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第4章 第4話 お辞儀

「あんた唆すわね。」


玲奈が言う。



「唆すよ?その価値がある人間なら。」


アキラが汗を拭きながら答える。



「あったってわけ、あの人にそれが。」



「 見てわかんなかった?見る目無いね、専属失格にするよ? 」


アキラが軽口で返す。


玲奈がむくれて返す。



「何が専属よ、あれはもう東堂社長が無しにしてくれたでしょうが。

ま、まあまあ良かったと思うわよ、流石配信者、無茶苦茶やるわねとは思ったけど。うん、結構良かった。」



「 へえへえ、有難う御座います。RePurgeも大して変わんないだろ、それにあの変な番組も。 」


紙コップからコーラを飲みながらアキラが言う。うぇ零れたとか言っている。



「馬鹿ね、そんな上向いて飲むからよ。それで変な番組って何よSILVER BULLETの事?あんたホントにあれ嫌いね。」



タオルをアキラの顔面に押し付けながら玲奈が言う。


玲奈にグシャグシャにされた顔と髪を直しながらアキラが答える。



「いやだってあれやっぱ気持ち悪いっしょ。リアルすぎてわかんないよ、あれ人でしょ。」



「東堂社長の名づけが気に入らないっての?」



玲奈がジリジリと間合いを詰める。 アキラは反射的に身を引く。



「いや、名前の事は言ってない。単純に怖いんだってAIやばすぎ。」


アキラは及び腰になりながら玲奈を躱す。



「で、何のようなん?番組見学来るほど暇じゃないっしょ?」


アキラが本題を急かす、早く帰りたいのだ。



「あー、あのさ。桜井さんに合わせてもらえないかなって。」



「 桜井?誰? 」


アキラが首を傾げる。



「エリカチンよ、桜井恵梨香でエリカチン。あんた付き合い長いんでしょ、それくらい知っときなさいよ。」


呆れたという表情でアキラを見やる玲奈。


へえ、そうなんだと思うアキラ。



「別にいいけど、なんで? 」



「私の知り合いが、あんたも知ってんでしょInovexの田中がエリカチンを取材したいって言ってんのよ。」



「 田中ああ、メガネね。」


アキラは指で輪を作り、目の前に持ってくるジェスチャーをする。



「じゃあメガネで良いじゃん、あんたはエリカチンになんか用あんの?」


アキラが玲奈に問いかける。特に興味はない、どっちでもいいがちょっと聞いてみただけだ。



「用?よう、特にないわね。」


考えて2秒で返事する玲奈。



「じゃあメガネだけでいいか、言っとくよ。」



「ちょっと待ちなさいよ、私も行くわよ。」


アキラは目を細める。



「なんで? 」



「のよ。」


玲奈はもごもごと言葉を濁す。



「ん?何?」



「会ってみたいじゃないのよ!」


玲奈が一気にまくしたてる。



「特に用は無くても、会ってみたいってあるじゃないのよ!なによ、あんたそれが悪いっての? 」



「い、いやまあそういうのはわからないでもないけど、あれ?俺悪い?」


アキラは無意識に後ずさる。



「悪くないわよ。じゃあお願いします。」


玲奈は背筋をピンと伸ばし、まるで公式の場で頭を下げるように完璧な角度でお辞儀をした。 それは礼儀の教科書に載せたいほどの美しさだった。


しかし、次の瞬間、スッと顔を上げるや否や、何事もなかったかのように颯爽とその場を後にする。


アキラは首を傾げ、呆れたように笑った。



「なんやねん、あいつ。」






桐生は大理石のテーブルに片肘をつき、手元のタブレットに映る深夜番組を静かに見つめていた。


そこでは赤いスーツに身を包んだアキラが、政治家をまるで王様ゲームの駒のように扱い、視聴者からの投票や生電話を試みている。


画面越しにも伝わる異様な熱気がスタジオを包んでいた。



「馬鹿馬鹿しい。」


桐生はそう呟きながら、視線をそらさずに番組の進行を追う。


アキラの毒舌や挑発に、ゲストの議員が一瞬息を呑みながらも次第に心を開き、最後には政治家個人の理想を公然と語ってしまう。



この番組は、ありきたりな報道や討論とはまったく違うアプローチだ。

視聴率はどうか。桐生はSNSのトレンドをざっと眺め、瞬間視聴率が深夜枠としては異例の10%越えを記録したと知る。


こんな化け物を放っておくわけにはいかないな。桐生は瞬時にデータを脳内で弾き出す。


このやり方、下品だが、無視できない。 桐生はため息をつく。


