では、私達も、その時まで、ご挨拶に、参りましょう?」
星麗は、侍女の二人を振り返り、優しく微笑む。倍の時間がかかる、ゆっくりな星麗を、燈子と侑華は、いつも通り辛抱強く待ち、無言のまま目礼した。侍女は、公式の場では、空気だ。普通は、声などかけない。だが、星麗は、声をかけてくれる。だから、この時は、空気をやめ、目礼するのだ。ほんの少し、無表情をやめ、『貴族の常識』を、知り抜きながらも無視する、優しい、少し困った主人に微笑みかけて。
明日の21時に続きを出す予定です。
宜しければ、読んでいただけますと幸いです。




