そこで見たものは何よりも羨ましく
マチラの顔は笑っていた。狂ったのかと思ったがどうやら違うようだ。マチラが流した血が輝きだし、六芒星の形で浮き上がった。
竜と少女は信じられないものを見たと言わんばかりに口を開けていた。六芒星の血から光が溢れ、鎖になった。見るものに嫌悪感を抱かせる赤黒い色だ。
それが竜に向かうのを見て必死に大声を出そうとするが、それは叶わなかった。
「ぁ、お、ぉぃ…」
体が震えていた。口がガタガタと音を鳴らす。今にも崩れ落ちそうな体を必死に動かし、竜の元に走る。
竜は鎖から逃れようと身をよじらせるが、体がでかいせいか、上手く避けられなかった。少女は鎖をひたすら殴り壊そうとしていたがビクともしなかった。
竜から出た光が鎖を通りマチラの元に流れる。何となく力のようなものだろうと理解出来た。その力を使ってマチラは傷を回復したどころか、強化されていた。
体は5m近くになり、腕は歪な形に肥大化、足は液体のように不定形になっていた。マチラから目を離さないようにしつつ、何とか竜の元にたどり着く。
「大丈夫か!」
少女は肩を震わせた後、こちらに体を向けた。その顔は明らかな警戒を示していた。手が光っていることを見るに、強化しているのだろう。
どうにかして敵対する気は無いと伝えようとするが、そんな暇はなかった。マチラが動き出したのだ。
「フフフフフフフフフ、これが力!!圧倒的全能感!竜ごときがよくもコケにしてくれましたね…。じっくりと時間をかけて殺してあげましょう!」
そういった直後、目の前にマチラが現れた。瞬間移動ではない。瞬きをした一瞬の間にありえない速度で接近しただけだ。本能が警鐘を鳴らす。
突然の事で回避というよりは倒れ込む形になったが、結果的に攻撃を避けることに成功していた。勘で右に避けたが、動いていなかったら間違いなく木っ端微塵になっていた。
そう思わせる程の風圧だった。掠ってすらいないのにそれだけで数m吹き飛ばされる。急いで立ち上がり追撃を警戒するが、マチラの興味は少女に移っていた。
「貴女、竜と同じような匂いがしますねぇ。良ければ何者か教えてくれませんか?まぁ、教えなくても無理矢理聞きだしますけどね!」
少女に腕が迫る。嫌な想像が頭をよぎり、目を閉じてしまう。しかし、予想していた音とは別の音が聞こえた。
目を開けると、竜が体を貼って少女の前に立っていた。力をマチラに取られたからか、見るからに弱っている。だからだろうか、竜の腹に風穴が空いているのは。
「な……なぜ動ける!?お前は確かに閉じ込めたはずだ!動けるはずがない!!何をした!」
焦っているのか口調が乱れている。今のマチラは竜より強いはずだ。なのに、奴は竜に恐怖している。それは種としての格の違いか、または常識が通じない存在に対する恐怖か。
竜は弱った声で叫ぶ。己の思いを声高々に。哀れむように。
「そんなこと決まっておろう。娘に対する愛じゃ。お前は何も分かっていないのぅ。力があればいいと思っている。だからこそ弱い。強いからこその弱さを知らないのじゃから。」
「何を!貴様は何を言っている!愛だと!?ふざけたことを抜かすんじゃない!人間は醜い生き物だ。ましてや竜が!愛を語ると言うのか!馬鹿にするのをいい加減にしろ!」
動揺と怒りと恐怖と様々な感情が混ざったような顔で、竜を殴る。それはあまりにも幼稚な攻撃だ。そこには道理も何も無い、子供のチャンバラのようなやけくその攻撃だ。
竜は動こうとせず、ただ黙って攻撃を受けている。しかし、さっきのように風穴が空くことはなく、竜の鱗によって弾き返されていた。
「なぜだ!なぜ攻撃が通らない!そんなことはありえない!あってはならないのだ!こうなったら…俺は人間を辞めるぞー!!!」




