↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/33

銭の大冒険③

森。


一歩。


また一歩。


子供たちは。


森の奥へと進んでいた。


先頭を歩くのは。


銭。


右手には。


街で拾った一本の棒。


そのすぐ後ろを。


アーニー。


薬草の場所を知る少女。


そして。


数人の子供たちが続く。


「……」


誰も。


喋らない。


先ほどまでの威勢は。


どこかへ消えていた。


ザワッ。


「……!」


全員が。


足を止めた。


「い、今なんかいたぞ!」


アーニーの子分が。


木々の間を指差す。


銭が。


じっと見る。


「……」


何もいない。


「風じゃ」


「そ、そうか……」


再び。


歩き出す。


ザザッ!


「うわあああっ!」


「なんじゃ!」


「い、今度こそいた!」


銭が。


棒を構える。


子供たちも。


身を寄せ合った。


「どこじゃ!」


「あそこ!」


草むら。


ガサガサと。


何かが動いている。


「……」


銭が。


棒を握り締める。


アーニーも。


拳を構えた。


ガサッ!


飛び出した。


「うわああああ!」


子供たちが。


一斉に叫ぶ。


「……」


小さな獣が。


驚いたように。


こちらを見ていた。


「……」


「……」


獣は。


一目散に。


逃げていった。


「……なんだよ」


アーニーが。


息を吐く。


「ただの獣じゃねえか」


「お主」


銭が。


アーニーを見る。


「今、叫んだな」


「叫んでねえ!」


「叫んだぞ」


「叫んでねえ!」


「俺も聞いた」


「うるせえ!」


アーニーが。


子分の頭を叩いた。


「いてえ!」


銭が。


ふんと鼻を鳴らす。


そして。


再び歩き出す。


「参るぞ」


「おう……」



どれほど。


歩いただろう。


森は。


さらに深くなっていた。


空を覆う木々。


昼だというのに。


辺りは薄暗い。


「まだか?」


アーニーが。


少女へ尋ねる。


「もう少し……だと思う」


「だと思う?」


「お父さんと来た時は……」


少女が。


不安そうに周囲を見る。


「こんなに遠くなかった気がする」


「……」


アーニーが。


銭を見る。


銭も。


アーニーを見る。


「迷ったのか?」


「迷ってない!」


少女が。


慌てて首を振る。


その時。


ぴちゃ。


何かが。


銭の足元へ落ちた。


「……?」


銭が。


下を見る。


半透明。


ぷるぷると。


揺れている。


「なんじゃ、これは」


「銭!」


少女が。


叫んだ。


「離れて!」


「む?」


半透明の塊が。


突然。


跳ねた。


「うわっ!」


銭が。


飛び退く。


べちゃっ!


先ほどまで。


銭がいた場所へ。


塊が落ちる。


「モンスターだ!」


「スライム!」


子供たちが。


一斉に後ずさる。


「これが?」


銭が。


棒を構えた。


スライムが。


ぷるぷると震える。


「……」


銭が。


睨む。


スライムも。


銭を見ている。


ような気がする。


「どこが顔じゃ?」


「知らねえよ!」


「どこを殴ればよい?」


「それも知らねえよ!」


「役に立たんな」


「俺に聞くな!」


スライムが。


跳ねた。


「来たぞ!」


「うおおお!」


銭が。


棒を振る。


バシッ!


「……!」


当たった。


だが。


棒が。


めり込んだ。


「む?」


抜けない。


「銭!」


「ぬぬぬぬ!」


銭が。


棒を引っ張る。


スライムが。


棒に絡みつく。


「離せ!」


「棒を離せよ!」


「これは俺の武器じゃ!」


「ただの棒だろ!」


「大事な棒じゃ!」


「いつからだよ!」


アーニーが。


スライムへ。


蹴りを入れた。


「うおりゃ!」


べちゃっ!


「……へ?」


足が。


埋まった。


「抜けねえ!」


「アーニー!」


「助けろ!」


「お主も捕まっておるではないか!」


「いいから助けろ!」


「兄貴!」


子分たちが。


アーニーを引っ張る。


少女たちが。


銭を引っ張る。


「せーの!」


「ぬおおおお!」


「引けぇ!」


「兄貴、重い!」


「うるせえ!」


すぽん!


