表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/51

第1話 伝説の息子たち

春の川沿いを二台の自転車が並んで走っていた。

川面に映る陽光がきらきらと反射し、吹き抜ける風はまだ冷たさを残している。


その上に跨るのは、幼いころから常に一緒だった二人の少年――豪鬼ゴウキ迅鬼ジンキ


ゴウキは大柄で、遠くからでも目立つ体格をしていた。

髪は少し伸びて寝ぐせが残り、着ているジャージはどこかラフ。だが笑顔は豪快で、周囲を安心させる明るさがある。


ジンキはスリムで切れ長の目をした寡黙な少年。

前傾姿勢でペダルを漕ぐ姿は無駄がなく、まるでボクサーがシャドーをするような鋭さが漂う。


二人は小さなころから隣の家のような距離感で育った。

朝は一緒に登校し、放課後は一緒に川原で遊び、夜は親の目を盗んでゲームに興じた。

ケンカも数え切れないほどしたが、それでも次の日には必ず笑って隣に座っていた。


「おいジンキ、競争な!」

「……またかよ。どうせお前、途中で景色見て転ぶだろ」

「バカ言え、今日の俺は一味ちがう!」


じゃれ合いながらもペダルを踏み込む。

こうして並んで走るのは、もう習慣のようなものだった。



中学に入ると、二人の力は一気に開花した。

入学して間もないころ、三年の不良グループが一年を囲んで金を巻き上げていた。


「財布出せや。お前ら下っ端なんだからよ」

一年生が震えながら財布を差し出そうとした瞬間――。


「おい、それやめろよ」

明るい声と共に現れたのはゴウキ。

「困ってるやつ見ると放っとけねぇんだよな」


「なんだお前……調子乗んなよ!」

三年が睨みつけると、横から静かな声が割り込んだ。


「三対一……いや、四対一か。数は関係ないけどな」

ジンキの冷ややかな視線に、相手が一瞬たじろぐ。


次の瞬間、ゴウキの拳が豪快に振り抜かれ、三年の一人を吹き飛ばした。

「どりゃあ!」


残る相手が動く前に、ジンキが間合いを詰め、正確に顎へワンツー。

「ぐっ……!」

たった数秒で形勢は逆転した。


それを見ていた一年生たちは声を失い、やがて歓声に変わった。

「すげぇ……!誰だあの二人!」

「嵐ヶ丘中の最強コンビだ!」


噂は瞬く間に広がり、二人の名前は町を越えて知られるようになった。

ゴウキは豪腕で敵を吹き飛ばす「力の鬼」。

ジンキは俊敏さで敵を翻弄する「速さの鬼」。


だが――三年の冬。

受験が迫るころ、二人の心にはそれぞれ違う迷いが芽生えていた。


「……俺ら、このまま喧嘩ばっかで終わんのかな」

放課後、夕陽に照らされたグラウンドで、ジンキがぽつりと漏らす。


「おいおい、どうしたよ」

ゴウキは缶ジュースを投げ渡しながら笑った。

「まぁ……でも、正直ちょっと飽きてきたな」


二人は黙り込み、オレンジ色の空を見上げた。

心のどこかで「恋をしてみたい」「普通の青春を送りたい」――そんな願望があった。

だが、不思議なことにその気持ちを相棒にだけは言えなかった。

(もし言ったら笑われるんじゃないか)

くだらない意地が、言葉を飲み込ませた。


そして――別々の夜に、それぞれ同じ決意を固めた。


(誰も俺のことを知らない土地で、一からやり直そう)


ゴウキは両親に「外で挑戦したい」と告げ、県外の高校を志望した。

父は「男は外に出て勝負だ!」と背中を叩き、母は心配しつつも応援してくれた。


ジンキは父に「自分の道を見つけたい」と伝えた。

世界を獲った父は静かに頷き、「ならば自分の拳で掴んでみろ」とだけ言った。


友人たちには「親の都合で」とごまかし、誰も真実を知らないまま卒業式を迎えた。



春。

県外の私立潮多工業高校の門をくぐったゴウキは、思わずため息をついた。


第一志望は女子が多い共学の進学校。

「青春を謳歌したい!」と胸を弾ませて挑んだが、結果は不合格。

仕方なく滑り止めで受けたのが、この“県内でも有名な不良の巣窟”だった。

しかも女子は一学年にわずか十人。


「……なんでだよ。俺の青春計画が……」


がっくり肩を落とし、昇降口をくぐった瞬間――。


「おい、新入生!カバン置いてけや!」

数人の不良が立ちふさがる。


(やれやれ……初日からかよ)

ゴウキは拳を握りかけた。


だが――背後から低い声が響いた。


「やめとけ。それ、初日からダサい」


振り返ったゴウキの目が見開かれる。

そこに立っていたのは――。


「……ジンキ!?」

「……ゴウキ!?」


一瞬の沈黙のあと、二人は同時に吹き出した。


「マジかよ!お互い考えること一緒か!」


不良たちは置き去りにされたように呆然とする。

だが二人の笑い声には、もう迷いはなかった。


別々に選んだはずの道。

だが、結局辿り着いたのは同じ場所だった。


桜の花びらが舞う入学式の朝。

豪鬼と迅鬼の物語は、新たな章へと踏み出した。


挿絵(By みてみん)

ここまでお読みくださり感謝です!

面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価をポチッとお願いします。励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