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第11話「虚空貫く少年の叫び」

ブライスが立ち合い、カナンとセキが見守る中、夜の月が覗く校庭で始まる黒ローブの男との一騎討ち。


先ほどは驚いて大袈裟に叫びこそしたが、これは自分の手で家族の仇を討てる絶好の機会だ。怖気付いて逃す選択肢は存在しない。


「蓮、無理しないでね。」


不安そうな表情で剣を渡してくるカナン。それが彼女なりの優しさでもあるのだろう。


「大丈夫、俺は絶対に勝つよ。」


心配する少女に勝利を宣言して剣を握る。

その瞬間暗い夜の世界に溢れ出す光。この手に伝わるのは剣の重みと熱。そして再び黄金の剣(ステラルクス)は輝き出す。その光景を見つめるセキ、黒ローブの男。横目で上から見定めるブライス。


「───さぁ、やろうか!」


剣を片手で持ち上げて、黒ローブの男に突き立てる。

あの時の彼女のように、余裕の笑みを顔に貼り付けながら。


「ふっ、望むところだ。お前は復讐を、俺はあの夜の橋での屈辱を。お互いに晴そうじゃないか!」


お互いに全速で走り出して衝突する剣と鎌。

押し合う力は互角、ようやく拮抗する実力。


そうさ、こいつが一騎討ちを申し込んだのは現代人の素人である俺に負けた汚名を挽回するためだ。

それが今こいつの戦う全ての理由。


対して俺は家族の仇を取る為であるが、その気持ちよりも、今はそれ以上に、カナンが見守るこの戦いは負けられない。




「────っ!」


「───ちっ。」


お互いのプライドの為に激しく斬り合う。

一切の躊躇のなく相手を確実に殺すための攻防。


男が繰り出した乱撃にも剣を流して対処する。

剣本来の力の制御はまだまだ未熟ではあるが、

純粋な剣技ならば何も引けは取らない。


「そんなものかっ!?」


「──ほざくなっ!!」


かつてなく黒ローブの男と渡り合えている。

こればかりはカナンとの稽古の賜物だ。

血は流せど呼吸は乱れずに一歩一歩詰めていく。


「──!?」


隙をついた大振りの斬撃が当たった瞬間、

男は後方に飛んで距離を取った。


「中々、強く、なったな。」


「お陰様でな。」


「・・・もう分かった。俺ではお前は討ち取れん。」


「何だ、降参か?」


「いや、勝利宣言だ。もう無駄なプライドは捨て、

次の一撃に全てを持ってお前を殺す。」


「・・・そうか。」


俺は今出せる黄金の剣(ステラルクス)の力を全て解放して光を帯びさせ始めた。


「───っ!?」


「「「!!!!!!」」」


可視化される強力な力、暗闇の夜を照らす眩い光。

その白き光の輝きは大気中のエネルギーの集積、

傍観する未来人たちも素直に驚くほどの量だ。


「これが今の俺の全力だ。」


「・・・はは、よほど俺が憎いとみえる。」


「・・・確かに家族の仇もそうだが、俺の想いはあの夜の橋の時と変わらない。向かい来る脅威を全て薙ぎ払う、それだけだ。」


「そうか、ならば行くぞっ!!!!!」


「──っ!?」


黒ローブの男が走り出した瞬間、その姿が無数に増え始めた。分裂した影は新たな分身を産み続け、襲い来るのは大量の鋭利な鎌。


これが男の切り札なのだとしたら、ここまで見せてこなかったのは最後の場面で動揺を誘う手段としては、最適解の絶好の手段だからだ。


「──っ。」


その思惑通り、俺は増えた黒ローブの姿に一瞬だけ動揺し、これは本体を倒せば終わりなのか、全てに実体があるのか迷ったが、もうどうでも良かった。

───全て薙ぎ払えば同じ事だ。────


「死ねっっっっっ!!!!!!」


「らぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!」


俺はただ剣を力の限り横薙ぎに払った。

腹の底から叫び声を出し、

全ての光と熱、その力を持って。


黄金の剣(ステラルクス)から放たれたのは全てを消し飛ばす眩い光。その斬撃が向けられた場所には何も残らない。


───!!!!!!!!!!!!!!!───


一瞬の轟音と光、視界を遮る土煙が収まり

目の前に広がったのは地面が大きく陥没して

抉れて変わり果てた校庭だった。


「──凄い。」


セキやカナンはただ驚いていた。新人類でもない普通の人間が起こした強烈な力に。

そしてブライスは腕を組んで見つめ続ける。蓮が持つ黄金に輝く星の剣を。


「・・・やれた、のか・・・っ!?」


俺はつい剣を手から離して地面に落とした。

急に身体に襲いかかった疲労と重みに驚いただけではない。陥没した地面の底には下半身が消滅した黒ローブの男がいたからだ。


「・・・まだ、生きてるのか、。」


「───何を言う、俺はもう終わった。まさか黄金の剣の女から聞いていないのか。」


「何を・・・!?」


こちらを見て不敵に笑う男の身体は徐々に光となって空に消えていく。まるでこの時代に痕跡を残さぬように。


「我々は力を使い果たせば強制的に未来に帰還するのだ。元いた場所に、元いた形でな。残念だったな小僧、俺を仕留めきれなくて。」


「・・・別に。俺の気はもう晴れた。とっとと消えてくれ。」


「そうか、はは。愉快愉快。小僧、これは置いていってやる──」


そして男は口に吐き出していた言葉の途中で消えてなくなった。その場所に小さな結晶だけを残して。


「・・・蓮。」


いつの間にかカナンが隣にいた。疲弊して倒れそうな身体を支えるように。仇を成し遂げて崩れそうな心を埋めるように。


こうして俺とカナンは共闘してから初めての結晶を手にするのだった。決して取り戻すことのできないモノを代償にして。



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