冒険者の授業!
朝の教室にステラ先生が入って来た。
先生が教壇に立つと、生徒会役員に決まったヨランダが、号令をかける。
「起立っ!」
全員一斉に立ち上がった。
「礼っ!おはようございます」
「「おはようございます」」
「はい、おはよう」
「着席っ!」
全員が座り、ステラ先生が本日の予定を話し始めた。
「本日の午前中は、冒険者の勉強と実技を行います」
アリーチェが冒険者?と思っていると説明が続いた。
「魔法があるから魔法だけ出来れば良いわけではありません。戦闘では、魔法を活かした前衛はとても強いし、後衛でも最低限自分を守れる程度の剣や盾の技術は必要です」
教室で色々な武器のメリット・デメリットを学んでから、ウィザードドームへ移動して、実技練習となった。
* * * * *
武術の実技担当は、副校長で副担任のエンマ先生だった。
顔はおじいさんだが、動きやすそうな服装の上からも、細マッチョの鍛えた体つきが見てとれた。
全員整列してる所に右手に木の片手剣、左手に木の盾を持ったエンマ先生が現れた。
ヨランダが号令をかける。
「全員気をつけ!礼っ!」
「「「宜しくお願いします」」」
生徒たちの声が揃う。
「はい、副担任のエンマじゃ。わしは引退する前は氷属性の剣士をやっておったから、剣の腕はまあまあじゃと思う。剣と盾と短剣が必修となっておるから、まずは片手剣と盾を教える」
アリーチェや生徒たちは体操着の様な動きやすい服を着ていた。
壁際にたくさん用意された木の片手剣と木の盾の中から、好きな物を選んだ。
全員の用意が終わり、エンマ先生が話し出しす。
「うむ、それじゃあ始めるかの。まずは盾を持っている方の足を前、反対の足を後ろして肩幅に開く。前側の足のつま先は相手に対して真っ直ぐ向け、後ろの足はそれに対して45度に開く。膝は軽く曲げ、盾も剣も胸の高さで構える、こうじゃな」
エンマ先生が構えてみせてくれた。
みんながぎこちないが、真似をして構える。
「この体勢からの縦斬りじゃ。相手との距離にもよるが、基本は前側の足から踏み出し、次に剣を持っている側の足を、敵側に1歩踏み出すと同時に、剣を振り下ろす」
エンマ先生が何度かやって見せてくれてた。
「では周りの間隔をとってから、始めはゆっくりと周りに気をつけながらやってみなさい」
生徒たちが思い思いに練習する中、エンマ先生が見て廻ってアドバイスをしていった。
「コズモ君は、力みが多いかの、少し力を抜くと1連の動きがスムーズになると思うぞ」
「はっはい、頑張ります!」
俄然やる気の出るコズモ。
その後、突き、横斬り、斬り上げなどの基本的な形を練習した。
男子生徒は熱心だったが、特に、自己紹介でボスコ領軍騎士団長の息子で、世界一の剣士になる!と言ってたコズモは、気合いが入っていた
「それじゃあ次は盾で相手の攻撃を防ぐ練習じゃが、まともに受け止めるのにはそれなりの力が必要じゃ。攻撃を受け止めるたびに衝撃でダメージを受けるからちと大変じゃな。攻撃の全てを受けとめる事も必要じゃが、相手の攻撃の方向を逸らせば良い場面では、なるべく逸らした方がいいぞ、その練習をしようかの」
エンマ先生が、1番熱心に取り組んでいたコズモに声をかける。
「それじゃあ逸らし方を見せよう、コズモ君前へ」
「はっ、はい!」
コズモが前に出て、エンマ先生と向かい合う。
「ではコズモ君、縦斬りで先生に打ち込んでみてくれ、全力でな」
「はいっ!では行きます!」
コズモはやる気満々なせいか、先生である事や年寄りである事など遠慮せずに打ち込んだ。
「とおりゃあぁぁ~っ!」
エンマ先生が気負う事も無く太刀筋の方向を変えるように盾を斜めにすると、コズモの剣は盾を滑ってそのまま地面に当たった。
「こんな感じじゃ、なるべく少ない角度で逸らせれば、衝撃は少なくて済む。瞬時に判断して出来るようになれば、戦いも楽になるじゃろう。ありがとうコズモ君」
あっさりと躱されたのが悔しかったのか、微妙な表情でコズモが生徒の列に戻っていった。
「では2人1組になって、最初はゆっくりとした攻撃で練習じゃ」
生徒たちは隣り合う者同士で組になって練習を始めた。
21名のクラスなので当然1人余る………当然あぶれるのはアリーチェだ。
「アリーチェさんは先生とやろうかの」
「あっはい、お願いします」
先生と練習をしたかったのか、コズモがアリーチェを睨んでいた。
みんな遠慮しながら練習をしている中、コズモだけは力強く打ち込んでいた。
「おりゃっおりゃ~っ!」
ガツンッ!ガツンッ!
「うわっうわっ!ちょっちょっと待って!」
やられてる生徒が叫んだ。
「戦ってる最中に待ってくれる敵なんていないぞ!」
そのまま攻撃の手を緩めないコズモ。
ガツッ!ガツッ!
