32 茶番
『あっはっはっはっはっはっはっはっ!! あーーーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!』
スタジアムを席巻していたのは、地獄からの呼び声のような、不吉な笑い声。
『こ、この笑い声は……!? ま、まさかまさかまさかっ!? 悪魔っ……!?』
うろたえるキンメダールの声に応えるように、ステージの裏から姿を現したのは……!
『……その通りだぁ! 俺様が天国に、舞い戻ってきてやったぞぉ!』
本人とは似ても似つかない、低品質のコスプレ……!
うろ覚えで作ったようなヘルロウのマスクに、背中にはハリボテっぽい悪魔の翼。
それでも客席は悲鳴に包まれる。
偽ヘルロウはのっしのっしとステージにあがると、客席を見回しながら叫んだ。
『我こそは地獄から蘇った悪魔! 真の名をハナクソ野郎! 好物はハナクソだぁ!』
本人が聞いたら、殴りかかっていきそうなほどに失礼なモノマネであった。
「イヤーッ!?」という悲鳴をよそに、さらに続ける。
『俺様の作ったこの石垣は、あと少しで崩壊し、ゼウス城をめちゃくちゃにするんだぁ! それを直そうなどとは、そうはさせん! お前ら全員、皆殺しにしてくれるわぁ!』
大げさに驚いて、尻もちをつくキンメダール。
『うっ……! うわぁぁぁ~っ! まさか悪魔が、地獄から蘇ってくるだなんて、夢にも思わなかったキン! このままじゃ、ゼウス様のお城はメチャクチャにされてしまうキン! そ、そうだ! こんな時こそ、みんなであのお方を呼ぶキン! この天国の平和を守る、正義のヒーローを! せぇ~の!』
「ヒコスター様ぁーーーーーーっ!!」
『そんなんじゃダメだキン! もっともっと、心を込めるキン! みんながヒコスター様を想う気持ちが強くないと、ヒコスター様は来てくれないキン! もう一度いくキン! せぇ~のっ!!』
「ヒコスター様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
すると、スタジアムに作られた櫓のてっぺんに、大きな人影が現れた。
『イエス! みんなのワシを想う心、しかと受け止めたのダッ!!』
『ああーっ!? みんな、あそこを見るキン! ヒコスター様が、来てくれたキン!』
「キャーーーーーッ! ヒコスター様ぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」
『こしゃくな! こうなったら、ケージバードを人質にしてくれるわ!』
『そうはさせん! とーうっ! スターダストキーック!!』
櫓からの、高高度スターダストキックが炸裂、悪魔は派手にステージ外へと吹っ飛んでいく。
「やったーーーっ! ヒコスター様ぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」
正義のヒーローの登場に、客席は大盛り上がり。
しかしヒコスターは声援に応えるよろり先に、VIPルームに向かって投げキッスを送った。
『我が愛しのケージバードよ! 今日もこうして悪の手から、キミを守ってみせた! これからもワシが、未来永劫守ってみせる! だからもう、恐れる必要はないのダッ! さぁ、その籠から飛び出して、ワシの胸に飛び込んでくるのダッ!』
ヒコスターは、ケージバードが閉じこもっているのヘルロウのせいにしようとしていた。
うまくいけば、『情操教育』の効果で、本当に籠から出てくることを期待していたのだが……。
まるで死に絶えた鳥カゴのように、無反応であった。
籠の中のケージバードはそもそも、ステージすら見ておらず……。
ヘルロウのぬいぐるみを抱きしめたまま、背を向けていた。
そばにいる召使いはステージの進行にあわせて、
「ほらほら、見てくださいケージバード様っ! 悪魔が出ましたよ!」
「ああっ! ケージバード様のために、ヒコスター様が来てくださいましたよ!」
などと声をかけていたのだが、ガン無視……!
ちなみにいまスタジアムで、さんざん悪魔悪魔と呼ばれているのが、ヘルロウのことであるとはケージバードは知らない。
ヘルロウのことは『悪魔』と呼ばれているし、下手なコスプレは背中を向けているせいで見ていなかった。
今回は『情操教育』の場なので、それまでケージバードに内緒にしていたヘルロウ堕天の事実を解禁するつもりだったのだが……。
ケージバードはそもそも五感を遮断して、一刻も早くこの茶番が終わるように、祈るばかりだったのだ。
偽ヘルロウは舞台からハケてしまったが、このまま『神築』の儀式まで見ないとなると『情操教育』の効果のほども怪しい。
召使いたちはこっそり輿を担いでいる者たちに指示を出す。
輿を180度回転させて、ケージバードをステージへと向けさせる。
しかしケージバードは身体をくるんと回転させて、また反対方向を向いてしまった。
召使いは意地になって、なんとしてもケージバードをステージのほうに向けようとする。
VIPルームの一角では、ずっと輿がくるくると回転しているという、なんとも奇妙な光景が繰り広げられていた。
それはさておき、ステージのほうはヒコスターの挨拶がすんで、いよいよ茶番も終わりかと思いきや……。
『なんと、ケージバード様の危機に駆けつけてくれたヒコスター様が、「地上軍」の指揮を取ってくれることになったキン! でも、ヒコスター様は創造神ではないキン! 大丈夫なのですかキン!?』
『心配にはおよばぬのダッ! ワシはケージバードの愛を受け、奇跡の力を手に入れたのダッ! もはやワシの身体の中にはケージバードの創造神としての力が、ケージバードの身体の中にはワシとの愛の結晶が宿っているのダッ!』
『お……おお~っとぉぉ! これは大胆発言なのだキン! ヒコスター様とケージバード様の仲は、かねてから有名だったキン! まさかそこまで深い仲になられているとは、知らなかったキン!』
「ヒューヒュー!」とはやしたてる観客席。
あまりに嘘八百を並べ立てるので、ケージバードは珍しく額に青筋を浮かべていたが、ぐっとこらえる。
このヘルロウ製の籠から飛び出してしまっては、相手の思うツボだからだ。
そしていよいよ、今日のメインイベントである、『神築』が開始された。
『みなさま、お待たせしましたキン! 「地上軍」と「地獄軍」のものづくり合戦、いよいよスタートだキン! ヒコスター様がリーダーになった以上、勝敗は目に見えているキン! さぁみんな、ヒコスター様を応援するキン!』
「キャアアアーーーーッ!! がんばってくださぁぁぁぁーーーーーいっ! ヒコスター様ぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」
スタジアムが黄色い声援に包まれるなか……茶番はようやく終わりを告げ……。
最大最強の超茶番が、いよいよ始まろうとしていた。




