第4章 第3話 王の誕生
桐山玲奈は混乱している。
どうなってんのよ、わけわかんないわよ。おかしいじゃないのよ、おかしいわよ。
私は何よ、そうよ桐山玲奈、責任者よ。なんで迷いネコみたいにつまみ出されんのよ、若菜も庇いなさいよ。手振ってんじゃないわよ、どうしちゃったのよ。
桐山玲奈は少し落ち着いてくる。おかしい、どうもこの状況は変だ。
松岡は言った。
「これは君たちありきの企画なんだよ。頼んだよ。」
どこがだ、完全に蚊帳の外じゃないか。
別に口を挟むつもりは無い。
報道ならまだしもバラエティは門外漢だ、自覚はある。
でもだからと言って企画会議は勿論編成会議すら入れてもらえないのはおかしいだろう。
木村に文句を言ってみたが、桐山さんにご負担を掛けないように伝えたもので行き違いがあったのかもしれないですね。
だから何よ、行き違いと言うなら訂正しなさいよ。そう言おうとしたら、では、と言われ通話を切られた。掛けなおす気もしなかったから、掛けなおさなかった。
見覚えのある男木村。
どうも苦手だ、玲奈のトークスキルが全てスルーされてる気がする。田中なんかもそんな感じだが木村は又違う。何だか冷たさの種類が違うのだ、玲奈に、いやあらゆるものに興味がない。何だかそんな感じだ。
「そう言えば、珍しく焦ってたな。」
あれはいつだったか、玲奈は木村にいつも違和感を持っている、持っているなりに違和感のパターンがある。
玲奈の人物評とは違和感の種類だ、その玲奈の人物評に於いて木村が通常通りの違和感出ない時があった。
あれはいつだ?
最近ずっと混乱してイライラして忘れていた。
何だか大事なことな気がするぞ、玲奈の勘が囁いている。
「あ、企画書だ。」
玲奈が松岡に呼び出されこの今の状況に追いやられる始まりの地点。
新番組の件で呼び出されたときに渡された白紙の企画書。
あれを忘れて取りに戻った時、机の上にあったメモ書き。
あれを見かけたときの木村の反応が違和感の正体だ。
なぜあんなものを玲奈に見せたくない?何が書いてあった?玲奈ははっきり思い出す。
知り合いの名が書いてあったからだ、なんでだろう?そう思ったからだ。
桜井恵梨香、鐵角薫。
メモにはそう書いてあった、桜井恵梨香、エリカチンだ。
鐵角とは面識がないが東堂との対談は勿論見ている、なかなかやるじゃない。
玲奈の鐵角評だ。
エリカチンと鐵角薫。二人の名前、だから何だ?
二人とも有名人で大和テレビとも縁がある人物だ、そんなもの何故隠す?
多分当たり前のように置いてあったままなら玲奈の違和感は発動しなかっただろう、知り合いの有名人の名前がメモ書きしてある。
何か番組の出演でもあるんです?
聞いたかもしれないし、多分聞いてないだろう木村苦手だし。
でも隠した、何故?
玲奈だから?
私が相手だから隠した?
