夏に向けてみんな頑張ります!
ボスコの街に朝日が差し始めた。
心地よい肌寒さの中、西門前にラダック村へ帰る村人たちと護衛のPTが集まっていた。
「今回も村までの安全な旅をよろしくお願いします」
ニッチェの声と共に村人たちが護衛PTメンバーに挨拶をしていた。
「はい、無事に皆さんをする村に届ける為に頑張りますので、よろしくお願いします」
PTリーダーのジョヴァンニの挨拶に合わせてメンバーもお辞儀をする。
さっきまで落ち込んでいた護衛PTの魔法使いニコルさんも元気を取り戻して挨拶をしていた。
前回も護衛をしてくれたローズブロンドの魔法使い、ニコル・プレッツェル。
前回の護衛でシドを崇拝する様になり、シドとPTを組む為に冒険者ギルドでシドを探すが見つからず、どうしてもシドに会うために護衛依頼を引き受けたのだ。
いつもなら護衛依頼の魔法使いは、Dランクになりたてのお金に困ってる人がやるのだが、ニコルはその新人に金を渡して交代してもらったのだ。
しかし村人の中にシドはいなかった。
そりゃそうだ、シドは村人ではないし、ましてや人でもなく精霊だ。
前回シドは故郷の国に帰ると言う設定だった筈なんだけどと思うアリーチェ。
ニコルは意外と人の話しを聞いてないタイプだったのだ。
シドが居なくて落ち込んで闇落ちしそうなニコルさんを、見るに見かねたアリーチェは、急遽シドを呼び出して一緒に村まで行ってもらう事にした。
当然シドには、夏の間はラダック村にいてもらう事になるのだが、護衛のやる気はみんなの安全にかかわるから仕方が無いのだ。
* * * * *
みんなを見送ってから、マッチョのイフリートに護衛をしてもらって学校に行った。
今日は金曜日。
月・水・金が課外授業の日なので今日はPTで魔物を狩る日だ。
月・水は他のPTを教えなきゃいけないが、金曜日はマルティーナPTに専念出来る曜日だ。
今日一気に魔物を狩ってマルティーナたちのレベルを上げるつもりでいたアリーチェは、南の森に向かいながらマルティーナたちに今日の予定を話した。
「きっとそろそろだと思うから、今日は魔物をいつもより多く狩るから頑張ってね」
話しがよく分からなかったマルティーナ。
「何がそろそろなの?」
アリーチェはニヤッと笑いながら答えた。
「みんなのレベルアップよ」
「「「「レベルアップ!」」」」
「もうLV3になれるのか?」
「ええ、みんなが今まで狩った魔物の数からすると、今日6体倒せばいいはずよ」
6体と聞いて慌てるマルティーナ。
「えっ?今まではアリーチェがいる時で午前中2体、午後2体だったわよ。6体は流石に無理なんじゃないかしら?」
「効率よく狩れば大丈夫よ、みんなは落ち着いて戦えば大丈夫よ。やれば出来る!後は魔物と遭遇出来るかどうかの問題ね」
少し考えてからブルーノが言った。
「まぁ確かにFランクなら落ち着いて戦えるようになったな」
「だから他のPTから少し離れて、魔物の居そうな森に向かうわ」
他のPTから離れれば魔物と遭遇する可能性は増えるが、同時に2体や3体を相手にしなきゃいけないかもしれないのだ、その事はみんなも理解していた。
真剣な表情のマルティーナ。
「分かったわ、引率の先生もいるし、それで行きましょう」
他のメンバーも覚悟を決めて頷いた。
「1体づつなら勝てる自身が付いてきたわね」
「ああ、魔物の攻撃も落ち着いて見極められるようになったしな」
森の中を歩きながら話すブルーノとマルティーナの会話にアリーチェが入ってきた。
「1体じゃなく、2体だったらどうしたらいいと思う?」
マルティーナが考えてから答える。
