汚嬢様は砕けない!
青い空。
白い雲。
さわやかに風が吹く。
私は学校の中庭のベンチに腰をかけていた。
手にはカード。
私はそれを眺めている。
『沙羅×乃恵瑠』と書かれたカード。
沙羅ちゃんと乃恵瑠が楽しそうに笑っている絵が描かれている。
カードの隅にはHRとの表示。
これは朝起きたら私の部屋の机の上に乗っていたものだ。
明らかに超常現象。
神の野郎の仕業だろうか?
私は渋い顔をした。
もー!
わけがわからん!
「亜矢ちゃーん!」
沙羅ちゃんが手を振りながら私の方へ歩いてきた。
「やっほー沙羅ちゃん♪」
私も手を振り返す。
あれから私は大活躍だった。
私は地下駐車場の駐めてあった修ちゃんの族車仕様のバイクを奪うと木刀片手に学校に突撃。
ポリスに通報されながらも、不正の証拠を全部そこでぶちまけた。
そして一週間の停学という名誉の負傷と引き替えに学校の首脳陣を(物理的に)成敗したのだ。
(警察は権力でどうにかした)
バーコードハゲの賄賂をもらっていた首脳陣は全員辞任……を強要された。
要するにクビだ。
さらに『ああコラァマスコミに垂れ込むぞ? ああん?』と、親父を脅迫した私は、沙羅ちゃんの自由を勝ち取った。
沙羅ちゃんは退学を免れ、私は未来を変えたのだ。
……たぶん。
「沙羅ちゃん。本当に学校休学するの?」
「うん。この子を産むのに専念するんだ」
「学校には戻ってくるの?」
「うん。出席日数は足りないけど、先生は九月卒業でいいって」
「そっか。ところで白瀬のアホは……」
「もう亜矢ちゃん! 白瀬くんはアホなんかじゃないよ! ちゃんと謝ってくれたんだから!」
亜矢ちゃんは白瀬とヨリを戻した。
卒業後に結婚する予定らしい。
いろいろと思うところはあるが本人が幸せなら私は口を挟む気はない。
「亜矢ちゃんも馬淵くんと幸せにね」
亜矢ちゃんがニコッと笑い、私は頭を垂れた。
だうーん……
「沙羅先生……私の好感度はすでにMAXなのですが、どんなにがんばっても修ちゃんのフラグが立ちません……」
「ふふふ。そんなことないと思うよ。だって亜矢ちゃんは王子様だから♪」
んま!
王子様!
今、少しアイデンティティが揺らいだ。
自分ではお姫様のつもりなんだけど……
「だから馬淵くんは恥ずかしがってるだけだと思うよ」
「そうかなあ?」
おかしい!
それにしては誘惑しても鉄壁の防御で阻まれてるッス。
「ふふふ。自信を持って亜矢ちゃんはステキな女の子だよ。あ、ほら、馬淵くん来たよ」
修ちゃんが走ってくる。
「うん。じゃあね沙羅ちゃん!」
私が手を振ると、沙羅ちゃんも手を振った。
「お幸せにねー♪」
私は沙羅ちゃんと別れ修ちゃんの方へ行く。
「汚嬢様。課題の提出終わりやがりました」
『課題』とは私と修ちゃんの停学中の宿題のことだ。
修ちゃんもバイクの持ち主だったので連帯責任で停学になったのだ。
それを少し根に持っている。
「ぶー。いいじゃん修ちゃん。大学行けなかったらうちに永久就職すれば。主に婿として」
会社が存続すればの話だけどね。
「お断りします」
笑顔で言いやがった。
あとで憶えてろ……
「あのさ修ちゃん」
「なんですかお嬢様」
「これからさ、またこういうことがあるかも……ごめんね」
レアカードやらなんやらがあるからね。
たぶんまた騒動が起きると思う。
先に謝っておこう。
「かしこまりました。どこまでもお付き合いいたします」
修ちゃんは笑顔でかしこまった。
「え?」
「だってお嬢様は無敵ですから」
そう言って笑う修ちゃんの顔はとても格好いい。
「修ちゃん。これからもよろしくね」
「はい。お嬢様」
そう言うと私は修ちゃんと手を繋いだ。
ああ、そうだ。
これから先、何があっても修ちゃんと私なら乗り越えられる。
二人なら乗り越えられる。
神様にだって負けない。
だって私たちは二人で無敵なのだから。




