第一回横濱組撲滅会議①
相南は脂汗が止まらなかった。
数日前に「Underdog Union」通称UGUで会合で使ったファミレス「コックスコーム」に、ありえない面子といることに自分の頭がおかしくなったのではないかと思ったのだ。
相南の正面には〈天啓〉吉村磯子がおり、その横は〈凍獄〉本牧美紗貴が座っていたのである。2人とも帽子を深く被り、伊達眼鏡をかけていたがその可愛らしさは想像以上であった。
日本の高校生の中でも全国レベルで有名な2人と馴染みのファミリーレストランにいるというのはあまりに現実離れしている。完全に妄想の世界にいるように思えて仕方ない。
吉村磯子は欧米系白人の美少女というだけではなく表情の変化が非常に豊かでチャーミングだ。どこか日本のアニメのキャラクターのようで多彩な面持ちを見せてくれて愛らしい。
本牧美紗貴は表情は極端に乏しかったが、揺るぎのない美少女であった。まず目鼻立ちも口元も輪郭も破綻がなく完璧に映る。ここまでの美人を相南は見たことがない。
負け犬同盟に所属している者が超有名高校生と知り合いになるなんてシナリオは相当なアホでなければ書かないと相南は思う。
だが現実であるという証拠も確かにある。自分の隣に近藤桃と津村が座っているからだ。
津村は夢に出そうだが近藤桃が出てくることはないと断言できた。基本的に接点はないし、話す話題もない間柄なのだから。相南の性格上、異性として好きになる要素もない。
かく言う桃も明らかに面食らっているのが伝わった。ここに呼び出されていることに自分同様に戸惑っているのが分かる。
タッチパネルを押しまくっていた磯子がタブレットを元に戻すと笑顔で微笑んだ。
「ではこれから第一回横濱組撲滅会議を始めたいと思いま~す! パチパチッ!」
と陽気に手を叩いて宣言した。
これには相南はもちろん、津村も桃も驚く。
「ええ!? 撲滅するんですか?」
「そ、そんないきなり無茶苦茶な……」
「磯子、話がちょっと乱暴すぎないか?」
津村が磯子をなだめるようにいうと美紗貴が大きく通る声を出す。
「磯子は間違ったことは絶対に言わないので、津村も身を任せた方がいいのだ。絶対に悪いことが起きないのだから」
そう自信満々に美紗貴が云ったが、その頭を軽く磯子に叩かれる。
「いらんこと言わないって約束したやろう! もうちょっと黙っておき!」
磯子にたしなめられると美紗貴はうなづいて、口をつぐんだ。相南はこの場で一番力関係が上のが磯子なのだと認識する。
磯子は再びニッコリ微笑むと相南友も見て言う。
「津村ちゃんに知らずにここに連れてこられてビックリしているのはわかります。そこはほんまに堪忍な。ただ2人にもこの段階で協力してもらわな、2人も後で後悔することになると思うんでお話しする機会を設けさしてもらいました! 協力してもらわんでもお2人にはデメリットは発生しまへん。ただ協力してもらえたら津村ちゃんが不幸になる確率は減るとは断言します!」
その言葉を聞いて相南は興味を持った。
「それってどういうことですか? 〈天啓〉で何かがわかったってことですか?」
「あの! わたしは津村さんを助けられるなら助けたいです! いつも凄く助けられているのに何もお返しできていないですから!」
桃も食い入るように磯子にそう言った。その返答に磯子が満足げに頷く。
「おおきに。それですでに反則をしてんねんけど、うちはすでにお2人に会うてますぅ」
「えっ?」「はぁ?」
相南はそういわれてもピンとこない。桃も同様だった。
こんな美人に会ったら忘れるわけがないと――そう思った瞬間、閃くことがあった。
昨日コンビニで「100円落としましたよ」と手渡してきた少女がいたことを。「どうも」と返す間にしっかり手を握られ100円を押し込まれた出来事があったのだ。
少女は大きなテンガロンハットのようなモノをかぶっていたので顔を見ていなかったが、正体が磯子だといえば納得せざるを得ない。
桃も同様のようであった。大きく息を吸う音を出して、小刻みに震えた。
2人が磯子に接触したであろうことに気付き、目を見開くと磯子は大きくうなずいて正解を言う。
「事前にお2人には接触さして、手ぇ握り、スキル〈天啓〉を使わしてもらいました。〈天啓〉はうちとあなたたちの未来見るもの――つまり接点のある津村ちゃんの未来見るちゅうことで無断で見してもらいました。結果から言うけど、2人は津村ちゃんの味方であると鑑定できました!」
これには相南は愕然となる。ただの一般人の自分達にトップ探索者が街中で無断でスキルを行使してきたということはショッキングであった。
偶然を装い、接触してきたということは磯子にある程度のプライベート情報も知られているということになるからだ。
ただでさえプライバシーを侵害されたことがショックだったが、それを有名人にされたとなると驚きは倍になる。
だがここで相南が疑問を覚え口を開く。
「いや、でもスキルはダンジョンの近くまでしか使えないはずでは? 僕らに〈天啓〉を使えないはずでは?」
考えずに思ったことを素直に尋ねると磯子はニッと不敵に微笑んだ。
「さすがは津村ちゃんの参謀やな! ええとこに気付いたなぁ。せやけど知らん方がええから教えまへん。普通に国家が反応するレベルの裏技をつこたさかい。ここは秘密でお願いしまーす!」
磯子は舌をペロッと出していたずらっ子の顔をした。それを相南は可愛いと思う。
が横では振動している者がいるので見ると桃が真っ青になって震えていた。
冷静になると確かに磯子がかなり恐ろしいことを言っているのがわかってきて、相南にもそれが伝わってきた。
見ると津村もかなり渋い顔をしている。
ダンジョン以外ではスキルと魔法が使えないという常識を、高校生の磯子が破っているというのは大変なことであるとわかってきた。
指先が冷たくなるような感覚になると、磯子は真面目な顔をして語る。
「めっちゃイレギュラーなことして2人に〈天啓〉をつこたのには理由があるんや。まずは伊江慶学園で静かに勢力を拡大しようとしてる横濱究極が率いる横濱組がおっきな騒動を起こそうとしてること。これに津村ちゃんが巻き込まれる可能性があるからなんや!」
これを聞くと相南は一瞬で磯子が気味が悪いとは思わなくなった。津村が陰謀に巻き込まれるのならば多少のインチキは許されるだろうと思ったのだ。
磯子はさらに表情を硬くして語る。
「それで基本横濱究極が学園で無茶をしようとしてるのにはうちが関係あるんや。うちをえらい敵視する奴が大掛かりな嫌がらせを仕掛けてきてるんがきっかけやと予測してる! しかし言い訳さしてもらうとうちも十分に被害者であるということは明白やねん。だって赤の他人からストーキングされているんやから。うちを執拗に追っかけてくる探索者の名前は浜松面匠。浜松のスキルは〈兼言〉で、うちの〈天啓〉によう似てるけど、ずっと大雑把で制度は低いの。そやかて2回おっきな予知を成功さして、一部の探索者の支持を集めてんねん! 浜松は同じ予知系のスキルのうちを勝手にライバル視しとんねん。きっしょ!」
磯子は嫌悪感むき出しにそう言った。




