33 いきなりハンデ返上
『それでは「神築」、はじめぇーーーーーっ! キンっ!』
キメダールの掛け声とともに花火が打ち上げられる。
雲ひとつない青空にパラパラと火花が弾け、煙で『スタート』という文字を浮かび上がらせていた。
『地上軍』の作業員である人間10名と、『地獄軍』の作業員である亡者20名が、一斉に動き出す。
人数差があるのは、地上軍が圧倒的に有利だということで、ハンデキャップである。
総勢30名の作業員たちは、ステージの隅にある、石材置き場に向かい、角砂糖に群がるアリのように動き回っていた。
『いよいよ始まった「神築」! まず最初は、石を運ばなくては始まらないキン! 「地上軍」は城壁のそばに、「地獄軍」はスタジアムの真ん中に運ぶキン!』
地上軍の目的は城壁の修繕なので、当然城壁のそばまで運ばなくてはならない。
地獄軍の目的は屋外トイレの建造で、その建築場所はスタジアムの真ん中に指定されていた。
スタジアムの真ん中のほうが、どの客席からも無様な姿を見ることができるし、全方位からでも石を投げやすいからだ。
とはいうものの、いいきなり石を投げたりはしない。
ヘマをしたらヤジを飛ばし、石を投げるのは最後のお楽しみだ。
ひとまず観客たちは、両軍のお手並みを拝見する。
「地上軍のヤツらは、魔法で石を浮かせて運んでるぞ」
「あれが地上での最新技術らしいぞ。魔法で運搬して、魔法で積みをする。人力で積むなんて時代後れなんだ」
「へぇ、我ら創造天使ほどではないが、人間たちもなかなかやるじゃないか」
「しかも運んでいる石は、『権神石』じゃないか!」
「『神の石』とは……! でもゼウス様の城壁にはピッタリだな!」
「今回の地上軍の指揮を取っているのはヒコスター様だから、ヒコスター様がご用意なさったんだろう!」
「あれ? でもヒコスター様って、途中参加じゃなかったっけ?」
「そんなことはどうでもいいんだよ! それよりも凄いのは、ヒコスター様が権神石をお選びになったということだよ!」
「そうだな! 創造神でもないのに、権神石をお選びになるとは……! 相当な目利きに違いないぞ!」
「ヒコスター様ここまで凄いとなると、地獄のヤツらのへっぽこっぷりが、さらに浮き彫りになりそうだなぁ!」
「まぁ、いつものパターンさ! 亡者どもは石を運ぶこともできずに、骨折者が続出するんだ!」
「早くも、お楽しみタイムってわけか!」
観客たちは亡者たちに注目する。
すると亡者たちは、積み上げられた石には目もくれず、何かを組み上げていた。
「なんだ? なにやってんだアイツら?」
「長い木の棒に、網みたいなのを通してるぞ?」
「もしかして、アレで石を運ぶつもりか?」
「ハハッ! 道具を使うとは、少しは考えたな! でもあんなので石が運べたら苦労しねえって!」
「そうそう! きっと肩の骨を折って、キャンキャン泣き喚……えええええええっ!?」
我が目を疑うように、思わず前のめりになる観客たち。
亡者たちは肩の骨を折るという、重傷を負うどころか……。
魔法でもやっとの重そうな石を、ふたりがかりとはいえ、軽々と運び始めたのだ……!
「な、なんでだよっ!? なんであんなチンケな道具で、あんな重い石が運べるんだよっ!?」
「それどころか、速度だけで言えば、魔法よりもずっと速いぞ!」
「おいっ! 人間っ! なにチンタラやってんだよっ!」
「さっさと運べよっ! たとえ一工程でも亡者に負けたりしたら、恥さらしだぞっ!」
ヤジを受け、地上軍の作業員たちは慌てる。
魔法で運んでいた石を無理に速く動かそうとして、次々と落としてしまう。
中には自分の足の上に落としてしまい、悶絶する者も……!
「テメー! なにやってんだよっ!? テメーがドジってどうすんだよっ!?」
「お前らは、俺たち天使の代理みたいなもんなんだぞ! わかってんのかよっ!?」
「ふざけんなっ! 負けたら承知しねえぞっ!」
ステージで指揮していた地上軍のリーダーであるヒコスターも、このアクシデントには苛立ちを隠せない。
でも正義のヒーローが人前でキレてはまずいと、じっと我慢している。
ステージの下にいるハゲ社長は傍目も気にせず罵倒していた。
「なにやっとるんじゃ!? お前たちの仕事を、これほどの天使様や神様たちが見ておられるんだぞっ! このグズ! ノロマ! さっさとせんと、クビにするぞっ!」
地上軍の作業員である人間たちは、いきなりの四面楚歌。
プレッシャーに負けて精神統一ができず、魔法で石を運ぶことができなくなってしまう。
その間に亡者たちの第一陣は、トイレの建築場所に石を運び終わっていた。
とうとうしびれを切らしたヒコスターが、高らかに叫ぶ。
「よぉし、我が使徒たちを召喚する! 出でよ! 我が正義の使徒よ!」
すると、ステージの裏から、『地上軍』の作業着の人間たちがわらわらと出てくる。
その数、10名……!
過去の『ガス抜き』にはなかったサプライズに、観客たちはざわめく。
「お、おい、なんだありゃ!?」
「地上軍が一気に倍になった! こんなの、初めてだぞ!?」
「で、でも……! 別に変じゃないだろ! だって元々ハンデキャップがあったんだからな!」
「そうそう! 同数になっただけじゃねぇか! これで正々堂々とした勝負になるってだけだ!」
「これなら負けはねぇだろう! おい、しっかりやれよーっ!」
人数が倍になった地上軍は、一気に盛り返す。
足を負傷した人間はドサクサまぎれに退場しており、かわりに新しい作業員と入れ替わっていたのだが、そこに突っ込む者はいなかった。
両軍は石を運び終えると、建築の土台となる足場を組み始める。
ここでついに、ハゲ社長の隣にいたガンテツが、声を荒げた。
「オヤジ! ムチャだ! 『ノーヘルロック神殿建築ギルド』は、いくら神殿を作ってきたとはいえ、いままでこんな大きな城の石積みなんてやったことがなかったんだ! オヤジのやり方じゃ、絶対に崩れちまうぞ!」
「そんなわけがあるか! 魔法を使った最新式の石積み技術じゃ! これを成功させれば、ワシは『ヘルロック』に取って変わる、新技術の発案者になれる! 石積み界の父と讃えられ、後世まで語り継がれるんじゃ!」
親子が言い合っている間にも、地上軍は魔法を駆使し、金属の土台を組み上げていく。
この土台は作業用の足場になる他に、取り除いた石のせいで城が崩れるのを防ぐ役割がある。
そして時を同じくして、地獄軍も土台を組み上げていた。
金属ではなく木材を使い、魔法ではなく手作りで木組みをつくる。
「おいおい、人間たちが土台を作るのはわかるが、亡者が土台を作るだなんて、初めてじゃねぇか!?」
「そうそう! たとえ石を運んだとしても、亡者にはものづくりの知識なんてないから、下手に石を積み上げて、押しつぶされるのがいつものパターンだってのに!」
「もしかしてあの亡者たち、石積みの経験があるのか!?」
テキパキと木組みを作る亡者たち。
それは観客たちの目には奇妙に映っていたが、ふたりの少女……。
ガンテツとケージバードだけは、あることに気付いていた。
「「あの木組みの創り方は……もしかして……」」