松岡の目的は?決まってる東堂社長の更迭だ。
玲奈の推測が突き進む、でもそこまでだった。
東堂社長とエリカチンと、鐵角薫。
だから何だ?玲奈の嗜好はグルグル回る、仕事を与えられてない為暇だから。
玲奈はずっと考えている、だから玲奈はしばらく気付かなかった。
「玲奈さん、玲奈さん?」
田中が玲奈を呼ぶ声に。
「あ、ああ田中、さん。」
玲奈は急速に現実に引き戻される。
「どうしたの?」
「どうしたの?じゃないでしょうに。明らかに怒ってるなってドタバタしてたと思ったら、
急にピタッと止まって動かなくなったら誰でも心配になるでしょう。」
田中が眼鏡の奥から心配そうな瞳で言う。
「ドタバタ、、、何時から見てたのよ?」
玲奈が田中を睨む。
「あそこの扉から追い出されるとこらからですけど?」
玲奈が編成会議から追い出された部屋の扉を差して言う。
「は、初めからじゃないの。なんであんたは毎度毎度すぐ声かけないのよ。」
玲奈憤慨。
「滑稽ですから。それよりどうなされたんです?め、えらく真剣に悩まれてたようですが。」
口を滑らせかけた田中は真剣な表情を作り玲奈に問いかけた。
「こっけい。あ、そうなのよ時は遡るわ、心して聞きなさい。」
玲奈は田中に負けじと真剣な顔で告げる。
「結論から話してくださいね、まあ場所変えましょうか。」
「と、いう訳なのよ。おかしいでしょ。若菜もなんだか変だし」
一気に話し切った玲奈はイチゴミルクのペットボトルを傾ける。
そんなものよくガブガブ飲めるなと田中は思ったが無視して言う。
「確かに色々変ですね。特にメモの件は気にかかりますね、鐵角薫と桜井恵梨香。二人に共通点、いや別件でたまたま?考えにくいか。」
田中は顎に手をやり、考え込む。
「玲奈さん、私はその木村さんをよくは存じ上げないんですが、その時の動き彼らしく感じなかったんですね?」
「な、なによ。私の主観なんだから仕方ないじゃないのよ、それに私も木村の事なんてよく知らないわよ。見たことがあるだけよ。」
玲奈はなぜか田中に攻められているように感じ口を尖らせる。
「いえ、信用していますよ。これは少し調べたほうがいいかもしれない、何か動いていま
す。」
「何かって何よ。」
玲奈が問う。
「それを調べるんですよ、玲奈さん。あなたは桜井さんとアポを取れますか?」
「え、エリカチンさんと?そうねアキラ経由でならとれるかも。」
玲奈が少し考えてから答える。
「ならそうしてください、但しアポが取れて会うときは私も同行させてください。理由は取材したいでも何でもいいですお願いしますね。」
田中は玲奈にそう告げると、立ち上がろうとする。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。何一人で分かってんのよ。説明しなさいよ。」
玲奈が田中の袖を引っ張る。
「何もわかりませんよ、ただ松岡さんが何か仕掛けようとしているのは確かです。そして彼が何か仕掛けるとしたら狙いは一つしかない。」
田中は玲奈を見つめて言う。
「東堂社長。」
玲奈が呟く。
「そういうことです、時間があるのかないのかすらわからない。こういう時は動くんです。動けば何かにあたります。」
そう言うと田中は今度こそ立ち上がり去って行くのだった。
意外と脳筋なのね。玲奈はそんな失礼なことを思いながら、田中の背を見送る。
松岡が狙うのは東堂社長。田中の言葉が玲奈の頭を支配する、わかっていた筈だ。
その為に、それを探るために松岡に近づいた筈だしそのことを忘れたことは無い。
しかし「手を繋ぐ」そして新番組の件、何よりその新番組でぞんざいな扱いを受けることで玲奈の心はかき乱されてはいなかったか?
かき乱されていた、それはもうぐちゃぐちゃに。
おのれ、松岡。
玲奈はフンスと立ち上がると気合を入れなおす。
この時期に松岡の立ち上げる番組、しかも意表を突いたバラエティ。
何か企んでいないわけがないのだ。
先ずは若菜と話さなくちゃ、そしてエリカチンも。
新番組の件が始まってから混乱し続けていた玲奈の頭は、やっと正常に回転し始めるのだった。
「はい、カメラチェック完了しました!」
大和テレビ第3スタジオ。
