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【10/8電子書籍化】転生したら悪役継母でした~離縁されましたが、最強公爵様と天使な義息子に愛されているのでむしろ本望です~  作者: 入魚ひえん


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【電子書籍1巻:記念SS1】公爵様の「もう少し」~エトとレオしゃまで、さくせんかいぎ!~

「エトワールは?」


「眠ってます。レオノール様がお帰りになってから、すぐ。たくさん遊んで、疲れたみたいです」


 夕暮れの光が差し込む窓辺で、アルージュは椅子に座るリュノールの黒髪を梳(と)いていた。その手が止まった。


「はい。整いました」


 櫛(くし)が黒髪から離れた。

 けれど、リュノールは立ち上がらなかった。


「もう少し」


「?」


 アルージュは櫛を持ったまま横へ回り、そのまま夫に目を向ける。


「髪はもう、どこもはねていませんよ」


 リュノールはゆっくりと顔を上げる。妻の持つ櫛がもう一度自分へ触れるのを待つように、アルージュを見つめる。


「もう少し」


 その意味に気づいたのか、アルージュの頬がじわじわと赤くなった。


「そ、それなら。もう少し……」


 アルージュは赤い顔を隠すように夫の後ろへ戻る。彼女の持つ櫛が黒髪を撫でるように滑ると、リュノールはわずかに目を細めた。


 櫛を持つ指先が、淡くにじんだ。

 櫛も、黒髪も、二人の姿も。

 光の中へ溶けるようにぼやけ、景色が移ろった。


 次に見えたのは軽食の席だ。

 リュノールは、すぐ隣に座る妻の顔を見つめていた。


「どうかしました?」


 リュノールの手が伸びる。指先がアルージュの唇に触れ、端についていたわずかな黄身をぬぐい取った。

 そのまま、自分の口へ運ぶ。


「……!」


 アルージュは驚き、唇をわずかに開いた。

 そこへ、もう一度リュノールの指先が触れる。けれど今度は、ぬぐうものなど何もない。


「……もう少し」


 アルージュの頬は、みるみるうちに高揚した。逃げるように手元の皿へ視線を落とす。


「た、卵がほしいのでしたら……」


 慌てて、自分の皿をリュノールへ差し出した。

 けれど、リュノールの手は皿には伸びず、妻の手の甲をそっと包んだ。


 耳まで赤くなるアルージュを、じっと見つめるリュノール。

 その月色の瞳が揺らいだ。


 二人の姿は溶けるように消えていく。


(そ、そんな……!)




   ◆ ◆ ◆


「たいへんです!」


 目がさめたわたくしは、いきおいよくおきあがった。

 こうじょうのしんしつのまどべには、朝日がきらめている。


「レオしゃま……?」


 となりでは、おとまりにきていたエトが、ねむそうに目をこすっていた。

 そばには、お母さまがソファにこしかけ、わたくしたちを見まもっていた。


「レオノール、ずいぶん慌てているな。未来の夢……啓示を見たのか?」


「はい。エトのおうちでした」


 あのけしきを、わたくしはしっかりおぼえていた。


「こうしゃくさまがアルージュさまに、なんどもおねがいするのです」


「おとぅしゃまが、おかぁしゃまに?」


「ええ。かみをととのえても、『もうすこし』と、うごかないのです。それに、ゆでたまごも『もうすこし』と、ほしがっていました」


「おとぅしゃま、うごかない……おなかすいてる?」


「きっと、とても」


「おかぁしゃまのたまご、なくなっちゃう」


 みらいのアルージュさまは、おかおをまっかにしていた。


「このままでは、アルージュさまがこまってしまいます!」


「エト、おかぁしゃま、たしゅける!」


 二人で、しっかりとうなずきあった。


「そのひは、わたくしがエトのおうちへあそびにいったあとですの」


 まちがいない。

 けいじのはじめに、アルージュさまが言っていた。


(でも、どうやってたすければ……)


 わたくしはじぶんのかみにふれて、はっとした。


「よいくしなら、なんどもとかさなくても、かみがきれいになります!」


 わたくしとエトは、お母さまへかけよった。


「おかあさま、こうしゃくさまへおくりものをしても、よいですか?」


 お母さまは、なぜか楽しそうにわらった。


「ああ。用意しよう」


「ありがとうございます!」


「おとぅしゃま、『もうすこち』って、いわない!」


 わたくしとエトはほっとして、またうなずきあった。


「じゃあエトは、おかぁしゃまに……」


 そのまま、エトのつづきのことばは、でてこなかった。




   ◯ ◯ ◯


(エトも、おかぁしゃま、たすけたい)


 でも、どうすればいいのか、わかんないの。


 あさごはんのじかんになって、エトはレオしゃまとへいかしゃまと、いすにすわる。

 めのまえのごはんをみたら、うれしくなった。


「おいちそう!」


 まっしろなパン。

 ぽかぽかのスープ。

 つるんってした、ゆでたまご!


(あっ)


 エト、きづいた。

 だからちょっとかんがえて、フォークをおいた。


 もうちょっとかんがえて、ハンカチをだしてひろげた。

 ゆでたまごをつつもうとしたら、へいかしゃまがこっちをみた。


「エトワール、食べないのか?」


「ゆでたまご……おかぁしゃまに、もってかえるの。おとぅしゃまにあげたら、おかぁしゃまの、なくなっちゃう」


「案ずるな。アルージュには別に用意しよう。みんなで食べても余るくらい」


 エトはおどろいて、おめめがまるくなった。


「おかぁしゃまの、いっぱい?」


「ああ」


「いっぱい……! ありがとでしゅ!」


 エトはうれしくなって、ゆでたまごをたべた。


「おいちい!」


 レオしゃまも、ニコニコのかおになった。


「たまごがたくさんあったら、あんしんですわ」


 おかぁしゃまのたまご、なくならない!


 それから、エトとレオしゃまで、さくせんかいぎ!

 へいかしゃまは、わらってた。なにもいわないけど、たのちそう。


 エトはレオしゃまとへいかしゃまに「ありがとう」して、おうちへかえった。


 おとぅしゃまに、りっぱなおてがみをわたした。

 おかぁしゃまは、めをパチパチってしてる。


「リュノール様、その封書……皇族の印ですね。陛下からでしょうか?」


「いや。『わたくしからこうしゃくさまに、おわたししたいものがあります』……レオノール殿下から俺宛てだ」


 ふたりとも、ふしぎそう。


 そして、いよいよ、さくせんのひ。

 レオしゃまが、エトのおうちにくるひになりまちた!


エトとレオの作戦、はたして結末は……?

記念SS2は鋭意制作中です!

引き続きお楽しみいただけますと嬉しいです。

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『転生したら悪役継母でした』書籍情報
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