先ほど流れたCM中の番宣によれば、アキラはさらに政治家を何人も呼び出し王として振る舞わせるつもりらしい。


こんな無茶苦茶な企画に国会議員が応じるか、いや、だからこそ話題になる。

それに野党議員なら何人かは。


桐生はそこまで考えて苦笑する、もうやる気じゃないか。


アキラか。タブレットをオフにし、桐生は机の上の書類を軽く指先で弾いた。

そこには若菜の新番組に関する仮のスケジュールや、松岡から送られてきた社内メモが並んでいる。どれも既存フォーマットに則った番組作りが前提だ。


しかし、アキラのように既存ルールすら壊してみせる人間のほうが、この混沌とした時代にはむしろ強力な駒になり得る。



「こちらに来ないか、アキラ?」


桐生は小さく呟く。 その瞬間、スマホを取り出し、連絡先をざっとスクロールする。


アキラは大和テレビの外部タレント扱いだが、番組制作部や広告代理店経由でコンタクトは可能だろう。 だが、今すぐ動くべきか、それともまだ待つか。


桐生はタップしかけた指を止める。


あの配信者は掴みどころがない。迂闊に近づくと足元をすくわれるかもしれない。



それでも、東堂を追い落とすためには多少のリスクは負うべきか。


桐生は一度スマホを閉じ、再び机に向き直った。


番組はつい先ほど終わったばかりだ。アキラ本人が舞台裏でどう動いているか知らないが、彼の勢いが本物なら、大和テレビという枠を超えて政治家まで巻き込む嵐になるかもしれない。

東堂がどうだろうが関係ない、そんな人間なら早めに取り込んだほうが得策だ。 いや、取り込むというより。


さて、時期を見極めるか。


桐生は薄く微笑む。 まるで計算式を組むように頭の中で手順を並べ替え、アキラとの接触プランを立て始める。


外部の破壊力と、社内での盤石な布石が噛み合えば、大きなうねりとなるかもしれない。


あるいは想像以上に爆発力が大きいかもしれない。だが、それならそれで、利用する価値は十分だ。


アキラ、と言ったな。いいだろう。


数だけ揃えた与党や口先ばかりの野党を操るのは面倒だが、この男は意外と簡単に動いてくれるかもしれん。


桐生は小さく鼻で笑い、スマホをテーブルに置く。

その瞳はほの暗い光を宿していた。






玲奈さんは会議室から出て行った、正確には出て行かされたのかもしれないけど。


理由はよくわからない。


私は緊張しているのだろうか、別にいつもと変わらない気はする。


それもそうか、今はまだ会議の打ち合わせだ。

ディレクターさんが脚本を説明してくれる、ちゃんと家で覚えてきたのにな


私ははい、と返事するしかできない。

心配そうな目で見られる大丈夫です、頑張りますと言う。


第一回目はドッキリの設定でやるらしい。


私は何も聞かされず、新番組の報道でサブMCの役回りを任されて気合いが入っているという体らしい。ほんとに黙ってくれてれば良かったのに、そう言ったら微妙な顔をされた。


昨今その辺も難しいのらしい、色々ね、わかるでしょ大変だよねと言われた。


よくわからないけれど両肘を引いて気合を入れた演技を披露したら複雑な顔で見られた。



練習したのにな。


脚本家さんに台詞について打ち合わせをしようと言われて話してみたが、あなたは素の方がいいわねと言われた。2,3言しか交わしてないのにそんなことがわかるんだ、凄いと思った。


そうなると私は誰にも話しかけられなくなった、私も玲奈さんみたいに追い出されるのかなと思ったけど何も言われなかった。


台詞は覚えなくてもいいと言われたしドッキリを仕掛けられる側だからあまり覚えることもない、仕方がないからドッキリ報道番組の進行と台詞を覚えることにした。



集中していたらもう皆解散するみたいでお疲れ様と言われた。


別に疲れてない、浅沼さんがいなくなった後段ボールを捨てたりまた拾ってきたりしてた時の方が疲れたくらいだ。


なんでこんなことをするのかわからなかったけど仕事だからとやっていたら急にやらなくていいと言われた。


気付いたら浅沼さんが謝っていた、良いですよと言ったらまた謝られた。

だからもう何も言わなかった。



帰ろうかな。私は声に出さずに呟く。



バラエティは楽しいぞ、誰かが言っていた。


だから私はバラエティが好きだ。好きなものを一生懸命にやれば東堂社長みたいになれる。



「好きに生きろ。」


だって彼がそう言ったから。




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