セットの奥からスタッフの声が響く。
スタジオは、従来の報道番組とはまるで違う空気をまとっていた。
背景には無駄に豪華なシャンデリア。中央には、無意味にデカい円卓。
ゴールド、ゴールド、ゴールド眩しいくらいにキラキラとしたそのセットは悪趣味極まりない。
そして、その円卓の中央には 「KING」 と彫られた金のプレートが埋め込まれている。
深夜枠で政治番組?しかも、司会はあの 「アキラ」。
誰もが「冗談だろ?」と思ったこの企画が、今まさに本当に始まろうとしていた。
「さて、そろそろ行こかあ。」
円卓の中央に座るアキラが、椅子をガタンと鳴らして立ち上がる。
赤のベルベットのスーツに身を包み、どこからどう見てもニュース番組のMCには見えない。
だけど、それがいい。
「じゃあ、みんな。今日から始まる俺の番組「アキラの城」、いくで。」
カウントダウン開始。
5…4…3…2…1…
ON AIR。
「ようこそ、俺の城へ!」
第一声からこれである。
これがニュース番組か?いや、違う。
「皆さん初めまして、アキラです。僕は最近になってちょっと政治に興味持ち始めました。今までは政治の話とかしたら僕の視聴者さん興味ないやろし離れると思っとってんか。
でも、僕も30前になって、視聴者さんの年齢層も高くなってきてそういうの興味あるって声も結構聞くようになってました。それで政治の配信とか見て勉強してみたんですよ。」
アキラが番組冒頭一人語りを始める。
言葉遣いは彼なりに丁寧だが玉座に腰かけたまま頬杖をついて喋る姿はまさに王そのもだ。
「めっっっっちゃ、しょうもないな。そう思いました、いや一つ一つの話は掘り下げたら見れるんですよ。
もうね、壊滅的に見せ方がなってない。
配信者なら失格ですよ、でも配信者ならいいんです、自分の事やから。
でも政治家は伝えなあかんでしょ、やらなあかんでしょ。金貰っとんやから。
て、ことでこの番組では政治家の先生とね一緒に遊んで学ぼうかと思います。」
身振りを入れながら力説したアキラは後ろのスクリーンを振り返る。
するとスクリーンが切り替わり、今日のゲストの名前が映し出された。
「現役国会議員 飯塚伝治」
観覧席の観客がどよめく。
まさか、本当に議員が来るとは誰も思っていなかった。
「こんばんは、ええと。本当にこういうノリですか?」
スーツ姿の議員が戸惑いながら登場する。
通常のニュース番組とは違い、ゲストの座る椅子もまた王座のような作りになっている。
うわ、すごいな。そう言いながら議員は玉座に腰掛ける。
アキラはニヤリと笑い、
「今夜は政治家じゃなく、王様として話してもらいます」
と宣言する。
「お、王様?それはちょっと。」
議員が少しアキラの発言に難色を示す。
「何言ってんすか?国民のみんなに投票で選んでもらって地域の代表なんでしょ?
じゃあ地域を代表する王様やないですか?
そう思ってやってもらわんと投票した人に示しつかんのとちゃいます?」
アキラがニヤリと笑いながら言うと、スタジオの空気がピリッと緊張感を帯びる。
議員、飯塚伝治は、戸惑いながらも無理に笑顔を作る。
「はは、まあ、確かにそういう考え方もできますね。」
「そうそう!飯塚王、ええやん!」
アキラが軽快に話を続けると、スクリーンのコメント欄が次々と流れる。
【王www】
【めっちゃ煽られてるやんw】
【飯塚王ってなんやねんwww】
【でもアキラの言うこと、わからんでもない】
スタジオの雰囲気に飲まれ、飯塚も仕方なく苦笑いしながら玉座に深く腰掛ける。
「まあ、いいでしょう。今日は王様として話しましょうか。」
アキラはニヤリと笑い、拍手をする。
「それでこそ王様や!よし、じゃあ国の未来について考えよか!」
アキラが指を鳴らすと、スクリーンに【本日の王の決断】と表示される。
「今日のテーマはこれ!ドン!」
スクリーンに映し出されたのは
【消費税いる?いらない?】
「さあ、飯塚王。この国のルールを決めるのはあんたや。YESかNOか、国民にどう言う?」
飯塚は一瞬たじろぐ。
「いやいや、それは、そんな簡単に決められるものじゃないですよ。
いろんな議論が必要ですし。」
