表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/51

第29話 腕相撲大会

久里鬼の家の座敷は、笑い声と湯気と酒の匂いに満ちていた。

大皿に盛られた唐揚げや焼きそばの湯気、テーブルを囲む大人たちの豪快な声、そしてその隅で集まる子供世代――。


最初は再会を喜んでいたはずのゴウキ、ジンキ、ユウキ、ナオキ、カズヤ、ハル、ヒカル、ケンシン。

しかし、性格の強い面々が揃えば自然と空気は荒れる。


「双天鬼のガキってだけで、でかい顔できるよな」

カズヤがにやりと笑いながら言う。


「はぁ? 俺らがいつ父さんたちのこと持ち出した?実力だよ。お前だって一度も俺に勝ったことねぇだろ」

ジンキが鼻で笑い返す。


「お前は口ばっかだろ。拳より口が先に出るタイプ」

ヒカルが冷静に言うと、ジンキの目が細くなる。


「テメェはちょっと顔がいいだけのチャラ坊だろうが」

「……なんだと?お前も一緒だろ。だったら勝負してみるか?」


空気が一気にピリついた。

ナオキが「いやいや落ち着けよ……」と割って入ろうとするが、逆に火に油を注ぐ。


「お前はそもそも喧嘩にすらならねぇ。情報屋気取りだろ」

ユウキが鼻で笑う。


「うっせぇ筋肉馬鹿。脳みそにも筋肉詰まってんじゃねぇの?」

「なんだと!?」


座敷の空気が熱を帯びてきたその瞬間。

久里鬼の低い声が飛ぶ。


「おいガキども」


全員がビクリと動きを止めた。

大人たちの笑い声も一瞬静まる。久里鬼は酒を置き、腕を組んで睨みつけた。


「そんなに喧嘩したいならよ……腕相撲で決めろ。今ここでな」


一拍の沈黙の後――。


「「「望むところだ!!」」」


子供たちの声が重なった。



座敷の中央にちゃぶ台が移され、即席の土俵ならぬ「腕相撲台」が用意された。

大人たちは酒を片手に笑いながら見物。まるで余興の始まりのような雰囲気だ。


「トーナメントにしよう」

ヒッキーが言うと、自然と組み合わせが決まった。


一回戦――ゴウキ vs ユウキ、ナオキ vs ハル、カズヤ vs ケンシン、ジンキ vs ヒカル。



最初の勝負はゴウキとユウキ。


「待ってました! 筋肉対決!」と周囲がどよめく。

ユウキは上着を脱ぎ、鍛え抜かれた大胸筋を誇示するように腕を組む。


「俺は毎日ベンチプレス100キロやってんだ。腕相撲なんざ負ける気がしねぇ!」

「ほう? なら見せてもらおうか」


両手が組まれ、開始の合図。


――バン!


次の瞬間にはユウキの腕が畳に叩きつけられていた。


「え……?」

「すげぇ! 一瞬じゃん!」

「ユウキの筋肉、飾りだったのか!」


周囲が爆笑する中、ユウキは悔しそうに拳を握りしめる。


「くっそ……次は絶対勝つ!」


ゴウキは笑いながら肩をすくめた。



続いてナオキ vs ハル。


「俺、こういうの向いてないんだよな……」

ナオキはため息をつきながら腕を組む。


「言い訳すんな。全力で来いよ」

ハルは無駄口を叩かず、ただ構える。


勝負は開始と同時に決まった。

ハルが一気に押し込み、ナオキの手を床に叩きつける。


「はやっ!」

「こいつ、スピードえぐいな」


ナオキは顔をしかめた。

「やっぱ情報収集のほうが性に合ってるわ……」



三戦目、カズヤ vs ケンシン。


「お前には負けねぇ!」

カズヤが気合を入れる。


「俺も簡単には倒れん」

ケンシンは静かに目を閉じ、呼吸を整える。


合図とともに、両者の腕がギリギリと軋む。

筋肉と筋肉、気迫と気迫。周囲が息を飲むほどの互角の戦い。


「どっちだ!? カズヤか!? ケンシンか!?」

「動かねぇぞ……!」


拮抗が続いた末、カズヤが叫びながら力を込める。


「うおおおおおおお!」


ケンシンの手がゆっくりと畳に落ちた。


「勝者、カズヤぁぁ!」


座敷は大歓声に包まれる。ケンシンは肩で息をしながら、それでも静かに笑った。


「……強いな」



最後の一回戦、ジンキ vs ヒカル。


「お前とは一度やってみたかった」

ヒカルが真っ直ぐにジンキを見る。


「……同じこと考えてた」


二人の腕が組まれる。互いに余裕の笑みを浮かべつつも、目は笑っていない。


合図と同時に――ドンッ!


一進一退。ゴウキすら思わず前のめりになる好勝負。

「やべぇ、どっちも動かねぇ……」

「力もスピードも互角じゃね?」


腕が震え、額に汗が浮かぶ。

数秒が何分にも感じられる緊張の末――。


「ぐっ……!」


ジンキが最後に力を絞り、ヒカルを下した。


「勝者、ジンキ!」


大人たちがどっと笑い、拍手が起こる。

ヒカルは苦笑いしながらジンキに手を差し伸べた。


「強いな。次は負けねぇ」

「おう、またやろうぜ」



二回戦。


ゴウキ vs ハル。

カズヤ vs ジンキ。


最初の勝負は――結果は明白だった。

ハルは素早く仕掛けたが、ゴウキの腕はびくともしない。


「なんだよこれ……壁に押してるみてぇだ……!」


ゴウキは余裕の笑みを浮かべ、スッと相手の腕を倒した。


「勝者、ゴウキ!」



もう一方の試合、カズヤ vs ジンキ。


だがジンキは腕を組み、首を振った。


「くだらねぇ。棄権だ」


「はぁ!? 逃げんのか!?」カズヤが噛みつく。


ジンキは心の中で舌打ちした。

(ヒカルとの勝負で腕プルプルしてんだよ! ゴリラはゴリラ同士やってろ!)


「俺は見届け役でいい。お前らゴリラ同士で勝手に決めろ」


カズヤは怒りながらも、そのまま決勝進出となった。



決勝。ゴウキ vs カズヤ。


座敷は異様な熱気に包まれる。

カズヤは最初から叫びながら全力を込めた。


「うおおおおおお! 俺が! 俺が最強だぁぁ!」


腕が震え、顔が真っ赤に染まる。

しかしゴウキは涼しい顔のまま、一瞬力を込める。


――バン!


カズヤの手が畳に叩きつけられた。


「勝者! ゴウキ!!!」


大人たちは大爆笑し、座敷に歓声が響いた。


「やっぱ血は争えねぇな」

「ゴリラパワー健在!」


カズヤは地団駄を踏んで悔しがるが、誰もがゴウキの圧倒的な強さを認めざるを得なかった。


夏の夜、子供世代の初めての決戦はこうして幕を下ろした。

だがこの小さな腕相撲大会こそ、次の時代を揺るがす抗争の火蓋となるのだった。

ここまでお読みくださり感謝です!

面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価をポチッとお願いします。励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