ローラさんに会いたくて!☆1
季節は初秋、暖かく陽差しも柔らかく、1年の殆どが冬のラダック村と違ってとても過ごし易かった。
アリーチェは、朝の日課のダンス練習をしていたが、空気が濃いからか呼吸が楽で息切れする事もなく、身体の動きも良かった。
(そっか、今まで気にして無かったけど、空気の薄い高地で育ったから、下に降りてくるとこんなにも楽なのね)
アリーチェは身体が思ったよりも動くので、調子に乗って昔見たダンスグループのように、キレッキレに踊った。
かいた汗を洗い場で拭いてから、ルカと朝食を食べた。
「パパは仕事に行くけど、アリーチェはどうする?一緒に来てもいいし、家にいてもいいよ」
「ローラさんに渡したい物があって、会いに行きたいわ」
「ローラさんね、中央広場の裏手にあるお店で働いてたと思ったな、一緒に行ってみようか」
「えっお仕事はいいの?」
「パパがお店を知ってるし、中央広場の冒険者ギルドに行くついでだから大丈夫だよ」
「ルカパパありがと~」
アリーチェは、ローラに渡したい物をリュック入れて、ルカと一緒に出かけた。
* * * * *
「アリーチェこのお店だよ」
中央広場から道を1本入った所にあるそのお店は洋服屋だった。
お店は閉まっていて、中を覗くとハンガーやハンガーラックが店内の端に集められていて、洋服は何処にも無かった。
「あれっ?ここであってるはずだけどなぁ。今日は休みなのかなぁ………住んでる家までは知らないしからどうするかな」
「じゃあピエロを捜してみない?一緒に住んでるでしょう?」
「そうか、そうだな。じゃあ冒険者ギルドに行って、ピエロの事を聞いてみようか」
中央広場を横切ったら直ぐに冒険者ギルドに着いた。
商人ギルドが白の石造りなのに対し、冒険者ギルドは年季の入った木造の3階建て。盾に2本の剣をクロスさせたデザインの看板が掲げられていた。
西部劇にでてくる様な、ウエスタンドアを押し開けて中に入ると、高級な木材で出来た内装は、カウンターやテーブルにイスなど、歴史を感じさせる贅沢な雰囲気だった。
2カ所ある受付にはすでに人が並んでいて、部屋の端に3つあるテーブルには3人ずつ座って休んでいた。
他にも依頼が張り出されているボードを数人が見ていた。
女性率は2割くらいだった。
冒険者は危険だし野宿もするから、やはり男の世界なのだろう。
アリーチェが冒険者ギルドの様子を観察していると、ルカはアリーチェと手を繋いで、一緒に受付カウンターに並んだ。
するとテーブルに座っていた男の冒険者がちょっかいをかけてくる。
「おいおいここは子連れで来る所だっけか?余裕だね~」
「遊び半分で魔物と戦われちゃあ、おじちゃん困っちゃうな~」
周りもクスクス笑っていた。
アリーチェが嫌な気持ちになってむすっとしていると、ルカが抱っこしてくれた。
「パパが一緒に連れてきたからだね、ゴメンねアリーチェ」
「お話し聞きに来ただけだし、ルカパパ悪くないよ」
後ろに並んでいた若い冒険者が嫌な顔をしながら話しかけてきた。
「なぁ、子守なら外でやってくれよ、こっちは忙しいんだからよ」
アリーチェがチラッと後ろの人を見る。
(あっ!朝アパートで会った人だ)
「んっ?なんだお前か………」
「知り合いかい?」
「えっと、同じアパートに住んでる人、朝会ったの」
「おぉそうなのか」
アリーチェを降ろして、男に向き直って挨拶をするルカ。
「アリーチェの父親でルカです、同じアパートだそうで、よろしくお願いします」
ルカは右手を差し出した。
若い冒険者は名乗る事も握手もしなかった。
「前っ、あんたの番だぜ」
受付の女性の声がする。
「お待たせしました、次の方どうぞ」
ルカは握手を諦めて受付カウンターで話しをする。
「えっと、冒険者でピエロ・オネストさんと言う方が、この街に居ると思うのですが、お会いしたいので、住んでる場所を教えて欲しいのですが」
「えっと、冒険者の安全のために個人の情報はお教えできない規則になっております。申し訳ありません」