「そうね………すぐに森の外に向かって逃げるかな」
「2体なら何とか勝てるんじゃないか?」
「確かに逃げるのが1番ね。でも2体と戦わなきゃいけない時が来るかもしれないわ。2体になると戦い方が格段に難しくなるから想定しておいた方がいいかもよ」
「そっか2体との戦い方か。1体ならなら分かるが………」
アリーチェの説明は続く。
「魔物1体はブルーノが引き留めておいて、魔物もう1体を3人で急いで倒してから、ブルーノの魔物を倒せばいいのよ。ブルーノが1体とどれだけ戦えるのかと、3人で魔物をどれだけ早く倒せるかにかかってるわね」
メンバーは自分なりに戦い方をシミュレートしていた。
アリーチェはそんなみんなを見てから、今向かっている集合場所とは違う方向を指さした。
「じゃあ次の魔物はブルーノは手を出さずに3人で戦ってみましょうか」
「盾役無しで………」
「攻撃の二人は魔物の攻撃を避ける事に集中して。できそうなら反撃ね。マルティーナは回復だけど魔物が来たら避ける心づもりでいてね」
「「「分かったわ……」」」
アリーチェが話し終わると直ぐにウッピーと遭遇した。
「じゃあテレーサ、ロジータ、マルティーナ頑張ってね。いざという時にブルーノは控えてるけど、魔物の攻撃を避けて攻撃頑張ってね」
「「「はいっ!!」」」
3人とウッピーとの戦いは始まった。
テレーサとロジータがウッピーを挟み込む。
ロジータの『ポイズン』がウッピーにかかり、ロジータの方を向いた。
ウッピーがロジータの方を向い隙にテレーサが斬りつける。
ウッピーは足音で気がついたのか、テレーサの攻撃を避けて反撃してきた。
ぴょ~ん!ゲシッ!
「きゃっん!!」
まともにウッピーの蹴りを受けてテレーサは倒れた。
そこにまたウッピーが攻撃をしようとした時に、背後からロジータの攻撃が当たった。
シュパッ!!
ウッピーは背後にいたロジータに向き直る。
その隙にテレーサは起き上がり武器を構え直した。
マルティーナがテレーサを回復しようか悩んでいたら、アリーチェから指示がきた。
「今はまだ大丈夫よ。でも詠唱を最後で止めて準備して待ってて。もしテレーサがもう一回攻撃を受けたら迷わず回復して!」
「分かったわ!」
ウッピーは『ポイズン』で体力が減っていく上に傷を負ってしまい、徐々に弱っていく。
膠着状態の中、テレーサが『ウィンドアロー』を放つ。
『ウィンドアロー』を避けたウッピーにロジータが斬りかかる。
その剣も辛うじてウッピーは避けた。
しかしその先に居たテレーサが待ってましたとばかりにとどめを刺した。
戦闘が終わってブルーノがウッピーを捌いていた。
マルティーナに回復してもらっているテレーサ。
「はあっはあっ、ブルーノの有り難さが分かったわ」
「ええ、私も」
「私も回復をどうしようかドキドキだったわ」
「そっそうか?俺はみんなが居てくれるから魔物に向かって行けるんだぜ」
仲間同士いい雰囲気の中、アリーチェが戦闘の状況を話した。
「良かったと思うわ。最初にロジータの『ポイズン』がかかったのも良かったし、2人で挟みんで背後をとるのも良かったわ。相手の攻撃を避けるのは動きをよく見るしかないかな。後回復のタイミングだけど、今2人はウッピーの攻撃なら2回は耐えられるから、3回目の攻撃を受ける前に回復かしらね。早いとマルティーナに向かってきちゃうから慎重にね」
「「「はいっ!」」」
その後ウッピーと遭遇して、今度はブルーノが1人でどれだけ耐えられるか頑張った。
結果、かなり長い間耐えていた。
