第21話 香田の加入
ゴールデンウィークが終わり、再び学校生活が戻ってきた。
だが、潮多工業の空気はどこか重苦しかった。
昇降口に入った瞬間から、ゴウキとジンキは異様な視線を浴びる。
ただしそれは、憧れや尊敬の眼差しではなかった。
廊下の端でひそひそ声が走り、すれ違う生徒は視線を逸らす。
「双天鬼だ……」
「マッスルを倒したって噂、本当だったんだな」
「関わったらヤバい……」
そう囁かれるたび、教室までの道は自然と人が避ける道となる。
一年はもちろん、二年も三年も誰一人として目を合わせようとしない。
かつてマッスルが治めていた頃のような秩序はなく、ただ「未知の存在」として浮き上がる二人。
ジンキは無表情のまま歩いたが、ゴウキは苛立ちを隠せなかった。
机に鞄を投げ下ろすと、ドンッと音が響き、教室の空気が一瞬凍る。
「……別にトップ取るつもりでやったんじゃねぇんだよ」
低い声で吐き捨てるゴウキ。
ジンキは椅子に腰掛け、手を組みながら小さく答える。
「しばらくすれば落ち着く。今はただの混乱だ」
「……ふざけんな、こっちはただ普通の高校生活送りたいだけだっつーの」
ゴウキは額を押さえた。
その横で、コウスケは腕を組んで真剣に考え込んでいた。
(どうしたら……こいつらが“ついていく価値のある奴”だって認められるんだろう)
喧嘩で強いのは誰の目にも明らかだ。だが、それだけじゃ人はついてこない。
マッスルが潮多をまとめられたのは、力だけでなく“信頼”があったからだ。
この二人にはまだ、それがない。
―
昼休み。
購買のパンを手に廊下を歩いていると、不意に声をかけられた。
「……ゴウキ」
振り返ると、見覚えのある顔があった。
数週間前にゴウキの拳でぶっ飛ばされた男――香田だった。
ゴウキは一瞬きょとんとし、指をポンと鳴らした。
「おお、ゴンドウ!」
「香田だ、バカ」ジンキが即座に訂正した。
「おぉ、そうだったか。まぁ似たようなもんだろ」
ゴウキは悪びれず笑う。
香田は真剣な目で二人を見据えた。
「……マッスルさんを倒したんだってな。噂になってる」
ゴウキは鼻で笑う。
「まぁ、あの筋肉ゴリラな。思ったより大したことなかったぜ」
「俺は……自分こそが最強だと思ってた」
香田は拳を握りしめた。
「だが、お前にワンパンで沈められた。あの瞬間、自分がどれだけ井の中の蛙だったか思い知った」
ジンキは黙ってその言葉を聞く。
香田は一歩踏み出し、頭を下げた。
「だから決めた。……俺は強い奴についていく。これからはお前らと一緒に行動させてくれ」
―
コウスケの目が見開かれた。
「……おおっ!マジか!?」
思わず声が裏返った。
「頼りになる奴が仲間になった!」
心の底から嬉しそうに叫び、背中を叩く。
(これで少しは周りの見方も変わるはずだ!)
だがゴウキは腕を組み、少し渋い顔をした。
「お前……本気で言ってんのか?」
「本気だ」香田は真っ直ぐな目で答えた。
ジンキは顎に手を当てて小さく頷いた。
「……」
コウスケは笑顔で頷き続ける。
「よし!これで俺ら三人に香田を加えた“四天王”みたいなもんじゃん!」
「いやいやいや」ゴウキがすぐさま止める。
「なんでいきなり中二病みたいなネーミングになるんだよ」
「でもよ!」コウスケは食い下がる。
「今までポッと出って扱われてたお前らに、潮多の中学時代から有名だった香田がついたんだ。これはデカい!」
ゴウキとジンキは顔を見合わせ、同時にため息をついた。
「……また男か」
「そうだな」
二人の声はどこかがっかりしていた。
「なんだよそれ!」コウスケが叫ぶ。
「男でもいいだろ!仲間が増えるってのは嬉しいことだ!」
「いや、仲間が増えるのはいいんだが……」
ゴウキは空を仰ぐ。
「やっぱ可愛い女の子がよ……」
「女の子......必要だよな......」
ジンキも肩を落とす。
コウスケは呆れながらも笑った。
「ほんっと、変わんねぇなお前ら」
―
その日の放課後。
四人は屋上に集まっていた。
潮多工業の敷地の外では、すでに「双天鬼」の名が広まりつつあったが、校内では依然として孤立状態。
だが、香田が加わったことで少しずつ流れが変わる気配があった。
「俺は力だけじゃねぇ。情報も仕入れてくるぜ」
香田はそう言い切った。
「この辺の奴らが何を考えてるか、調べてやる」
コウスケは思わず目を輝かせた。
「ほら見ろ!頼りになる仲間だろ!」
ゴウキは大きく伸びをして笑った。
「まぁ、悪くねぇな!」
ジンキは腕を組んだまま、夕陽に照らされた校庭を見下ろした。
「……これで少しは、潮多の風向きも変わるかもしれない」
風が吹き抜け、夕陽が四人の影を長く伸ばした。
新しい仲間を得た双天鬼。
その足音は、確かに次の戦いへと続いていた。
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