アーニーの足が。


抜けた。


勢い余って。


子分たちが。


まとめて転がる。


「今だ!」


銭が。


棒を手放した。


「石じゃ!」


「石!?」


「投げろ!」


「お、おう!」


子供たちが。


足元の石を拾う。


「それっ!」


「くらえ!」


「この野郎!」


次々と。


石が飛ぶ。


べちゃ。


べちゃ。


べちゃ。


スライムが。


揺れる。


「効いてるぞ!」


「もっとじゃ!」


「うおおおお!」


石。


枝。


土。


手当たり次第。


投げつける。


やがて。


ぷるぷると震えていたスライムが。


ぺしゃりと。


地面へ広がった。


「……」


子供たちが。


動きを止める。


「……死んだ?」


アーニーが。


恐る恐る近づく。


「触るな」


「分かってるよ」


棒を取り戻した銭が。


先端で。


つん。


「……」


反応はない。


もう一度。


つん。


「……」


銭が。


振り返った。


「倒したぞ」


「……」


一瞬。


静まり返る。


「や……」


アーニーが。


拳を上げた。


「やったぁぁぁ!」


「倒した!」


「俺たち、モンスターを倒したぞ!」


「すげえ!」


子供たちが。


飛び跳ねる。


先ほどまで。


震えていたことなど。


すっかり忘れていた。


銭も。


得意げに。


胸を張る。


「大したことなかったな」


「めちゃくちゃ苦戦しただろ!」


「しておらぬ」


「してた!」


「しておらぬ!」


「棒取られてたじゃねえか!」


「取られておらぬ!」


「取られてた!」



しばらくして。


「あっ!」


少女が。


突然走り出した。


「おい!」


銭たちが。


その後を追う。


少女が。


草むらの前へ。


しゃがみ込んだ。


「これ!」


「これだよ!」


「おばあちゃんの薬草!」


「……!」


銭が。


隣へしゃがむ。


小さな葉。


見たところ。


ただの草と。


大して変わらない。


「これか?」


「うん!」


少女が。


何度も頷く。


「これを煎じて飲ませれば……!」


目に。


涙が浮かぶ。


だが。


今度の涙は。


先ほどとは違った。


「よかった……」


「おばあちゃん……」


銭が。


頷いた。


「ならば取れるだけ取って参ろう」


「うん!」


子供たちが。


薬草を摘み始める。


「これもか?」


「それは違う」


「これは?」


「それも違う」


「これ?」


「ただの草」


「全部同じに見えるぞ!」


「ちゃんと見て!」


やがて。


持ってきた布へ。


十分な薬草が集まった。


「これだけあれば大丈夫」


少女が。


大切そうに。


薬草を包む。


銭が。


立ち上がった。


「では戻るぞ」


「おう!」


その時。


声が聞こえた。


「ギャッ」


「……」


銭が。


止まる。


「今の……」


アーニーも。


顔を上げる。


「なんだ?」


また。


聞こえた。


「ギギッ」


「ギャッ、ギャッ」


「……!」


少女の顔が。


青くなった。


「ゴブリン……」


「ごぶりん?」


「隠れて!」


子供たちが。


慌てて。


茂みへ飛び込む。


銭も。


アーニーに引っ張られ。


身を低くした。


「何をする」


「静かにしろ!」


アーニーが。


口元へ指を立てる。


木々の向こう。


三つの影が。


現れた。


小柄な身体。


緑がかった肌。


手には。


粗末な武器。


三匹。


「……」


銭が。


じっと見る。


スライムとは。


違う。


武器を。


持っている。


子供たちは。


息を殺した。


ゴブリンたちは。


まだ。


こちらに気づいていない。


一匹。


また一匹。


通り過ぎる。


「……」


あと少し。


そのまま。


行け。


誰もが。


そう願った。


その時。


アーニーの鼻が。


ぴくりと動いた。


「……」


銭が。


アーニーを見る。


アーニーが。


鼻を押さえる。


「……へ」


銭の目が。


見開かれる。


「へっ……」


銭が。


首を振る。


アーニーも。


必死に首を振る。


「へっくしょん!!」


「……」


ゴブリンが。


止まった。


「……」


銭が。


ゆっくり。


アーニーを見る。


「……悪い」


「ギャッ!」


見つかった。


「ギギィ!」


三匹が。


武器を構える。


「逃げろ!」


アーニーが。


叫んだ。


子供たちが。


走り出そうとする。


だが。


銭は。


動かなかった。


「銭!」


アーニーが。


叫ぶ。


銭が。


棒を構える。


「薬草を持って逃げろ」


「何言ってんだ!」


「俺が止める」


「一人じゃ無理だ!」


アーニーが。


銭の隣へ並んだ。


「……」


さらに。


一人の少年が。


震えながら。


前へ出る。


「お、俺も……」


三人。


銭。


アーニー。


少年。


その正面。


三匹のゴブリン。