盾で防いでるだけじゃなく、剣での攻撃もしていてウッピーを倒せそうだったのだが、ブルーノの体力がかなり減っていたので3人が助けに入った。
「いや~、1人でも勝てそうで更に自身が付いたよ、それと仲間の有り難さが凄く分かった」
ブルーノの言葉に他の3人も頷いていた。
「じゃあ次は2体と遭遇出来るといいわね。とりあえずお昼休憩の集合場所に向かいましょう」
「「「「はいっ!」」」」
「あっ、真っ直ぐじゃなく右から行きましょうね」
いつもの様に脇道を指示するアリーチェ………
みんなは魔物2体と戦う覚悟を決めて、MPポーションを飲みいつで戦える準備をしながら進んだ……
少し進むと、みんなの予想通り魔物が2体いた。
タヌッキーとウッピーで、1体づつなら確実に勝てる相手だ。
ブルーノが声を張る。
「よし、俺がタヌッキーを抑えておく!」
マルティーナが他の2人に声をかけた。
「じゃあ3速攻でウッピーを倒すわよ!」
「「はい!」」
ブルーノがタヌッキーに、テレーサがウッピーに切りかかった。
テレーサはウッピーの攻撃を避けながら攻撃を当てていく。
1度攻撃を喰らうが、マルティーナが落ち着いて少し待ってから回復をした。
ロジータのポイズンとブラインドも入って、ウッピーの動きが鈍くなると、すぐにテレーサがトドメをさした。
ブルーノの方はと言うと、ウッピーより力があるからかタヌッキーに苦戦してだいぶダメージを受けていた。
それでも何とか仲間が助けにくるまで耐えきった。
3人がウッピーを倒すと直ぐにマルティーナの回復魔法がブルーノを回復させる。
そしてロジータの『ポイズン』がタヌッキーを毒状態にする。
動きが鈍くなったタヌッキーにテレーサの『ウィンドアロー』が刺さり、隙を見せたタヌッキーにみんなが斬りかかってあっさりと決着した。
「ふふふっ」
「へへへっ」
「はははっ」
「ひゃっはぁ~っ!やったぜ~~!」
魔物2体にも勝てて、みんな嬉しくて変な喜び方になっていた。
* * * * *
集合場所に少し遅れて到着したマルティーナPTは、みんなに謝ってから食事をした。
エヴァン先生がマルティーナたちの2体相手にした事をみんなに伝えていた。
みんなが驚いているが、気にせずあと2体…あと2体…と呟きながら食事をするマルティーナたちだった。
午後は順調に魔物2体を倒した。
「来たキタ~~!」
「「「やった…」」」
レベルアップの感覚が来て喜ぶマルティーナ。
「これでみんなレベル3ね!あっごめんなさい。みんなじゃなかったわね………」
アリーチェを気遣うようにチラッと見てから俯くマルティーナ。
アリーチェが落ち込むマルティーナを励ます。
「いいのよマルティーナ、アリーチェは強くなるよりも踊りが上手になりたいから、気にしないでみんなでどんどん強くなってね!」
「………ええ、ありがとうアリーチェ」
「ところでみんな、モモンガーって魔物知ってる?」
アリーチェは、また不自然に魔物の話しを始めた。
午後はみんなのレベルを上げてから、少し手強いFランク上位の魔物と戦わせようとアリーチェは思っていたのだ。
モモンガーはFランクの魔物だが、木の上から突然飛んで攻撃してくるし、すぐに木の上に逃げる。
体力は低いがすばしっこく攻撃力もある、何よりもたいてい2体いるのが厄介なのだ。
「それでもし出会って戦う事になったらなんだけど………」
マルティーナたちは苦笑いしながらも真剣に話しを聞いていた。
「ええ……もしも出会ったらどうすればよさそう?」
