019
「もうじき日が暮れますね…」
マリオンが指摘していたタイムリミットが近づいていたが、魔法騎士たちが向かった町からの援軍が来る気配はなかった。
ゴブリンたちが積極的に攻めてこなくなってからも、隠れている場所に矢を放って何匹かいぶりだしていたが、やはり魔法と違って数人の矢では大した効果がなく、最初に仕留めた数百匹のゴブリンを除く大半が生き残っている状態だ。
このままだと残りの七百匹近いゴブリンが闇夜に乗じて攻めてくる事になる。
「ここまでだね」
エドヴァルトはあっさり言い放つと、残っていた瓦礫を使い果たすように風猫に命じて飛ばしはじめる。
まるで自暴自棄になって全てを諦めたような行動を始めたエドヴァルト。
「ここからは君たちとは別行動をさせてもらうよ」
突き放すような言い方に駐留兵は村から逃げ出した魔法騎士たちの態度を思い出す。
援軍を呼びに行くと言いながら、結局のところは自分たちがゴブリンの襲撃から逃げるための方便にすぎなかったが、あの時も有無を言わせない態度で押し切られたのだ。
(ああ、この人も…)
そう思うがエドヴァルトの続けた言葉は意外なものだった。
「今のうちに君たちは避難している村人たちの元に行くんだ。後はボクが一人でやるよ」
どうやら瓦礫を飛ばしているのは駐留兵たちが安全に撤退できるようにゴブリンたちを牽制するためのものらしい。
エドヴァルトの行動の意味が分かると駐留兵たちは自分たちの勘違いを恥ずかしいと思うとともに、
「それでは精霊騎士様が危険ではないですか!」
「そうです!せめて我々だけでも盾がわりでもお使いください!」
と共に戦うことを志願してくる。
「勘違いしないでくれよ。ボク一人の方がやりやすいんだ。ハッキリ言うと、君たちは足手まといだ。ボク一人ならゴブリンが何匹いようと風猫の守りをうまく使えばやられることはないけど、君たちまで守るのは不可能なんだよ」
「ですから我らの事は守らなくてもよいのです。我らも兵士として国民を守るためなら命を懸ける覚悟です。精霊騎士様だけを危険な目に合わせるわけにはいかないのです」
「残念ながら君たちがいたらボクは守っちゃうと思うんだよ。見捨てるなんて後味が悪いからね」
今までのエドヴァルトの行動を見ればそうだろう。駐留兵たちの犠牲を無視できるなら初めからこの村に残っていないはずなのだのだ。
こう言われてはこれ以上残れないと駐留兵たちは諦めるが、
「わたくしは残りますわ」
マリオンが自分だけは残ろうとする。
「君は結界が使えるんだろう?君は避難所になっている宿舎に結界を張ってくれ。いざというときの時間稼ぎになる」
エドヴァルトはゴブリンたちが迫ってくる前にマリオンの使える神聖魔法を確認していたのだ。
「でも…」
「頼むよ。どうせボクの力じゃあ、やつらを止められない。せいぜい何割かの注意を引いて侵攻を遅らせるだけだ。守るためには結界は必要だよ。じゃあ、頼んだよ」
エドヴァルトは無理やりマリオンを駐留兵に押し付けると話は済んだとばかりにそれ以上は話をしないのだった。
駐留兵たちがマリオンを引きずるようにして(マリオンはまだギャーギャーと抵抗していた)立ち去った後、
「さてと、やるしかないか」
エドヴァルトは剣を抜きながら自分自身に言い聞かせるようにつぶやいている。
(接近戦は苦手なんだよなあ。もっと剣の修行もしておけばよかったよ)
と心の中では自信のなさが愚痴を言わせていたのだった。
*
完全に日が落ちる前に、ゴブリンたちの侵攻は再開された。
薄暗い中での進軍だが、目標は定まっている。エドヴァルトが目立つように松明を自分の周辺に焚いているのでまずはそこを目指してきている。
少し慎重になっているのか、まずは矢を遠くから飛ばしてくるがこれは風猫によって防がれている。
だが、近づくにつれてエドヴァルトがたった一人でいる事が確認できたその瞬間、雄たけびをあげて一斉に突撃してくる。
(あっ、これ無理なやつだ)
エドヴァルトは一塊になってくるゴブリンの集団を目の当たりにして、接近戦になると考えていた自分の見透しの甘さを悔いるがもうすでに遅い。
集団で突っ込んでくるゴブリンはすでに個ではなく、それ自体が雪崩の様なもので剣一本で食い止めるなどとてもできそうにない。一瞬で飲み込まれて終わりだろう。
(どこで間違ったかな。カッコ悪いなあ。一人ならなんとなると思ってたなんて。とんだ勘違いだよ。まあ、でも結界がしばらくもてば村の人たちは助かるかもしれないし、時間稼ぎには意味はあったよな)
自分の死が間近に迫ってくる中でせめて自分の死に意味を見出そうと意識したその瞬間、眼の前に迫って来ていたゴブリンに雷が落ちる!