「おっ、議論?もちろん大事や!ほな、今ここで議論しよや。」
アキラは観客席に向かって手を広げる。
「これどう思う?消費税いる?いらん?投票して貰おか。」
アキラが指を鳴らすと、画面に【生投票開始】の文字が浮かび上がる。
【投票テーマ】消費税いる?いらない・
○ いる
✕ いらない
画面にはリアルタイムで視聴者の投票率が表示されていく。
飯塚は目を見開いたまま、黙ってその数字を見つめる。
「王、これが民意ですよ。」
アキラの言葉に、議員はぐっと息を呑んだ。
飯塚議員の顔は、蒼白だった。
視聴者投票の結果が、画面いっぱいに浮かび上がる。
【消費税いらない】65%
【消費税いる】35%
ドラムロールのSEが流れ、スタジオは異様な緊張感に包まれた。
アキラは玉座にゆったりともたれかかりながら、頬杖をついてニヤリと笑う。
「王様、決断の時やで。」
飯塚は、喉を鳴らす。
「いや、これは、流石に。」
「流石に?」
アキラが眉を上げる。視聴者のコメント欄は、すでに爆発していた。
【逃げんな飯塚】
【王なら決めろ!】
【消費税無くして財源どうすんのさ?】
【現実的じゃないんだよな】
飯塚の額に汗が滲む。
「その、消費税というのは、財源として必要なわけです。国の運営のためには。」
アキラはわざと驚いた顔を作る。
「えっ、でも国民の65%がいらんって言ってるで?」
「消費税を無くせば代わりをどこかから徴収しなければなりません。
それを言わずに耳障りのいいことを言うだけではそれこそ国民を騙すことになります。」
「ほんなら、現実的な意見を聞いてみよか。」
アキラはポケットからスマホを取り出し、軽くスクロールすると、さも当然のように言った。
「財務大臣に電話してみよ。」
飯塚の顔が強張る。
「え?いや、それは。」
「なんや、飯塚さん。都合悪いんです?」
アキラはニヤリと笑いながら、スマホを耳に当てた。
視聴者コメント欄は爆発する。
【マジかよ】
【こいつマジなんなん】
【非常識すぎ】
【でも出たら伝説】
コール音が鳴る。
一回、二回、三回。
飯塚は苦い顔でアキラを睨んだ。
「彼は今、お忙しいはずです。」
「そら忙しいやろなあ。国民の金どうするか決めるんやから。ほんでもな、王様。今、65%の国民が消費税いらん言うてるんや。
そこはちゃんと説明してもらわなあかんやろ。」
四回、五回。
まだ繋がらない。
【まあ65%と言ってもこの番組見てるようなレベルの人間ですし】
【誰か関係者止めろよ】
【相手しないよ、ってか掛けてないだろ】
【大臣ガン無視wwww】
飯塚は深く息を吐き、苦笑した。
「彼に繋がったとしても私と同じ答えですよ。この国の政治は誰か一人の一存で決められ様なものでは無いんです。」
その言葉に何かが切れる。
プツッ。
アキラはスマホを切り、ゆっくりと顔を上げた。緊張感に客席が鎮まる。
【え?切った?】
【アキラが切ったよね?飽きた?】
アキラからは笑顔が消え細めた目で飯塚を見る。
「ほんなら、あんたはなんなん?みんなが投票して、選挙で選んだあんたはなんでみんなの意見をかなえようと動かんの?」
飯塚はアキラの迫力に気圧されながらも答える。
「それは、政治を動かすのには時間がかかるものなんです。だからこそ我々は国民の意見を国会に届け。」
「届けるだけなん?郵便屋さんなん?届けても変わらへんから皆こまってるんちゃうの?」
飯塚は苦笑し、肩をすくめる。
しかし、その目は焦っていた。
「政治とは、そんなに単純なものじゃないんです。」
「ほう?」
アキラは興味深そうに首を傾げた。
「なら、単純に説明してくれへん?みんなにわかるように。」
飯塚は言葉に詰まる。
【エラそうで嫌いやわあアキラ】
【政治家ってこういう時に何も言えんよな】
【なんで国民がわかるように話せないの?】
【やば、アキラ怖】
スタジオは静まり返っていた。
「飯塚さん、ええか?」
アキラはゆっくりと立ち上がり、円卓を指でトントンと叩く。
「国民が理解できへん政治
って、おかしない?」
飯塚は汗を拭った。
「いや、それは。」
「いや、それは、ちゃうやろ。」
アキラが飯塚の言葉を遮る。
「飯塚さん、あんたら政治家は、国民の代表やろ?
