第六話 お不動様の話
お不動様は、不動尊とも言いますが、
観音・地蔵と並んで我々になじみの深い仏です。
母のような微笑を浮かべる観音、
のどかな雰囲気の地蔵と異なり、
忿怒の相を表していて、恐い感じの仏です。
有名なところでは、千葉の成田山新勝寺、三不動と言って、
黄不動(三井寺)、青不動(京都・青蓮院)、
赤不動(高野山明王院)が良く知られています。
そしてそれほど有名でなくても、
大抵のお寺にはお不動様がおられることが多いです。
お不動様の正式の名前は、
不動明王で、密教の根本尊である大日如来の化身、
あるいはその内証(内心の決意)を表現したものである
と見なされています。
不動明王は悪魔を降伏するために恐ろしい姿をされ、
すべての障害を打ち砕き、
おとなしく仏道に従わないものを
無理矢理にでも導き救済するという役目を持っておられ
真言宗の教主「大日如来」の使者です。
お姿は、目を怒らせ、
右手に宝剣を持ち左手に縄を持つ
大変恐ろしい姿をしておられますが
そのお心は人々を救済しようとする
厳しくもやさしい慈悲に満ちております。
右手に持つ剣は、破邪顕正を示します。
そして左の羂索で、進むべき道へ引っ張って行って下さる。
不動明王は怒っているだけではありません。
しっかりがんばれ、
愚かな迷いに負けるなと励まして下さっているのです。
不動明王の古い像は、
両眼を正面に見開き、前歯で下唇を噛んで、
左右の牙を下向きに出した表情で製作されていましたが、
時代が降るにつれ、
天地眼(右眼を見開き左眼をすがめる、
あるいは右眼で天、左眼で地を睨む)、
牙上下出(右の牙を上方、左の牙を下方に向けて出す)という、
左右非対称の姿の像が多くなります。
また不動明王は、
矜羯羅童子と
制多迦童子を両脇に従えた
三尊の形式で絵画や彫像に表わされることも多いです
(不動明王二童子像または不動三尊像と言う)。
三尊形式の場合、
不動明王の右(向かって左)に制多迦童子、
左(向かって右)に矜羯羅童子を配置するのが普通です。
矜羯羅童子は童顔で、
合掌して一心に不動明王を見上げる姿に表わされるものが多く、
制多迦童子は対照的に、
金剛杵と金剛棒(いずれも武器)を手にして
いたずら小僧のように表現されたものが多いのです。
不動明王の前で盛んに祈祷が行われるのは、
不動明王には大威力があって難を除き、
魔を降伏し、
すべての人にわけ隔てなく利益を与えてくださるからです。
また、人の死後は
必ず最初に(初七日に)不動明王の導きをうけることは
一般にもよく知られています。