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〈跳舞〉

 すると探索部男子の語り声が突如響く。


「こんにちは、伊江慶学園探索部の生配信です! 全国高校探索部ランキングで14位、一般探査チームでも227位のパーティがいる伊江慶学園探索部は今日は下小山田ダンジョン10階層で、入部試験の様子を公開しちゃいます!」


 そう深紅の探索部ドローンに語り掛けたのは探索部の一人であった。

 両手剣のソフトモヒカンの、あばた顔の少年である。少年はぶっきらぼうな様子で津村に向かい、小さい声を出す。


「津村、ちょいと模擬戦をやろうぜ、スキル使用可で! 負けたらこっちのいうことを聞けよ!」


「おい、辻田くん!」


「部長、やらせてくださいって。こいつ、スキルが〈粘着〉のくせに立場がわかってないんですよ。ついでに配信の数字稼ぎに貢献してもらいましょうって!」


 これには津村は強く混乱する。入部を断られたのに、言うことを聞かなくてはいけない理由がよくわからない。

 辻田は配信ドローンに背を向け、部長に向けて悪い顔で囁くような声で言う。


「入部を断った元野球部員が一週間でレベル8になったのは、反野球部界隈では相当悪い材料ですって。そうですよね?」


「うっ……心からそう思うが、しかし」


 次に辻田はソフトモヒカンを手で整えながら、美紗姫を見る。


「〈凍獄〉さんもいいですよね? ほぼ津村が初対面ならやっちゃっても!」


「間違いなく問題ない。むしろ津村の腕前を知るいい機会だ」


「流石は大物! これはチャンネル登録者爆上がりのチャンスになりますって!」


 辻田はニヤニヤ笑いながら、津村の4メートル前に立つ。


「そんじゃ、〈凍獄〉さんも希望しているんでサクッと初めて、叩きのめしてやるって!」


 津村は困惑したまま尋ねる。


「あの……では模擬戦をして、勝ったらソロを続けてもいいってことでいいんですよね?」


「はいはい、なんでもいいって! 勝負は見えているから。それじゃあ、構えな!」


 津村も覚悟を決め、ロングソードと盾を構える。実に理不尽とは思うが美紗姫が許可したならば選択肢はない。


「そんじゃ、終わりってことで!」


 そう辻田が言った瞬間、津村は左横から何かが迫るのを覚え、盾を強く握って、顔を守る様に角度を変える。


 ギンッ!!


 なぜか津村の左横にいた辻田が降り下ろした両手剣が、津村の盾の縁に当たって金属音を響かせ、軌道を変えた。

 衝撃に驚きながらも津村は前方回転をし、とっさに辻田と距離を空ける。

 辻田は愉快そうに口笛を短かく吹く。


「これに反応するとは野球部っていうのは伊達じゃないって? ははは」


 楯を握る手がジンジン痺れるのを覚えながら津村は今起きたことを思案する。

 4メートル前にいた辻田が突然、真横にいたのはスキルを使ったのだろうと悟る。わかったが対処する方法がわからない。


「んじゃあ、続けていくってよ!」


 云った途端に辻田は津村の真後ろに現れた。氷を踏む音を聞き、津村は右横に転げる。

 すると両手剣が氷原を強く打つ。


「何、何で反応できんだよ、おかしいって!!」


 津村は辻田の攻撃がピッチャーライナーのようだと感じた。投げた球が打球となってピッチャーを襲うピッチャーライナーは非常に危険なものである。

 ピッチャーライナーの打球速度は160キロから190キロの間の速さで、投球が終えたばかりのピッチャーを襲う。ピッチャーはそれに0.4秒で反応しなくてはならないというデータがある。

 この反応限界を試すピッチャーライナーだが、津村は昔から取るのが上手かった。

 また二撃かわしたことで相手のスキルの片鱗がわかった。スキルを連発できず、また攻撃の動作中にスキルを使用するので、空振りに終わった場合はすぐには動けないように思う。

 一撃目の不意打ちをかわすと次の攻撃がすぐに来ないことから推理したのだ。

 ともかくスキルは一瞬で距離をつめてくるものだと断定する。

 更に言えば突然現れる場所は側面か背後なので、出現の予想がし易い。

 姿を消す寸前で辻田はニヤリと笑う。


「って思うってわかっているって!」


 そういい、後ろを見た津村の正面に辻田が出現し、思いっきり両手剣を振り下ろす。

 が津村は0.35秒の反応を見せる。

 真正面は守備にとって一番反応がしやすいのだ。

 データ解析ツールStatcastによれば、守備の視覚刺激反応速度は正面が0.35、側面0.4、背面0.45となっている。

 津村が首を後ろに向けていたとしても、正面の辻田に盾を叩きつける時間は十分にあった。

 辻田をコリジョンルール無視のラフプレーをしてきたランナーと見なせば、タッチアウトにしとめる自信が津村にはあった。

 MLBなどではタッグプレーと呼ばれる行動で、津村は辻田の胸を楯で弾いたのだ。


「ぐえっ!!」


 津村に盾で突かれると175センチで金属鎧を着た辻田は後方に吹き飛ぶ。

 3メートル後ろに跳んで、背中から落ちると悶え苦しんだ。

 背から転倒すると横隔膜が痙攣して呼吸がつまる場合があるが、まさにそんな様子となる。ジタバタと手を動かし、呼吸をしようとあがく。

 津村は辻田が立ち上がらないことを確認すると、おずおずと探索部に尋ねる。


「え、え~と自分の勝ちでいいですよね?」


 だがその問いに答える者はいなかった。誰もが驚き、津村を見つめていたのだ。

 美紗姫でさえも目を見開き、唖然としているように映る。



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