そしてその他のゴブリンたちにも次々に雷が落ちて絶命させていく。
「たっ、たすかった…」
エドヴァルトは何が起こったか理解すると、
「まったく、遅いですよ」
と聞こえるはずのない場所にいる相手に愚痴るのだった。
*
エドヴァルトが死を覚悟する少し前、魔法騎士団の一団が援軍を呼びに行くという名目で退避してきた町。
この町には王国南部方面駐屯軍の本部があるので援軍は確かに期待できたが、今回に関して言えば精霊騎士長ヨハンがこの町に来ていた事が大きかったのだ。
「…バカなっ!?ゴブリンの魔力反応が消えていく!?」
南部方面駐屯本部の魔力水晶に映し出されたゴブリンの反応が次々と消えていくのを目の当たりにして、援軍を呼びに来ていた魔法騎士団の隊長は何が起きているのか理解ができないようだ。
ちなみにこの魔力水晶は南部各地にある魔法の水晶玉の情報を受け取る事ができる特別製でかなりの貴重品だ。今はこの魔力水晶とゴブリンに襲撃されている村の水晶玉をリンクして現在の様子を探っていたのだ。
(これをこの男がやっているのか?)
隣に立っている精霊騎士長とその男が呼び出した金髪大男の精霊をこわごわと盗み見る。
普通、素質のない者には精霊の姿は見ることができないが、ミカヅチくらいの強力な精霊が本気で力を使う時は精霊使いでなくてもその姿が見えるようになるのだ。
「ミカヅチ、間違っても人間には当てるなよ」
「ふん、わしがそんなへまをするかよ!」
確認するようなヨハンの言葉に『自分を見くびるな』とばかりにミカヅチは自信満々に答えている。
「ここからジンデ村にいるゴブリンを攻撃しているというのか?信じられん…馬で半日近くの距離があるんだぞ!?」
南部方面駐屯軍の司令官も魔力水晶の反応を疑うかのような発言をしてしまうが「…間違いなくあの村とリンクされています」という部下の言葉に一瞬言葉を失い、「そうか」と放心したようにつぶやく。
村が救われるのは喜ばしい事だがヨハンのしている事の異常さに思考がついていけないのだ。
攻撃魔法の威力は普通は距離が離れれば離れるほど落ちていくものだ。
並みの魔法騎士なら1キロも離れてしまえば全魔力を絞り出しても火花をチカッとさせる事もできないだろう。
それを40キロ以上はなれた距離でゴブリンを一撃で倒せるほどの威力を連発している。しかも同時に位置も索敵し、ゴブリンのみを攻撃しているのだ。
(バッ、バケモノだ…。こいつはとんでもない怪物だ)
魔法騎士団の隊長は自身が魔法を使えるだけにヨハンの行使している力(正確にはミカヅチの力だが)は完全に人の限界を超えているのがわかる。
神級の精霊を扱うとはこういう事なのだった。
久しぶりに主人公出ました。ちゃんと強いです。