「……」


アーニーが。


拳を握る。


「三匹だ」


「うむ」


「こっちも三人だ」


「うむ」


「いけるよな?」


「無論じゃ」


「……」


二人とも。


足が震えていた。


「来るぞ!」


ゴブリンが。


飛び込んできた。


「うおおおお!」


銭が。


棒を振る。


受け止められた。


「なっ!」


力が。


違う。


ゴブリンが。


棒を弾く。


銭の身体が。


よろめく。


「銭!」


アーニーが。


飛びかかる。


「この野郎!」


だが。


ゴブリンの腕が。


振られた。


「ぐあっ!」


アーニーの身体が。


地面を転がる。


「兄貴!」


少年が。


飛び込む。


「うわあああ!」


もう一匹が。


少年を薙ぎ払う。


「ぐっ!」


少年も。


吹き飛んだ。


「アーニー!」


「……っ」


銭が。


棒を握る。


一匹。


二匹。


三匹。


ゴブリンたちが。


銭を見る。


「……」


後ろ。


少女たちが。


震えている。


薬草を。


胸に抱えて。


泣いている。


「銭ちゃん……」


「……」


銭が。


一歩。


前へ出た。


怖い。


足が。


震える。


逃げたい。


それでも。


後ろへは。


下がらなかった。


ゴブリンが。


近づく。


「ギギッ」


一匹が。


武器を振り上げる。


「……!」


銭の頭に。


一人の男の背中が。


浮かんだ。


いつも。


自分の前に立つ。


赤い鎧の男。


「……」


銭が。


歯を食いしばる。


棒を。


握る。


「来るな……」


ゴブリンが。


さらに近づく。


「来るな!」


銭が。


叫ぶ。


ゴブリンが。


武器を振り上げた。


「来るなぁぁぁぁ!!」


銭が。


両手を突き出した。


その瞬間。


空気が。


震えた。


「……!」


ドンッ!!


何かが。


弾けた。


「ギャッ!」


「ギギィッ!」


「ギャアッ!」


三匹のゴブリンが。


まとめて。


吹き飛んだ。


「……」


銭が。


目を見開く。


ゴブリンたちが。


地面を転がる。


木に。


ぶつかる。


「……?」


銭が。


自分の両手を見る。


「なんじゃ……」


ゴブリンたちが。


よろよろと。


起き上がった。


まだ。


生きている。


だが。


もう。


向かってはこない。


三匹が。


銭を見る。


互いの顔を見る。


「ギッ!」


「ギギッ!」


次の瞬間。


背を向けた。


一目散に。


森の奥へ。


逃げていく。


「……」


静かになった。


誰も。


動かない。


やがて。


地面に転がったアーニーが。


口を開いた。


「……勝った?」


銭が。


ゴブリンの消えた方を見る。


「……」


そして。


大きく頷いた。


「うむ」


棒を。


拾い上げる。


「我らの勝ちじゃ!」


「や……」


子供たちの顔が。


一気に明るくなった。


「やったぁぁぁぁ!」


「勝った!」


「ゴブリンに勝ったぞ!」


「すげえ!」


「銭ちゃんすごい!」


子供たちが。


銭の周りへ集まる。


「今のなんだ!?」


アーニーが。


駆け寄った。


「魔法か!?」


「……」


銭が。


自分の手を見る。


「知らん」


「知らねえのかよ!」


「勝ったのだからよかろう」


「いいのか、それで!?」


「む!」


銭が。


何かを思い出した。


「なんだ?」


「勝ち鬨じゃ」


「……かちどき?」


アーニーが。


首を傾げる。


他の子供たちも。


同じ顔をしている。


「なんだそれ?」


「知らぬのか?」


銭が。


得意げに。


胸を張る。


「戦に勝った時は」


棒を。


高々と掲げた。


「勝ち鬨を上げるのじゃ!」


「どうやるんだ?」


「俺が教えてやる」


子供たちが。


銭の周りへ集まる。


「俺が」


銭が。


棒を握り直す。


「えい! えい! と言ったら」


子供たちを見る。


「皆で、応! じゃ」


「分かった!」


「やろうぜ!」


アーニーも。


拳を掲げる。


「では」


銭が。


大きく息を吸った。


棒を。


天へ突き上げる。


「えい! えい!」


「「「お、おう!」」」


「……」


銭が。


眉をひそめる。


「声が小さい!」


「もう一度じゃ!」


「おう!」


銭が。


再び。


棒を掲げる。


「えい! えい!」


「「「応!!」」」


森に。


子供たちの声が響く。


「えい! えい!」


「「「応!!!」」」


鳥たちが。


驚いて。


木々から飛び立った。


それでも。


子供たちは。


やめない。


「えい! えい!」


「「「応!!!」」」


銭が。


笑う。


アーニーも。


笑う。


子供たちも。


笑っていた。


小さな。


小さな勝ち鬨が。


森いっぱいに。


響き渡っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。