第28話 夏の集い
夏休みが始まった。
潮多工業での喧騒をひととき離れ、ゴウキとジンキは久々に地元へ帰ってきた。
セミの声がじりじりと耳を焼き、アスファルトの照り返しが目を刺す。鼻腔をくすぐるのは、どこか懐かしい土と草の匂い。
「……戻ってきたって感じだな」
「だな。潮多の空気と比べて、ちょっと生ぬるい」
二人は笑い合った。
―
昼下がり。
地元の商店街裏にある公園に足を運ぶと、既に何人かの旧友が集まっていた。ベンチに腰掛け、缶ジュースを片手に談笑していた連中が、ゴウキとジンキを見つけて一斉に立ち上がる。
「おいゴウキ! 本当に県外に行ったのかよ!」
「ジンキもだろ!? なんでわざわざ遠いとこなんだよ!」
矢継ぎ早に浴びせられる質問。
二人は顔を見合わせ、同じタイミングで肩をすくめた。
「拳ひとつで、誰にも頼らずのし上がりたかったからだ」
「甘えて生きたくなかった。だったら遠くで勝負した方が早ぇ」
本音を語る気はなかった。潮多に流れた事情も、街の均衡も、仲間たちには関係ない。
だがその言葉を聞いた友人たちは、目を輝かせて口々に言った。
「やっぱすげぇな!」
「違ぇよお前ら! 双天鬼の息子ってだけじゃなく、自分で勝負しに行ったのか!」
(……まぁ嘘なんだけどな......)と心の中で突っ込みながらも、悪い気はしなかった。
―
その後は昔と変わらぬ遊び。
ゲーセンで格闘ゲームを競い合い、負けた方がジュースを奢るルールで盛り上がる。
ジンキが「よっしゃKO!」と叫べば、友人が「反則だろ今の!」と食ってかかる。
ゴウキは隣で肩を揺らしながら笑い、かつてと変わらぬ時間を堪能した。
カラオケではマイクの奪い合い。誰かが音程を外せば「耳が腐る!」と野次が飛ぶ。
コンビニでアイスを買い、河原に座り込んで、どうでもいい話を延々と続けた。
「お前、まだあの子に片思いしてんのかよ」
「は? お前だって告白してフラれただろ」
「お前ら、ほんと進歩ねぇな」
夜風が川を渡ってきて、セミの声が徐々に鈴虫へと変わりつつあった。
―
そんなとき、ゴウキのスマホが鳴る。
画面には「父ちゃん」の名前。
「もしもし?」
『おぉゴウキか。今夜、集まりがある。ジンキと一緒に来い。子供たちも顔を出してる』
「マジで!? 久しぶりじゃん!」
『大人も子供も勢ぞろいだ。腹空かせて来い』
電話を切ると、ジンキが眉をしかめた。
「ったく……急に呼び出しかよ」
「けどよ、久しぶりにあいつらに会えるんだぜ?」
「……まぁ、それはそれで悪くねぇ」
―
夜。久里鬼の家。
広い座敷には大皿料理とビールが並び、笑い声が絶えない。
久里鬼と鷹鬼が酒を酌み交わし、松浦、辻、桑原、リック、ポッター、ライト、ヒッキーといった旧世代の猛者たちが顔をそろえていた。
台所からは母親たちが料理を運び、豪快な宴の匂いが漂う。
「おぉ、来たか!」
「ゴウキ、ジンキ、元気そうじゃねぇか!」
そして広間の一角には――次世代の子供たちが集まっていた。
ユウキ。松浦の息子で、筋トレオタク。腕っぷしはそこそこだが、そのストイックさと情報発信力で地元では割と有名だ。SNSに自撮りを上げては「筋肉は裏切らない」を連呼し、同世代の中では妙に存在感がある。
ナオキ。辻の息子。喧嘩は得意じゃないが、耳と目が効く。街の噂、他校の動き、不良グループの情報まで拾ってくる“影の参謀”のような存在。頭の回転は速く、父親譲りの策士気質がにじんでいた。
カズヤ。リックの息子。地元の中学で頭を張っていた実力者。パワー自慢で負けん気も強く、ゴウキやジンキには及ばないが、その豪快さは仲間内でも一目置かれている。金持ちキャラで、ポケットマネーでジュースや駄菓子を奢るのが癖だ。
ハル。ポッターの息子で、カズヤの相棒。スピードが売りで、喧嘩になると先陣を切るタイプ。口数は少ないが、カズヤと並ぶと妙に様になる。二人は同じ高校に通い、常に一緒に行動している。
ヒカル。ライトの息子。小さい頃から格闘技の英才教育を受けてきた天才肌。バランスの取れた動きとセンスで、地元中学でも頭を張っていた。見た目は爽やかで女子人気も高いが、内には燃えるような闘志を隠している。
ケンシン。ヒッキーの息子で鹿児島から来た。中学時代、剣道で日本一になった実力者。竹刀を持たずとも喧嘩では鋭い間合いと一撃の重さを誇る。まだ他のメンバーとは距離があるが、その存在感は抜きん出ていた。
ちなみに桑原はまだ未婚。今だに昔の彼女を引きずっているらしく、生涯独身を宣言している。
「おぉ、ゴウキ! ジンキ! 久しぶりだな!」
「お前らが潮多で暴れてるって噂、聞いてるぜ!」
広間の空気が一気に熱を帯びる。
旧世代が酒を酌み交わす中、若い世代は再会と新たな邂逅を迎えていた。
笑いと懐かしさの中に――次の時代の抗争の火種が、確かに芽吹いていた。
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