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第4話 終わらせる者



呼び出しは、記録更新から一時間後だった。


短い通達。


「特別監査を実施する」



会議室は、前よりも静かだった。


空気が、張り詰めている。



扉が開く。


足音が一つ、入ってくる。



「……久しぶりだな、凪」



低く、よく通る声。



入ってきた男は、無駄のない立ち方をしていた。


均整の取れた体躯。視線は鋭く、揺れない。



終端管理局・特別執行官。


しゅう



凪は、わずかに視線を上げる。



「……来たか」



環が、小さく息を呑む。



「終……あいつが出てくるのか」



当然だ。



“終わらせること”において、


この男以上はいない。



監査官が告げる。



「対象は残留体。状態は“終端欠落”」


「執行官・凪は、終端を除去したと報告している」



終は、わずかに目を細める。



「終端を……除去?」



静かな声。


だが、温度がない。



「そんなものが存在するなら、見てみたいな」



凪を見据える。



「お前ごと、な」



沈黙。



環が、一歩前に出る。



「……特別執行官。今回は“検証”のはずだ」



終は、視線を動かさない。



「検証だ」



短く答える。



「正しく終わるかどうかを、な」



それ以上の言葉はない。





再び、あの場所。


崩れた建物。音のない空間。



澪は、同じ場所にいる。



「……増えたね」



軽く笑う。



終が、一歩前に出る。



「対象確認」



その声には、一切の迷いがない。



「残留体。終端欠落状態」



わずかに、頷く。



「理解した」



刃に手をかける。



凪が、動く。



「……待て」



終は、止まらない。



「終わらせる」



ただ、それだけ。



迷いはない。



「――終わりは、流れだ」



刃が抜かれる。



「流れに乗らないものは、世界を停滞させる」



澪を見る。



「例外は、いらない」



振り下ろされる。



凪が、割って入る。



金属音。



刃がぶつかる。



「……どけ」



終の声が、低くなる。



「それは、終わるべきものだ」



凪は、動かない。



「……終わらないものもある」



終の眉が、わずかに動く。



「あるべきではない」



言い切る。



「終わらないものは、いずれ歪む」



一歩、踏み込む。



「歪みは、増える」



さらに力がかかる。



「やがて、流れを壊す」



凪の足が、わずかに沈む。



「だから、終わらせる」



押し切る。



凪は、刃を滑らせる。



衝撃が逸れる。



間合いが、開く。



「……それでも」



凪が、低く言う。



「終わらせてはいけないものもある」



終が、わずかに息を吐く。



「感情か」



冷たい視線。



「不要だ」



再び、踏み込む。



「終わりは、選択じゃない」



刃が走る。



「規定だ」



凪が、受ける。



火花が散る。



「……なら」



凪が、言う。



「規定が間違ってる可能性は?」



一瞬だけ、空気が止まる。



終の目が、細くなる。



「ない」



即答。



「それを認めた瞬間、この世界は終わる」



その言葉に、重みがある。



正しい。



だからこそ、重い。



凪は、沈黙する。



だが、退かない。



その間。



澪は、ただ見ている。



どちらにも、寄らない。



「……ねえ」



小さく、呟く。



二人の動きが、わずかに止まる。



「終わるのと、消えるのって」



少しだけ、首を傾げて。



「同じ?」



沈黙。



終は、答えない。



凪も、答えない。



答えられない。



澪は、小さく笑う。



「そっか」



それだけ。



その一言が、


何よりも深く刺さる。



終が、刃を構え直す。



「……時間の無駄だ」



冷たく言う。



「ここで終わらせる」



凪は、息を吐く。



そして。



刃を、わずかに下げる。



構えではない。



選択。



「……終わらせない」



静かな宣言。



空気が、歪む。



終の目が、細くなる。



「そうか」



一歩、引く。



「なら」



刃を収める。



「お前ごと処理対象だ」



環の顔が、強張る。



「待て、それは――」



終は、振り返らない。



「例外は、連鎖する」



静かな声。



「一つで止める」



そのまま、歩き出す。



「次は、お前だ。凪」



沈黙が落ちる。



澪が、小さく呟く。



「……大変だね」



他人事みたいに。



凪は、何も答えない。



ただ、そこに立っている。



流れの中で。



そして、


完全に外れた場所で。

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