-5- 赤い。
板張りの床に敷かれた赤いカーペット。
一目でエリナは、この部屋が異質な存在だと気づいた。
「執務室...か」
エドワードの視線は、部屋中央にある大きな椅子へと向けられていた。
「ここで最後ね...じゃ、探すわよ」
イザベラが、カーペットへ一歩踏み出した。
「あの...これ......」
「ん?」
エリナは、一台のコンピュータの前に立っていた。
画面が、点いている。
エドワードがキーをたたくと画面が暗転し、無機質な文字列が浮かびあがった。
《シモンニンショウ ヲ シテクダサイ》
デスクの上に、認証装置がせり出してきた。
「指紋って......」
エリナの言葉が、虚空へと放たれる。
彼女の拳は、固く握られていた。
「......しょうがない。出直すぞ」
黒いコートの裾が、ふわりと舞う。
エドワードは、部屋の外へと歩き出した。
イザベラがその後を追う。
「こんなの......」
ただ一人、エリナが部屋に残される。
握られたペンダントに、そっと指が触れた。
俯く顔に、青い光が差し込む。
――指紋
エリナは顔を上げた。
「おい、何して――」
エドワードが言い終わらないうちに、エリナは装置へと手を伸ばす。
銀色の表面と、白い指が重なった。
《アクセス ヲ ショウニン》
エドワード達が踵を返して戻ってくる。
「これは...」
「……うそでしょ」
突然、背後から大きな音がした。
3人が振り返ると、そこには一枚の扉。
「……隠し扉」
エリナの声が綻んでいた。
――――――――――――――――――――――――――――――
「臭っ……!」
ドアを開けた瞬間、それまで経験したことのないような臭気がエリナの鼻を突いた。
「なんですか……この匂い」
隣を見ると、イザベラも鼻を押さえて前を見据えている。
――その目が、揺れていた。
「この匂いって……まさか――」
「行くぞ」
遮るかのようにそう言うと、エドワードは奥へと足を踏み出した。
階段を降りると、長い地下通路が姿を現した。
通路は地面を掘り進めただけの簡素な物で、土がむき出しになっている。
エドワードの赤い光が、濡れた壁に反射していた。
突然、エドワードが足を止めた。
前方を見据えたまま動かない。
「...」
向こう側で、赤い光が反射している。
「どうしたの?」
イザベラの声と同時に、その反射光が動いた。
エドワードが素早く前に出る。
耳をつんざくような鋭い音。
その光は、反射ではなかった。
イザベラのウエポンライトが、光へと向けられる。
銀色のフレームと、黒い装甲。
ロボットだった。
その手に握られた剣を、エドワードが腕で受け止めていた。
「下がれ...!」
今までになく険しいエドワードの声。
直後、破裂音とともにエリナの横を何かがかすめた。
「いっ...!!」
熱い感触に、思わず手を当てた。
触れたのは、生ぬるい液体。
ガシャリ...ガシャリ...
地下通路の奥から響く音。
目を凝らすと、暗闇の奥で無数の赤い光が浮かび上がっていた。




