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手の鳴る方へ  作者: 黒丑テル
10/110

10

 翌朝、私は頬に受ける刺激で目を覚ました。

 その刺激は力こそ大して強くないのだけれどもピンポイントで一ヶ所のみを突いてくるので徐々に痛みを伴ってくる。一体何なのかと目を開けてみれば無表情の神様が扇子の先で私の頬をひたすら突っついていた。よく目にする自信に満ち溢れた笑みではないが、それでも彼女の麗しさが損なわれることがない。


「おはようございます、神様」


 体を起こしても追撃してくる扇子を手で押さえて挨拶をすれば神様は大層不満そうな表情をしてみせる。いや、起きた時から無表情だったし今日は最初から不機嫌だったのかもしれない。原因は皆目見当つかないけれど。


「昨日神ではないと言ったであろう。何故そのような呼び方をする」


 それをネタに揶揄っていた人物の台詞とはとても思えない。


「何故と言われても…だって他になんて呼んだら良いか分からないですし…」


 何を言っているんだコイツは。そもそも名乗らなかったのは神様の方じゃないか。なんだかんだ一週間神様と呼んで居たし、本質が鬼であろうが何であろうが神様と呼ぶこと自体には割と抵抗が無い。しっくりくる。どちらかと言えばそれについてとやかく言われる方が抵抗がある。


「だからと言って何故呼び方を戻す!呼び方が分からぬならば、汝が……っ、もう良い!」


 神様が途中まで言いかけてから言葉を止めてそっぽを向いた。私の神様に対する呼び方が気に食わなくて、どうやらそれが不機嫌の原因らしい。そんなこと言われても。一週間もそれで過ごしてきたというのに今更何だと言うのだろう。

 とりあえず神様が不機嫌だろうと学校が無くなるわけではないので服を着替え始める。


「…汝は他人の心に疎くて駄目だな。周りの者は苦労しそうだ」


 そうして着替えが終わるころにその間ずっと無言で居た神様が口を開いた。鬼に人の心について駄目出しされた。現在進行形で神様に対して苦労している私からするとその類のことを神様にだけは言われたくない。


「あの、なんでそんなに不機嫌なんですか?」


 一応歩み寄りの姿勢を見せようと質問すれば神様は苦い表情のまま、はぁあああ、と盛大な溜息を吐き出した。こちらの気遣いに対してその反応は如何なものだろう。何様のつもりだ、そうか神様か。

 

「強いて言うならば汝のその愚鈍さが癪に障るのだ、愚か者」


 ひどい言いようであり抽象的な回答である。神様には悪いが本気で心当たりがないのでそんな抽象的な駄目だしをされたところで謝りようがない。本当に私が悪いのであれば明確に言って欲しいし、それで私が悪いと納得出来る内容であれば謝罪することもやぶさかではないのだが。

 手の施しようがないのでとりあえず神様を放置して部屋を出ようとすると神様が一歩先に部屋を出た。不機嫌アピール全開で接してくるくせに私とタイミングを合わせてリビングに向かうのだから尚更意味が分からない。一体この神様は何がしたいのだろう。

 リビングに来た神様はいつも通りにテレビの前のソファを陣取り不機嫌を主張するようにしかめっ面で腕を組んでいた。神様の美貌が無表情で微動だにしないとそういう芸術品が置かれているようだ。視線はテレビに向けられてはいるがその表情はいつもの余裕の滲む笑みではなくしかめっ面である。テレビをちゃんと見ているかどうかも怪しい。

 余談だが、神様の姿が見えていない両親でも神様に接触事故を起こすようなことは無い。一週間両親と神様を見ていて気付いたのだが、神様が座っていると何故か誰も座らなかったり、神様が歩いてくるとすれ違う際に無意識に方向を変えたりしているようだ。つまり残念なことにこうして偉そうにソファにふんぞり返っている神様の膝の上にうっかり父が座ってしまったりとかそういうハプニングは発生しないのである。


「今日は学校に来るんですか?」


 不機嫌だし朝ドラもあるので多分来ないだろうけれども。それでも一応聞いておくのが礼儀というものだろう。

 神様は一度だけこちらを振り返り、凄く嫌そうな顔をした後またテレビへと視線を戻した。


「行かぬわ。汝の顔を見ていると腹が立って仕様が無い」


 なら家を出て行っても良いのに。ぶっちゃけ欲しいアイテムを手に入れた後なので神様が出て行きたいなら私は引き留めるつもりはない。昨日なんだかんだ謝罪はしたので無理に追い出そうとは思わないが、神様には神様の生き方があるだろうし凄いおまじないが使えるからと言って私のもとに縛り付けるのは彼女も不本意だろう。そもそもこの神様を私風情が引き留めて聞き入れてくれるとも縛り付けられるとも思ってはいないが。

 だが出ていくという選択肢が彼女に無いところから察するに、怒っているというよりは拗ねているだけなのだろう。相変わらず原因は皆目見当がつかないが。まあ、帰りにコンビニでツナマヨのおにぎりを買って帰れば機嫌も直るだろう。

 そういえば公園の鬼はまだあそこに居るだろうか。神様の嘘を見破れたのは彼のおかげなので今は時間にあまり余裕が無いので公園に寄らずに行くが、放課後にまだあのベンチに居るようなら礼の一言でも言っておくべきだろう。


「行ってきます」


 家を出る際に両親からの行ってらっしゃいの声の後に、おそらく神様のものと思われるふんっと鼻を鳴らす音が聞こえた。帰ってくる頃には機嫌が直っていると良いのだが。

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