第一回横濱組撲滅会議➁
相南は背中がゾクゾクしていることを覚える。意外なことが自分の周囲で起きていることに胸が躍ったのだ。
相南は磯子に話を進めてという意味を込めて頷き、先を促す。
「浜松面匠は恐らくうちがこの先何しよかずっとスキルをつこて監視しとったんやろう。ちゅうのも一時期わたしの行く先々で浜松が現れてん。なんでうちを付け回すかちゅうたらうちが〈天啓〉で動くこと追いかけたら、それだけ〈兼言〉の精度が上がることになるから。うちだけが知ってる未来をうちを追うことで感じ取ろうとしてんねん。狙いはその予知の横取りやねん! 言うてることわかるかいな?」
磯子の問いに桃が頷く。
「何となくわかります。凄く優秀なトレジャーハンターを三流トレジャーハンターが追い回して、お宝を先回りして奪おうってことで合っています?」
それに他の4人が感嘆の声を漏らす。良い言い換えだと相南も思った。
「その通りや。うちは最近、優秀な津村ちゃんとパーティを、ここにおる本牧美紗貴と一緒に下小山田ダンジョンを中心に組もうと考えとってん。それ浜松が〈兼言〉をつこて読んだとした場合――〈兼言〉の未来余地の精度が低いからある誤解が生まれたとうちは思てる。浜松は伊江慶学園になんかあると勘違いした可能性が高いんちゃうかと! また運悪いことに伊江慶学園には探索部があり、優秀で巨大企業の令嬢の末廣白楽ちゃんがおった。浜松はうちが末廣ちゃんを仲間にしようとしてるって推察した可能性がごっつ高いと思うねん!」
「つまり、さっきの近藤桃さんの言葉を借りるなら、津村というお宝を狙おうとしている吉村磯子さんをストーキングしていたら、末廣白楽さんを狙っていると浜松という人が勘違いして動いているってことですか!」
「ビンゴ! さすがは津村ちゃんのアドバイザー。おっと大事なことを言い忘れていたけど、その浜松面匠と津村ちゃんが下小山田ダンジョンでニアミスしてんねん! しかもその時、浜松は末廣白楽を拉致しようという考えを話していたそうやねん!」
相南は自分の体がビクンと跳ねるのを覚えた。衝撃の展開に心から震え上がったのだ。
まだ陰謀は磯子の予想の範囲内だと思っていたのに、件の浜松が津村に接近していた事実は肝が縮むように思えた
思わず桃を見ると目を丸くし、信じられないほどの大きな口を開けていた。
津村を見ると事実だというように頷いた。
「2日前にダンジョン7階層にいた時にすれ違った人が末廣白楽を捕らえようという話をしていたんだ。しかし配信ドローンには、配信を拒否するリフューザーが側にいたためにその発言が記録されていなかったんだ。それを磯子に伝え、どうしたらいいかと尋ねたら、その問題の人物が磯子にまとわりつく浜松面匠だってわかったんだよ」
津村の言葉を磯子が補足する。
「浜松面匠は普段は絶対に不人気の下小山田ダンジョンなんかにやって来る奴ちゃうから、うちを追うてきてることは確定やねん。浜松が下小山田ダンジョンに来たのは〈兼言〉でなんかが見えたからやろうな。ちなみに浜松面匠を支援してる探索者専用アイテム開発会社〈ザ・ギフト〉と、横濱究極の父親が経営してるネットオークション会社〈アルティメット〉は業務提携しとんねん!」
真っ青になった桃が震える声を出す。
「横濱究極さんが、学園で変なことをしてきたのって浜松って人の〈兼言〉を信じて、大人たちが色々動いたせいってことですか……。それが巡り巡って、私たちを強制的にダンジョンに挑戦させることになって……」
磯子は帽子を脱ぎ、桃に向かって机に両手をついて頭を下げる。
「うちが謝んのはけったいな話やけど、近藤桃さん達には迷惑をかけてほんまに気の毒に思う。ただ、うちとしても〈天啓〉で浜松達の悪事を予見できんかったから、津村ちゃんがニアミスしたことで今回の陰謀を知ったから対応でけへんかったちゅうことは理解してほしいねん!」
「いいえ。凄く悪いのはその浜松って人と、浜松のスキルを信じて甘い汁を吸おうとしている人たちってことはわかります。でも――あまりにとんでもない事態にどうするべきなのかわかりません……」
相南も同意するしかない。この事態は探索者でのないただの高校生が介入するにはあまりも大きすぎることだと思った。
桃の表情がかなり感極まっていると感じる。目に涙が昇ってきているのが分かった。
学校の屋上で、津村にボディーガードを頼んだ時のように号泣するのではないかと考え、警戒した。
といっても今回ばかりは桃の方が正常で、常人を凌駕する探索者達が一般人を脅かすことはトラウマになっていて当たり前である。
そんな桃を見ていると、相南も涙がこみ上げてくる。意味不明で激しすぎる感情に沸き上がり、瞳に涙がたまっていく。
やべ~! よく知らないけど凄い美少女の前で、特に被害にあったこともないのに俺が泣くとかダサすぎんだろう。おい、俺! 隣の人の感情引っ張られて泣くのは違うってわかんないのかな?
