第8話 タコ公園の決闘
夕暮れの公園。
街灯が一つ、また一つと灯り始め、タコの形をした滑り台のシルエットが不気味に伸びていた。
地元の不良どもが「タコ公園」と呼ぶこの場所は、暗黙の了解で“決闘の舞台”として使われてきたらしい。
ゴウキとジンキ、そして付いてきたコウスケ。
三人は歩調を合わせ、タコ滑り台の前に立った。
「……来てやがるな」
ジンキが目を細める。
そこには、アフロを含む二年生十人がずらりと並んでいた。
街灯に照らされたその中心。細長いシルエットが立っている。
「ひぃ……マジか……」
コウスケが喉を鳴らしながら呟いた。
「やっぱり二年のトップ……石橋、“ガリバー”が出てきやがった……」
「ガリバー?」
ゴウキが首をかしげる。
「知らねぇのか!? あのガリバーだぞ!」
コウスケは目をギラつかせて、早口でまくしたてた。
「細身だけど背は190近い。しかも中学の頃はボクシングで全国ベスト8。ここら一帯の不良でも素手じゃ相手にならねぇって有名なんだ。リーチも精度も段違いで、“ガリバー”って通り名はそこから来てるんだよ!」
街灯の下で腕を組むその男――石橋“ガリバー”は、細身の体をスッと伸ばし、まるでリングに立つボクサーのように無駄のない姿勢をしていた。
アフロたちはその背中を守るように並び、睨みを利かせている。
ガリバーが低い声で口を開いた。
「お前らが最近調子にのってる一年坊主か」
ズシリと響く声。
ただの威勢の良いヤンキーとは違い、妙な落ち着きと自信がある。
その雰囲気だけで、ただ者ではないことが伝わった。
「二度と調子のった真似ができないようにしてやるよ」
ガリバーはゆっくりと顎を上げ、挑発するように言った。
「まとめてかかってきてもいいぞ。こっちは俺一人で相手してやる......」
空気が一気に張り詰める。
周りにいた不良たちが「うおお!」と声を上げ、威圧感を増していく。
―
「……ボクサーか」
ジンキが一歩、前に出た。
身長170センチ、ゴウキより頭一つ低い体躯。
しかし、その瞳には怯えは一切ない。
「なら、俺の出番だな」
「お、おい待てって!」
コウスケが慌てて腕を掴む。
「ガリバーは二年トップだぞ!? 一人で行くとか無茶すぎる! 三人でいくべきだ!」
ジンキは振り返りもせずに、口元だけで笑った。
「そんなダサい真似、できるかよ」
「ダ、ダサい……?」
「そんなことしたら――父さんに怒られる」
ジンキの声は静かだったが、確かな誇りがこもっていた。
「拳で語り合うなら、一対一だ」
拳を握り、スッと前へ進む。
ゴウキはその背中を見て「やれやれ」と肩をすくめた。
「まぁ……俺らはそうだよな」
コウスケは頭を抱えた。
「くっそ、なんなんだよお前らは……普通に青春したいとか言ってたくせに、結局拳かよ!」
しかしジンキの横顔を見た瞬間、何かが伝わってしまった。
恐怖と同じくらい――いや、それ以上に心が揺さぶられた。
“本物の覚悟を持った奴”の顔だった。
―
ガリバーはスッと拳を上げ、構えを取った。
その動作に一切の無駄はなく、ボクシング経験者であることが一目でわかる。
「ほう……俺相手に、一人で出てくるか。その度胸はほめてやる」
ジンキは無言で拳を握り、足を開いた。
「……」
「いいだろう。教えてやる。素人の拳が、どれだけ無力かをな」
周囲の二年生たちが「うおおお!」と盛り上がり、タコ公園の空気が震えた。
ゴウキは後ろで腕を組み、にやりと笑った。
「……いいぞジンキ。派手にやっちまえ」
コウスケは膝をガクガク震わせながら、心の中で叫んでいた。
(やっぱやめときゃよかったあああああ!!)
――こうして、タコ公園での決闘が始まろうとしていた。
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