表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
手の鳴る方へ  作者: 黒丑テル
18/110

18

 隣の神様から舌打ちが聞こえるが、それを咎めるどころか神様の方向を見ることも私は出来ない。

 視線は平然と歩いてくる青年に釘付けだった。神様の出した炎は術によるものかもしれないが確かに肌を刺すような熱気を感じるもので、見掛け倒しの幻ではなかっはずなのに、目の前の彼は傷一つ無く焦った様子すら無く、平然とキセルを口元に運んでいる。

 青年は神様から私へと視線を移し、私と目が合うと彼は場違いなほどに柔らかく微笑んで見せた。


「すまない。すぐにこの無作法者を始末するから、もう少しだけ待ってくれ」


 始末。笑顔で発せられた予想も出来ない言葉に私は声も出なかった。聞き間違えじゃないかとさえ思う。何で始末なんて。だって私に神様を呼んでくるように頼んだのは彼で、それじゃまるで、まるで最初から神様を殺すために、私に連れて来させたみたいじゃないか。

 言葉も息も詰まらせる私の隣で神様が面白く無さそうにふんっと鼻を鳴らす。


「誰が誰を始末すると?」

「さて、これは意外だ。厚顔の割に自分が無作法者だという自覚があるらしい」


 青年は神様へと視線を戻すと途端に馬鹿にするように口角を吊り上げふっと一度煙を吐き出し、ゆっくりとした動作で再びキセルをくわえる。それに対して神様は不愉快そうに眉間にしわを寄せながらパチンと小気味いい音と共に扇子を閉じた。


「愚劣な角欠け風情が。自身は割り込んでおきながら作法を弁えているなどと抜かすつもりか?」

「それは別に大した問題じゃない。そもそも先に並んだ奴が居なくなれば割り込みじゃなくなる」

「ふん、割り込み自体は認めるか。盗人猛々しいとはこのことだな」


 神様の言葉に青年が静かに笑みを消す。そして心底不快そうに眉間にしわを寄せながら煙を伴わない息を吐き出してから再びキセルをくわえた。


「…認めるのは癪だが客観的事実だ。だが先着順で選ばれるわけでは無い」

「節穴が良く囀る。先着順も何も儂が目を弄らなければ妃芽に興味も示さなかった分際で」


 神様が言い終わるよりも先に青年がふっと煙を吐いた。すると私の脇を突風が通り、その風が神様に届くより先に神様が扇子を勢いよく広げると突然重たい金属同士がぶつかったような音が周囲に鳴り響く。


「ひっ!」


 鼓膜だけでなく全身に響くようなその衝撃音に私は混乱と恐怖で足に力が入らなくなってその場にへたり込んだ。そんな状況の私をお構いなしに、今度は先程とは逆に青年が険しい顔をして神様が悪辣な笑みを浮かべる。


「おお、怖い。何をそんなに怒る?」

「訂正しろ」

「どこに訂正するべきところがある。貴様の言うところの客観的事実というやつであろう?」

「黙れ、お前の術など無くとも僕は妃芽を見付けて…」

「妄言だな、鬼である貴様が自身の姿も見えぬ人の子に興味を示すはずが無かろう。あの目があればこそ双方が存在を認めることが出来たのだ。先着順?貴様が先になることなどあり得ん。儂の呪いが無ければ妃芽は貴様など気付きもせず、貴様とて有象無象の中から妃芽に目を付けるどころかわざわざ探すことさえも、」


 神様が途中で言葉を区切った。見れば神様の白磁のような頬に赤い線が横に一筋、そこから溢れた血が縦にもう一筋の線を引く。神様も青年もそれに対して眉一つ動かさず互いを射殺さんばかりに睨みつける。


「聞こえなかったか?黙れと言っている」

「儂がそれにはいと答えたように聞こえたか?何故儂が貴様のような愚物の指図を受けねばならん」


 神様が指で頬に出来た線を拭うと傷は既に消えていた。血が止まっているとかではなく、血が溢れたはずの線すらも綺麗に消えている。鬼の二人はそれに対してもやはり何の感想も無く、青年はキセルをくわえ、神様は扇子を持つ手を上げる。すると青年の周囲を煙が漂い、神様の周囲には煌々と輝く炎が現れた。途端にぞわりと悪寒が背筋を這い上がり全身の肌が粟立つ。


「お前の諾否に興味は無い、黙れと言ったら口を開くな。さもなくばその生意気な口を二度と利けないようにするぞ」

「生意気なのはどちらだ?図星を指された程度で逆上しおって、まったく堪え性が無いにもほどがある。だから妃芽にも言ったのだ、他者の術を書き換えるような変態は絶対性格が悪い、とな」


 それまでだって恐怖を感じるには十分過ぎる空間だったのにそれが可愛く思えるほど周囲に満ちる殺気に身を竦めた。悲鳴を上げたいのに声が出ない。逃げ出したいのに体は無意味に震えるばかりで動いてくれない。涙は目に溜まるのに上手く流すことすら出来ない。私に出来ることはただ息を殺してこの状況が少しでも早く終わるように祈るだけだ。


「妃芽の前だから恭順を示し角を渡すようならば生かしてやろうかと思ったが…気が変わった、お前はここで死ね」

「はっ、笑わせるな!死ぬのは貴様だ、角欠け!」


 そんな私の祈りも虚しくどちらの鬼が早いか、互いの術が私の目の前でぶつかり炸裂した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