国民の代わりに政治を考えて、国民のために動くんが仕事やろ?」
「そうですね、だからその為に我々は政策を立案し提出しているんです。
けれどもそれは民主主義の国会に於いて数の論理で押しつぶされるんです。
正しいか正しくないかで政治は動いてないんですよ。」
「なんで?」
アキラが心底不思議そうに飯塚に尋ねる。会場は息を吞むのも憚られるような静寂に包まれる。
「正しいと思うことに賛成して、正しくないってことに反対したらええやん。その為の議員なんやろ?」
「アキラさんはあまり政治に今まで関心をお持ちでなかったとお伺いしていましたが成程ですね。」
飯塚はアキラの言葉に少し余裕を取り戻したように咳ばらいを一つする。
「我々政治家は確かに市民国民の皆様の負託、ええ投票によって国会議員となっています。しかし500名以上いる議会に於いては我々の一票は一票の価値しかないのです。」
「うん、それはわかるで。」
アキラが素直に頷く。
「だから私一人が何かに賛成しても反対しても大勢は動かない。だから私たちは考え方の近いものが集まって政党と言う集まりを作ります。
一人の意見では無く皆の考え方を集約して大きな力にしようという考え方ですね。
ところがこの政党、近い考え方の者が集まったとはいえ一つ一つの法案については皆少しづつ意見が違います。
けれどもそこでバラバラになってしまっては党が纏まりません。だから党でこの法案には皆で賛成しよう、反対しようと決めて数の多い与党と戦うんですよ。」
飯塚は小さく頷きながら、自分の説明に満足していた。
「ぜんぜんわからん。なんでそんなめんどくさい集まり作らんといかんの?」
アキラは素直に疑問をぶつける。
「だって飯塚さんは一つ一つの案に対して意見あるんやろ?なら素直にその意見のままに賛成反対したらええやん?」
「いや、だからそれでは少数の意見が意味をなさなくなってしまうと。」
「いや、だからなんで?500人おるんやろ?みんながそれぞれの意見を賛成反対したら結果は出るやん絶対に。
なんでいちいち政党?の意見の通り動かんといかんの?皆飯塚さん「個人に」王になって欲しくて投票するんやろ、他の王の意見のまんま動くんやったら飯塚さんじゃなくてもええやん。」
アキラは素朴に疑問を投げかけ続ける。
「そんな綺麗事じゃ政治は回りませんよ。第一選挙に勝てません。」
「ごめんね飯塚さん何回も聞いて、でもなんで?
飯塚さん人気ないの?それって飯塚さんが自分のやりたい事とか飯塚さんの事をみんなが知らんからちゃうの、俺今日初めて飯塚さんと喋ったけど飯塚さんの事好きやで?
俺ら配信者でも売れるやつと売れん奴の違いは俺ら自身を視聴者に受け入れてもらってるかどうかよ?
人に受け入れてもらいたかったら自分が隠し事して本音出してなかったらそら誰も好きになってくれへんし番組も見てもらわれへんよ。
飯塚さんカッコつけてない?」
「いや、私はちゃんと自分の言葉で信念をもって政治に国民の皆さんに向き合ってます。カッコなぞつけてはいません。」
飯塚は背筋を伸ばしアキラに向き合って言う。
「え、じゃあなんで綺麗事じゃあかんの?飯塚さんの理想って何?それって綺麗事じゃないん?
