【電子書籍1巻:記念SS2】公爵様の「もう少し」~みらいをかえましゅ!~
「じゅんびはばっちりですわ!」
「あいっ」
おかぁしゃま、こまらないように。
「エトとレオしゃまで、みらいをかえましゅ!」
エトはあそんでるときも、どきどきしていた。
(やくそくのじかん、まだかな?)
レオしゃまもとけいをみて、じかんをおしえてくれる。
ふたりでいっしょにとびらをあけて、なんかいも、おへやのそとをかくにんした。
そして――
「面会のお時間です」
「「は(あ)いっ!!」」
おとなによばれて、レオしゃまといっしょに、ごはんのへやにむかう。
おとぅしゃまとおかぁしゃまがきた。
エトとレオしゃまは、はしってちかづいた。
ふたりで、おとぅしゃまとおかぁしゃまのおかおを、じっとみた。
「こうしゃくさま。おつかれではありませんか?」
「おかぁしゃま、こまってない?」
「「? ……大丈夫」」
おとぅしゃまとおかぁしゃまのこえが、いっしょにかさなった。
エトはレオしゃまと、ほっといきをついた。
でも、さくせんはこれから。
「おかぁしゃま、みて!」
エトはおかぁしゃまのてをひいて、テーブルにちかづく。
おおきなおさらには、しろいゆでたまごがやまもり。
エトはちいさくむねをはった。
「おかぁしゃま、たまご、いっぱいよ!」
おさらをみた、おかぁしゃま。
おどろいて、めをまるくした。
「どうしてゆで卵が、こんなにたくさんあるの?」
「へいかしゃまが、いっぱいくれたのよ!」
レオしゃまもうなずく。
「おとまりかいのあさ、エトはじぶんのたまごを、アルージュさまにもってかえろうとしたのです」
おかぁしゃまは、めをパチパチってしてる。
「エトの好きな卵を?」
「おかぁしゃまの、たまご……なくなっちゃうから」
おかぁしゃまは、めをまるくした。
でも、すぐやさしいかおになって、エトをぎゅっとだきしめる。
いいにおい。
「エト、ありがとう。でも、エトのごはんはエトが食べていいのよ」
おかぁしゃまのだっこ、あったかい。
エトも、ぎゅってだきしめかえす。
それからかおをあげて、おかぁしゃまをみた。
「おかぁしゃま、たべる?」
「ええ。いただきます!」
おかぁしゃまはすわって、ゆでたまごをひとつとって、じぶんのおさらできりわける。
エトはよくみえるように、おかぁしゃまのまえのせきにすわる。
レオしゃまは、エトのとなりにすわった。レオしゃまのまえには、おとぅしゃま。
エトは、おかぁしゃまがおくちをあけて、たまごがはいるのを、じっとみまもる。
「とってもおいしいわ!」
「あいっ!」
おかぁしゃまのおさらには、たまごがある。おとぅしゃまのおさらにも。
おおきなおさらには、もっといっぱい。
(おかぁしゃまのたまご、ぜったいになくならない!)
ほっとした、そのとき。
おかぁしゃまのてが、とまった。
おとぅしゃまが、たまごをたべているおかぁしゃまの、おくちをじっとみていた。
おかあしゃまは、おとぅしゃまとめがあった。ほっぺが、ふわっとあかくなる。
それから、こまったみたいにうつむいて……
(あっ)
おかぁしゃまは、はんぶんになったたまごののった、じぶんのおさらを、おとぅしゃまのほうへ、そっとよせた。
「……よろしければ、どうぞ」
エト、おめめがまんまるになった。
となりをみたら、レオしゃまのかおも「どうちて?」ってなってた。
だって、おとぅしゃまのおさらには、たまごがそのままある。
それにおとぅしゃま、「もうすこち」って、いってないのに。
「おかぁしゃまのたまご、なくなっちゃう……」
おかぁしゃまとおとぅしゃまが、おどろいたみたいに、エトをみた。
おとぅしゃまのおかおが、やさしくなった。
「アルージュの卵はある」
おとぅしゃまはそういって、じぶんのたまごがのったおさらを、おかぁしゃまのまえにおいた。
おかぁしゃまは、エトをみて、わらってうなずいた。
「ほら、大丈夫よ。私の卵はちゃんとあるわ」
おかぁしゃまのほっぺは、まだあかいまま。
でも、おとぅしゃまからもらったたまごを、うれしそうにたべた。
おとぅしゃまも、じぶんのじゃなくて、おかぁしゃまからもらったほうをたべている。
(たまご、いっぱいあるのに。どうちて、こうかんするの?)
