第27話 王との謁見
朝露が葉を濡らし、鳥のさえずりが爽やかに響く頃。
デュランダール公爵家の寝室では、キリアが侍女たちに囲まれ、まるで着せ替え人形のように扱われていた。
「こんな貧相な肌着ではいけません!」
「さあ、こちらをお召しになって!」
「こんな可愛らしいお嬢様のお召し替えを手伝えるなんて……」
「こら!口より手を動かしなさいな!」
侍女たちの喧騒が部屋中に響き渡る。
「うう……なんかヒラヒラしてる……
足元がスカスカで落ち着かないよ……」
キリアは慣れない着心地の布地に包まれ、戸惑いを隠せなかった。
「グルルル……」
──うう、早く終わってえ……!──
リックは気まずそうに部屋の端で顔を伏せ、耳を塞いでいる。
ようやく着替えが終わる頃、扉がノックされセルドリクの声が響いた。
「キリア様、お召し替えはお済みでしょうか?」
「はーい!今行きます!」
元気な声が返り、キリアが部屋から姿を現した瞬間──セルドリクは思わず息を呑んだ。
「な、なんと……」
そこに立っていたのは、普段のキリアからは想像もつかないほど美しい少女だった。
花を模した髪飾りでまとめられた銀糸の髪。
淡く品のある化粧に引き立てられた白い肌。
そして、淡紅の瞳はいつにも増して宝石のように輝いている。
セルドリクはしばし言葉を失った。
「セルドリクさん……?
もしかして……僕、似合ってない……?」
「い、いえ!そんなことはございません!
大変お美しく……思わず見惚れてしまいました!」
慌てて両手を振るセルドリクに、キリアは照れたように笑った。
「あはは……ありがとう。
そんな風に言われたことないから、なんか恥ずかしいな……」
その笑顔は、どこか幼さを残しつつも、“公爵家の娘”として見劣りしない気品を感じさせた。
セルドリクに案内され、キリアとリックは馬車へ向かう。
荷台に乗り込むリックを見届け、キリアが馬車に乗り込むと──
その姿を見たダルタディオも思わず息を呑んだ。
「ううむ……これは……
悪い虫が掃いて捨てるほど寄ってきそうだな……」
その声は、すでに娘を心配する父親のような声音だった。
「えっ、虫?
キラキラしてるから、ですか……?」
キリアは本気で不思議そうに首を傾げる。
その姿を見たダルタディオは呆れたように笑った。
「はははっ。これなら心配はなさそうだな。」
馬車はゆっくりと動き出し、帝国の中心にある王宮へと向かった。
王宮に到着すると、その入口には帝国の誇る騎士たちが整然と並び立っている。
その威容はキリアの背筋を自然と引き締めた。
騎士の一人が一歩前へ出る。
「ようこそおいでくださいました。
この先は、ダルタディオ様、キリア様のみとなります。」
「え、リックは?」
不安気な表情を浮かべるキリアに対し、騎士は淡々と告げた。
「勇者様の従魔といえど、王の御前に魔獣を連れて行く訳には参りません。どうか、ご理解ください。」
「キリア様、リックのことは私にお任せください。」
セルドリクは諭すように彼女に言う。
キリアは少し俯き呟いた。
「う、うん。わかったよ。
リック……僕、行ってくるね。」
「ガルっ!」
──いってらっしゃい!──
リックは、彼女を勇気づけるように元気に吠えた。
「ふふっ。行ってきます。」
キリアはそっとリックの頭を撫で微笑んだ。
ダルタディオとキリアは騎士に案内され、王宮内へ足を踏み入れる。
そこは、王の威厳を示すように豪奢な装飾で彩られ、白亜の石畳には真紅の絨毯が敷かれていた。
長い廊下を一歩進むたび、キリアの胸は高鳴っていく。
やがて、目の前には堅牢で豪奢な扉が現れた。
並び立つ騎士たちが、ゆっくりと扉を押し開く。
「デュランダール公爵、及び、勇者キリア様が参られました!」
その先には、広々とした謁見の間が広がっていた。
玉座には、帝国の王が威厳を湛えて座っている。
その眼光は鋭く、視線の運びだけで場の空気を支配するようだった。
そして、周囲には貴族たちが立ち並び、キリアを値踏みするように視線を向けていた。
羨望、嫉妬、警戒──
様々な感情が入り混じったその視線がキリアに突き刺さる。
その時、奥にいる宰相らしき男が声を上げた。
「これより、謁見式を執り行う。
勇者キリア・シャルドレッド殿。
並びにデュランダール公爵、ダルタディオ殿──王の御前へお進みください。」
キリアは深く息を吸い、前を向いた。
──ここから、新しい人生が始まる──
そう胸に刻みながら、キリアは玉座へ向かって歩みを進める。
様々な思惑が渦巻く謁見式──
そんな周囲の気配に緊張を滲ませる彼女だったが、その表情には、これまでとは違う勇者としての確かな誇りが宿っていた。