と自分に言い聞かせながら、相南は自分の目を手で押さえた。
すると黙っていろと言われていた〈凍獄〉本牧美紗貴が口を開く。
「2人に肝心なことを間違いなく伝えてないよ。磯子の〈天啓〉でこの先も2人は安全だってわかったってことを知ってもらわないと――。あと浜松面匠は違法ぎりぎりで活動するけど、反社ではないって言わないと余計な誤解をすると思うのだ」
「あっ、そうやな。今からうちらは浜松のアホを邪魔して蹴散らすけど2人に悪いことが起きることはあれへんと断っておきますわ。安全かどうかを〈天啓〉をつこて確かめたのでこうやって話をさせてもらってます。それと浜松面匠は見栄っ張りで豪つくばりだけど犯罪を簡単に起こす奴ちゃうで。案外に狡猾で暴力に走るタイプちゃうから! そないに物騒なことが起きるわけないから安心してな?」
そういわれて相南は一息付けた。この先、横濱組と殴り合うことでもあるかのように思っていたが、そうではないと思うと涙が引っ込んだ。
磯子がわざわざ〈天啓〉で自分の安全を心配してくれたのもありがたい。きちんと気を使ってくれていることで信頼度は上がっていく。
そういえばここに来てから「安全だ」と言ってもらっていたのに、理解していなかった自分にも気づく。
桃も同様のようで、落ち着きを取り戻しているようであった。やはり磯子は信頼たり得ると感じているようである。
そうしていると料理が運ばれて来る。食べ物はこのファミレスで一番高いシャトーブリアンステーキセットが人数分、テーブルに置かれた。磯子が頼んだ代物だった。
磯子は紙エプロンをしながら相南と桃に云う。
「2人は何一つ危険があれへんと約束するから、少しうちらの浜松を撃退する工作を軽う手伝うてほしいねんけどどや? まあまずは食べながら話しまひょ!」
相南は目の前のシャトーブリアンステーキを美味しそうと思ったが、やはり困惑してすぐに手が出せない。少なくとも大事な話し合いの席で注文するものではないだろうと思った。
しかしふと津村を見ると夢中でステーキを食べていた。顔は深刻であったが実に美味しそうに、切った肉を口に運んでいく。
それを見ていたら、不思議と気持ちが落ち着いていく。ゆっくりと平常心を取り戻していった。
これ食べたら夕飯はいらないな。まあそこはあまり気にしても仕方ないか――。
相南は目の前に日常から離れた光景に戸惑いながらも今はステーキを食べることに専念した。
食べながら語る磯子の話にも共感できた。危険もない上に横濱組に嫌がらせができるプランを聞かされると是非とも参加したいとも考えられるようになっていく。
こんな事態が起きることを相南は一切望んでいなかったが、今は少しありがたかった。
何もない青春にようやく波風が立ったようなそんな気がした。




