誕生
深い、深いまどろみ。
温かく、タプタプとした浮遊感に包まれていた。
安心できるその場所に、いつまでもいたいと思った。
だが、そこは暗闇だった。
光が欲しい。
これ以上の場所はないはずだった。
それでも、なぜか光を求めてしまう。
すると、その願いに応えるように、俺の体はどこかへ流されていった。
不思議な感覚だ。
そして、目の前に光が広がった。
ただただ、まぶしい。
視界いっぱいに広がる明るい世界へ放り出された俺は、胸にたまった空気を吐き出しながら、大声で泣いていた。
どうやら、俺は転生したらしい。
まるでどこかの小説のような話だが、前世の記憶を持った状態で新しい命として生まれたらしい。
そしてこの世界は、前世の記憶とは明らかに違っていた。
そう、俺は前世に住んでいた日本とは違う異世界へと転生していたのだ。
魔物が存在するこの世界。
そのどこかにある小さな村。
そんな村の中でも別になんてことのない家の子どもとして俺は生まれた。
名前はライゼル。
元気な男の子として育っているあたり、まずは当たりの転生と言っていいだろう。
なぜなら、俺の住む家は明らかに文明的には前世のものよりも下回っているからだ。
木造の小さな家で電気製品もない環境で、大病なく育つというのは幸運としか言えないだろう。
そんなまだまだ幼児といっていい俺だが、生まれた直後から意識はあったが、数か月かけてようやく周囲を認識できるようになってきた。
目で物を追い、音を聞き分けられるようになってきたように思う。
まだ満足に動くことはできないけれど、だんだん自分の置かれた状況が分かってきた。
どこかの国の端のほう。
魔物が出るため、魔の森とも呼ばれる危険な土地のちかくに、この村はあるらしい。
そして俺は、その村で木こりをしている一家の子として生まれたようだった。
……で、俺は何をすればいいんだ?
せっかく前世の記憶を持って異世界転生をしたのだけれど、別に前世で死ぬ直前に神様に会ってなにかを言われただとか、どこかこの国のお偉いさんに魔王を倒せと魔法陣で呼び出されたわけでもない。
この世界でなにかをなさねばならない使命とやらは、多分今のところなさそうなのだ。
何をしたらいいのやらと、暇な時間の多い今は毎日そんなことばかりを考えている。
何日も、何週間も考え続けた。
だが結局、やるべきことなんて一つも決まらなかった。
だったら、べつにいいか。
好きなように生きてみよう。
前世の記憶があるといっても、何もできなかった幼児期の間にその記憶はだんだんと薄れていき、いまでは部分的にしか思い出せない欠けたピースの多いジグソーパズルのような状態だ。
ぶっちゃけ、記憶があるといっても、「俺は日本人の誰それだ!」というほどに前世のころの自分に対して執着しているわけでもない。
だったら、記憶に残る知識だけでもなんとか有効活用して、今の人生を豊かに過ごせないだろうか。
最終的に考えた結論は、その程度だった。
とりあえずは、幼児の自分になにができるかの検討かな?
家族の間で交わされる会話をキャッキャと笑い声をあげながら可愛い子アピールしつつ情報収集していた俺は、魔物や魔法という単語が確かにあるらしいことに気が付いていた。
魔物や魔法。
そんなものがある、いるのであれば、当然魔力というものも存在するのではないだろうか。
ということは、俺にも魔力がある可能性があるはずだ。
もし魔力があるなら。
もしそれを扱えたなら。
木こりの息子であっても――この世界なら、好きに生きられるはずだ。
そうと決まれば、俺は自身の体に眠っているかもしれない魔力を探し、コントロールできないか調べることから始めることにした。
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