「もしも出会ったらね、敵から目を離さない事、敵の位置や行動を常に教え合ったり、見失ったら仲間同士で背中合わせになって死角を無くせば、背後からの攻撃は対処出来るかな。そしてモモンガーは飛行能力がそれ程高くないから、飛んで攻撃してきた所をカウンター攻撃ね。多少避けるからよく見てね。飛んできたら避けながら斬る。力がいるけどブルーノは盾で弾き飛ばすのもありかもね。そして地面に落ちたら攻撃手段は持ってないから逃げようとするからそこに誰かがトドメを刺せばいいと思うわ」
頭の中でタヌッキーとの戦いをシミュレートしているのだろう、真剣な顔のマルティーナたち。
「分かったわアリーチェ………それでどっちに進んだらいいかしら?」
マルティーナの質問に何か不自然さを感じつつも、自分の不自然さには気付かないアリーチェ。
「じゃあこの右の獣道を行ってみましょう」
「「「「はいっ!」」」」
すでにマルティーナたちは戦闘モードに入ってた。
* * * * *
少し進むと、予定通りモモンガー2体との戦闘に入った。
4人で背中合わせになり、モモンガーの位置を把握する。
ブルーノが叫ぶ、
「俺の正面、木の上に1体!」
反対側のマルティーナも叫ぶ、
「私の正面、木の上にも1体よ!」
「こっちはいなさそうよ」
「こっちもいないわね」
ロジータとテレーサも叫んだ。
「飛んで来たらこっちは俺が叩き落としてみる!」
「こっちはテレーサお願い!」
「分かった、やってみる!」
「飛んだぞっ!!みんな避けろ!俺は~~っ!おりゃっ!」
ブルーノは盾でモモンガーをかち上げた。
ドガンッ!!
落ちてくる所を片手剣で斬りつけた。
ザシュ!
モモンガーは地面に転げ落ちた。
「こっちも飛んだわ!気をつけて!殺るわ!!」
テレーサが双剣を逆手に持って腰を落として構える。
そして真っ直ぐ飛んでくるモモンガーに向かって、斜め前に踏み込みながら剣を振り抜く。
「はあっ!!」
シュパァッ! ドザザァ~ッ!
避ける間もなく斬撃を受けたモモンガーは地面に激突しながら転がった。
「トドメよ!えいっ!」
そう言ってマルティーナはブルーノが叩き落としたモモンガーに短剣を突き立てた。
ロジータも、テレーサが落としたモモンガーに短剣を突き立てた!
「やぁ~~っ!」
モモンガーとの戦いは終わって見ればあっという間だった。
集中して一気に全力を出したからか、みんな疲れきっていた。
モモンガーの魔石を取り出し終わって、座り込んでみんなで話していた。
「集中すると凄く疲れるんだな」
テレーサも同感だった。
「ほんと一瞬なのに疲れたわ」
ロジータは、もっと自分に出来る事が無いか考えていたようだ。
「私は小さい盾とワンドと短剣だけど、ワンドをテレーサの様な剣に変えたら魔法以外でも役に立つかしら?」
マルティーナも気にしていたようで、自分も剣が有ればと言いだした。
アリーチェは悩んだ。
「そうね、確かに剣が増えれば攻撃力は上がるかもしれないけど、マルティーナが前に出て負傷したらPTとしては致命的ね。回復があるだけでもみんな勇気を持って戦えるのよ。ロジータの魔法は、モモンガーは戦闘が短すぎて何も出来なかったけど、手こずったら話しは別よ。ロジータの魔法があれば、戦いが長引いても相手を追い詰めていけるわ、ウッピー2体の時はそうだったでしょ。ワンドは魔法を少し強力にするから今は持っていた方がいいと思うわ、みんないいPTよ、自信を持っていいわ」
「「「「はいっ!ありがとうございます!」」」」
無事にマルティーナPT、キューティー・レインボー・フォレスト・シールドはレベル3になった。
頑張れ我らがC・R・F・S!
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