綺麗な理想掲げてそれを実現したくて政治家になったんちゃうの、やったら綺麗事力いっぱい言うたらええやん。それが本気やったら皆飯塚さん好きになると思うで?」
俺みたいに、と言う言葉を溢しながらアキラは飯塚に告げた。
「カッコをつけているつもりはありません。ただ、政治というのは、単に「自分が正しいと思うことを叫べばいい」というものではないんです。」
「へえ?」
アキラはニヤリと笑う。
「言うたらあかんこと、あるん?」
「言っても通らないこと。があるんです。」
飯塚は静かに言った。
「政治家はただの理想家ではありません。現実と理想の間で、どうやって一歩ずつ前に進むかを考える仕事です。自分の意見だけを貫いて、誰にも相手にされなかったら、それこそ何もできないまま終わります。」
アキラは腕を組み、少し考え込んだ。
「つまり、綺麗事だけ言ってても、何も変えられへんと?」
「そうです。」
「でもなあ、飯塚さん。」
アキラは肩をすくめ、フッと笑った。
「綺麗事言わん政治家も、何も変えられてへんやん?」
飯塚は、何も言えなかった。
スタジオには、妙な沈黙が流れる。
アキラの言葉が響いたのは飯塚にだけではない
【それな】
【結局、誰も何も変えられてないやん】
【こんなの綺麗事だけど今は綺麗事もいえてないってことか】
【飯塚、ぐぬぬ】
飯塚は静かに息を吐いた。
ゆっくりと手を組み直し、目を閉じる。
「確かに、そうかもしれませんね。」
アキラが少し驚いた顔をする。
「お?」
飯塚は目を開け、アキラをまっすぐ見据えた。
「正直に言います。私も、政治のこの仕組みが正しいとは思っていません。」
視聴者のコメントが一気に動き出す。
【まあそうだよな】
【言って演歌】
【じゃあ変えろよ!】
【変えられんから困ってるんだろ】
「けれど、変えるためには、まずこの仕組みの中で生き残らなければならない。理想だけでは、戦えないんです。」
アキラは、円卓に手をタンっと突き言う。
「飯塚さん、あんたにとっての勝ちってなんなん?」
「それは。」
飯塚は一瞬、言葉を詰まらせた。
「私の理想とする社会です。」
「聞きたいな。」
飯塚は、少し口を引き結んだあと、静かに語り始めた。
「誰もが正しいと思うことを、恐れずに言える社会です。」
アキラは目を細める。
「でも、今の飯塚さん、それ言えてへんよな?」
「ええ、そうですね。」
飯塚は苦笑した。
「それが、今の私の限界なのかもしれません。」
「じゃあ、限界突破してみよや。」
アキラはニヤリと笑った。
「ここ、全国放送やで?飯塚さんの「理想」みんなに言うてみいな。」
スタジオがざわめいた。
飯塚は、ゆっくりと息を吸い込む。
「そうですね。では、私の理想を、ここで言わせてもらいます。」
【言うのか?】
【飯塚覚悟決めた?】
飯塚は背筋を伸ばし、真正面を向く。
「私は、政治家が、党の意向ではなく。自分自身の信念で判断できる政治を作りたい。」
【はい離党】
【マジで言っちゃった】
【唆された!!】
【こういうのが見たかった】
アキラは、ふっと笑った。
「それ、めっちゃええやん。それが言いたかったんやろ?最初からそう言えばよかったやん。」
飯塚は、ふっと笑った。
「確かに、そうかもしれませんね。」
アキラは満足そうに頷いた。
「ほな、飯塚さん、これからどうする?」
飯塚は、ゆっくりと立ち上がり、スタジオを見渡した。
ふうと息を吐き、立ち尽くす。スタジオの目は飯塚に注がれ沈黙が彼を押す。
「私は」
一人の王は息を呑みこみ解き放つ。
「今日ここで言ったことを、現実にするために動きます。」
【おおおおおおお!!】
【飯塚覚醒!】
【いや、飯塚没落の始まりだろ】
【唆されて離党宣言とか、しかもアキラごときにwww】
アキラは、ゆっくりと手を叩く。
「王様の誕生やで、みんな拍手。」
会場の観客からも大きな拍手が巻き起こる。
【おおおぱちぱち】
【ぱちぱちぱちぱちぱちぱち】
【次回、飯塚路頭に迷う。】
【これアキラ責任とれんの?】
【なんでアキラが責任取る必要があんだよ】
「飯塚さん、また来てや。」
アキラが飯塚の耳元で囁く。
「ええ、必ず。」
飯塚の眼差しは何かを決意した男の純粋なだけではない光を宿す。
飯塚とアキラの握手で会場の拍手は更に強まり番組は終わった。
そして、余韻は続く。それは少しづつ、けれども確かな結果を世の中に刻もうとしている。