「そうですか………ではここで待ってたら会えますでしょうか?」
「ん~、なんとも言えませんが、ここ最近は見かけませんので難しいかと………」
「そうですか、有り難うございました」
少し残念そうなルカとアリーチェは、居心地の悪い冒険者ギルドを出た。
「アリーチェ、当てが無くなってごめんね」
「ううん、有り難う、シドに手伝ってもらって捜してみるから、ルカパパは仕事に行って大丈夫だよ」
「すまないね、じゃあ行ってくるよ」
そう言ってルカは、もう一度冒険者ギルドに入っていった。
* * * * *
アリーチェはひと目のつかない路地裏に入って、周りに大きな魔力無い事を確認してからシドを呼び出した。
いつもの執事の格好をしたシドが現れた。
「お呼びですか姫様」
「………お呼びです」
アイテムボックスからシド用の剣を取り出して、渡しながらアリーチェは説明した。
「ローラさんに会う為に、ピエロを捜してるの」
「そうですか、私もこの街には詳しくありませんので、姫様を守る以外はお役にたてそうにありませんね、街に詳しい方に相談したい所ですね」
「そうか、街に詳しい人ね。じゃあ先ずはニッチェさんか村の人に相談してみようかしら」
アリーチェはシドと共にニッチェさんを捜して、午前中の中央広場付近を歩きまわった。
「なかなか居ないわね、商人ギルドに行ってみようかな」
そして商人ギルドに来たアリーチェ。
中に入ると高級な服装の人が数人いた。
みんながアリーチェとシドを見るが、シドが執事の格好だからなのだろう、納得したように視線を戻していた。
受付カウンターに行こうとすると、奥のテーブルにニッチェさんを見つけた。
「あっ、ニッチェさん!」
商人ギルドの人と話をしていたが、つい声をかけてしまったアリーチェ。
こちらに気づいたニッチェは気軽に返事をした。
「あらアリーチェちゃん」
「あっ、お話中だったのにすいません」
頭を下げて謝るアリーチェ。
「いいのよアリーチェちゃん、お店が決まらなくて悩んでた所だし、たいした話しはしてなかったから」
商人ギルドの女性も、笑顔で頷いていた。
「ふふっ、まだ小さいのにしっかりしてらっしゃるのね、お気になさらなくて大丈夫ですよ」
「あらシドさんも一緒なのね」
「うん、ルカパパがお仕事でいないから、街の中を歩くときは一緒にいてくれてるの」
「街中はスリとか人攫いがいるから危ないものね、良いと思うわ」
「それでね、相談があってニッチェさんを捜してたの」
「何かしら、私で良ければ何でも相談に乗るわよ」
アリーチェは、ローラさんに会って渡したい物がある事と、お店に行ったが閉まってた事やピエロさんを捜そうとしている事を伝えた。
「そうね~、住んでる場所かぁ………」
みんなが悩んでいると、商人ギルドの女性が助けようとしてくれた。
「お教えする事は出来ませんが、ピエロ・オネスト様の奥様のローラ・オネスト様ならなら存じ上げております」
「おおっ!会って渡したい物があるだけで、家を知りたい訳じゃないです。何処かでお会い出来るだけて大丈夫です」
「ん~そうですねぇ………たぶんお会いにはならないと思いますが、伺ってみましょうか?」
「ええぜひお願いします。ラダック村のアリーチェです」
「申し遅れました私、商人ギルドのダニエラと申します。本日中に確認してみますので、明日にでもまたお越し下さい」
「ありがとうございますダニエラさ~ん」
アリーチェは両手でダニエラの手を握っていた。
なんとかローラさんと連絡がとれそうなので、アリーチェはもうアパートに帰る事にした。
気が付くのが遅くなりました。誤字報告有り難う御座います。
修正致しました。m(_ _)m
ブックマーク有り難う御座います。
特に初期からのブックマーク有り難う御座います。これからも頑張ります。
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