相手は堪らず倒れて尻もちをついて、剣も盾も落としてしまった。
ドサッ!カランカラン……
「いってぇ……」
「フンッ、弱すぎて練習にもなりゃしない」
アリーチェと練習をしていたエンマが、倒れてる生徒に歩み寄り様子をみる。
みんな貴族の子供だから気をつかうのだろう、
「どれどれ、少し足首を捻挫しておるかな、一緒に保健室に行こうか。コズモ君はみんなよりも上手じゃから、少し力を抜いてあげた方がいいかの」
「………はい、分かりました」
納得してない返事をするコズモ。
生徒をおんぶしてエンマは立ち上がった。
「ちょっと保健室まで行ってくるから、先生が戻るまで怪我に気をつけて、練習するように」
生徒をおんぶしたエンマは、保健室へ向かった。
先生を見送ってから、生徒たちは練習を再開した。
相手がいなくなったコズモは、同じように相手がいないアリーチェに近づいていった。
「おいっ!そこの才能無し!俺が相手をしてやる、有難く思え」
(あちゃ~面倒なのがきちゃったわ………でも残ってる2人が組むしかないか)
「えっと、動きを確認するように、ゆっくりとお願いね」
「何を言ってんだ、俺の打ち込みの練習相手をやらせてやるんだ、ただ盾を構えてりゃあいいんだよ」
「えっと、打ち込みじゃなくて、盾の練習の時間だし、まだ最初だから………」
「ごちゃごちゃうるさいんだよ!ふんっ、じゃあ俺に勝ったら何でも言うこと聞いてやるよ」
「だからそうじゃなくて、盾の練習をしましょ………いいっ?!」
もうコズモは剣を振りかぶっていた。
「とりゃあぁぁ~っ!」
容赦なく剣で攻撃するコズモ。
アリーチェはびっくりして、力を込めて盾を構えた。
「んぐっ」
ガイィ~~ン!
思いっきり振り下ろされたコズモの剣が、アリーチェの盾に跳ね返って飛んだ。
コズモの手に剣は無かった。
「んあっ?」
驚くコズモ。
「えっ?」
盾に当たった感触はあったが、軽すぎてなぜ剣を放したのか分からなかったが、盾の横からボーッとしているコズモの様子を見たアリーチェは、てくてくと歩み寄り、コズモの首に剣を当てた。
周りで見ていた生徒たちは静かだった。
困惑した表情で、アリーチェの剣と顔を見るコズモ。
「負けたら何でも言う事聞いてくれるんだったわよね」
「ふっ、ふざけるな!才能無しの平民風情がぁ!」
「えっ?えっ?」
「あんなインチキしやがって、お前ごときに負ける訳ねえだろ!俺は誰にも負けないんだよ!貴族の俺に対して無礼だろ!お前なんか死刑だ!」
(………あれで本気だったのか)
アリーチェは薄々感じていた、LV1とLV17のレベル差を。
咄嗟の事で力一杯踏ん張ってしまったが、攻撃を盾で受けてもアリーチェはなんともなかったのだ。
マルティーナがコズモとの間に入ってくれた。
「今のは誰が見てもあなたの負けよね、あと校内では貴族だ平民だと言うのは校則違反だわ」
「なっなんだと?インチキして勝ったに決まってるだろ、今のは無しだ!」
呆れるマルティーナ。
「フンッ、やられる時に魔物に言ってみたら、今のは無しだって………」
悔しそうにするコズモ。
「くっ……」
マルティーナは、少し離れた所にいるヨランダに言った。
「それと、生徒会役員なら、こう言う事を収めるるのも役割よ、しっかりしてねヨランダさん」
ムッとした表情で、マルティーナを睨むヨランダ。
「………」
(うわっ、領主の娘は容赦ないわね。子供の時から貴族の権力争いをするのか)
ピリピリした雰囲気に耐えられないアリーチェ。
「たっ助けてくれてありがとうマルティーナさん」
「あらっ気にしなくていいのよ、領民を守るのは私の役目だから。あとアリーチェさん、何かお願いを考えておかないとね、コズモ君は何でも言うことを聞いてくれるみたいだから」
「あっアリーチェはべつに…」
「なんだと!俺はそんな事言って……」
「言ってたわよ!世界一の剣士になろうとする男が、1度自分が言った事を誤魔化してどうするのよ!」
悔しそうにマルティーナを睨むコズモ。
まだ食ってかかるコズモ。
「……くっ……勝ったと思って調子にのってんなよ」
「負けたのにごねてるのはあなたでしょ」
またまたハッキリと言うマルティーナ。
そこにやっとエンマ先生が戻ってきてこの場はとりあえず治まった。
今後の学校生活の不安が、更に増えるアリーチェだった。
☆◦º◦.★◦°◦.☆◦º◦.★◦°◦.☆
読んで頂き有難う御座います。
【作者からのお願い】
本作を読んで少しでも応援したいと思って頂けたなら、
画面下の「★★★★★」
での評価を頂けるととても励みになります。
m(_ _)m
☆◦º◦.★◦°◦.☆◦º◦.★◦°◦.☆