エトは、ちょっとだけわからなくなった。
となりをみると、レオしゃまはふたりをじっとみていた。
めがあって、いっしょに、くびをかしげた。
「エト、レオノール様。卵をたくさん用意してくれて、ありがとう」
おかぁしゃまに、おれいをいわれた。
エトもレオしゃまもうれしくなって、ほっぺをあかくしてうなずいた。
◆ ◆ ◆
(どうしてでしょうか?)
けいじのみらいとちがって、こうしゃくさまは「もうすこし」と言わなかった。
それでも、アルージュさまのお皿にはちゃんとたまごがある。こうしゃくさまもうれしそうだ。
(では、きっとこちらも……)
おしょくじがさげられる。こうしゃくさまが、いすからたちあがろうとした。
(いまですわ!)
わたくしは、大きくいきをすった。
「わたくしから、こうしゃくさまへおくりものがあります」
わたくしはいすをおりて、小ばこをもって、こうしゃくさまのまえへすすんだ。
せすじをぴんとのばし、りょうてでさしだす。
「ほんじつはこちらを、こうしゃくさまにおつかいいただきたく、おもちいたしました」
こうしゃくさまが体をかがめてうけとり、ふたをあけた。
中には、お母さまがよういしてくださった、いちばんよいくしがおさまっている。
「これなら、いちどでかみがきれいになります。なんどもとかなくてすみます」
「殿下、ありがとうございます」
「こうしゃくさま。いま、つかってみませんか?」
「……? はい。アルージュ、これで梳いてくれるか」
「ええ」
くしをうけとったアルージュさまが、すわっているこうしゃくさまのうしろへまわる。
わたくしはむねのまえで、りょうてをそろえた。
エトもわたくしのとなりにかけよってきて、ふたりをみまもる。
アルージュさまが、黒いかみにくしをいれた。
するり。
くしはひっかからず、毛先までいっきにぬけた。
「……まあ、さらさら」
アルージュさまのこえに、わたくしは体をのりだして、こうしゃくさまのかみをみた。
(かんぺきですわ!)
アルージュさまは、すこしおどろいたように、くしをみた。
「トリートメントしたみたい」
「とりぃとめんと?」
「あっ、その……昔のことを思い出して。こうして、するっと櫛が通る感じ」
アルージュさまは、なつかしそうにわらった。
「はい。もう整いました」
こうしゃくさまのかみに、はねているところはない。
「殿下、ありがとうございます。素晴らしい櫛です」
「よかったです!」
わたくしとエトは、えがおでうなずきあった。
(こんどこそ、かんぜんにさくせんせいこうですわ!)
こうしゃくさまが、いすからたちあがろうとした、そのとき。
「……もう少し、梳いてもいいですか?」
わたくしのえがおが、ぴたりと止まった。
こうしゃくさまが、いっしゅんだけ目をみひらいた。
でも、アルージュさまの楽しそうなおかおをみて、ほほえむ。
「ああ」
すぐ、いすへすわりなおした。
アルージュさまは、またくしをいれた。
するり。するり。
となりを見ると、ぽかんとくちをあけたエトと目があった。
ふたりそろって口をとじ、首をかしげた。
「アルージュさま……こまって、ないみたいですわ」
「うん。おかぁしゃま、たのちそう」
ゆめの中では、こうしゃくさまが「もうすこし」といっていた。
いまは、アルージュさまが「もうすこし」といっている。
(どうやら……「もうすこし」って、いっていいときもあるようですわ)
わたくしはエトとかおをみあわせて、ちいさくわらった。
かみはもう、きれいになっているのに。
アルージュさまは楽しそうに、なんどもくしをとおしていた。
記念SS2にお付き合いくださり、ありがとうございました!
本日、電子書籍が発売となりました。
Web版に加えて、後半を丁寧に加筆し、エトの活躍シーンや、アルージュとリュノール、三人の関係をより深く書いています。
書き下ろし番外編はエト視点のほっこりしたお話です。
こちらも楽しんでいただけましたら嬉しいです。
▼宵マチ様の美麗すぎる表紙と電子書籍のリンクは、この下にあります!▼




