31 神築
スタジアムの注目を一身に集めていたのは、『活弁天使』のキンメダール。
『活弁天使』というのは、神々の声を天国や地上に広める役割をしている。
さらには天国で大規模なイベントやスポーツの大会などがある場合は、彼らがMC担当をつとめることが恒例となっていた。
今回、キンメダールをMCに選んだのは、主催者であるヒコスター。
キンメダールのチャームポイントである、金髪に金色の瞳、そばかすというアメリカンな特徴が気に入っての大抜擢であった。
キンメダールにとって、これほどのイベントを仕切るのは初めて。
成功すれば昇格は間違いなしなので、大いに張り切っていた。
ちなみに『活弁天使』には、自分や周囲にいる人間の声を、スピーカーを通したように拡声する天技が与えられている。
そのため彼の声は、広大なスタジアムにおいても、うるさいくらいに響き渡っていた。
『キンキラキーン! 皆様すでにご承知のとおり、今回の『神築』はゼウス様の第1居住城にある、城壁の一部を入れ替えることだキン! このステージの後ろにある城壁のうち、黒く塗られた石垣の部分がそうなんだキン!』
バッ、とキンメダールが背後を指し示す。
そこにはゼウスの第1居住城がそびえ立っていたのだが、たしかに土台となる石垣の一部が、まるで虫歯のごとく黒く塗りつぶされていた。
『この黒いのはなんと、かつて天使のフリをしてこの天国にいた、悪魔が積み上げたものだキン!』
すると客席から、「ええーっ」とおぞましい悲鳴がおこる。
『今はまだなんともないキンけど、悪魔のことだキン! このあと絶対に崩れるに決まっているキン! だから今回、「神築」することになったんだキン! さっそくその栄誉ある仕事を任せられた者たちを、紹介するキン! みなさん、そこそこの拍手でお迎えくださいキン!』
すると、下に控えていた者たちが、階段を登ってステージにあがる。
先頭に立って、まばらな拍手に応えていたのは……。
『ノーヘルロック神殿建築ギルド』のハゲ社長であった。
隣には娘のガンテツと、ギルドの作業員たちがいる。
『いつも「神築」といえば創造天使の役割キン! でも今回は特別に、地上から神殿建築に関わる者たちを呼び寄せたキン! とはいえ人間であっても、あのヘタレの悪魔よりずっと良い石垣が作れるキン!』
大いに沸く客席。
ここでキンメダールは、ハゲ社長に話題を振った。
『そこの人間! お前がリーダーなのキン? ここにはお前たち神殿建築に関わる者たちが、たいそう崇める創造神様もごらんになっているキン! やる気を見せてみるキン!』
するとハゲ社長は、コホンと咳払いをひとつしてから、
『今回はゼウス様のお城を修繕させていただけるという、身に余る栄誉をいただいて、大変感激しております! 実を申しますと、我が「ノーヘルロック神殿建築ギルド」も、悪魔に騙されていたのです! でも今回は悪魔のものよりも遙かに上回る石垣を作ってごらんにいれましょう!』
『当然だキン! 悪魔以下の石垣だなんて、糞の山ぐらいのものだキン!』
キンメダールはハゲ社長の決意表明をも自分の笑いに変えていた。
『そして石垣を作るだけじゃ面白くないキン! そこで……今回は地獄から、鬼と亡者を呼んでいるキンっ!』
それだけで、観客たちは意図を察したようで「ウオオオオオオオーーーーーッ!」と大いに盛り上がる。
『ステージの下に突っ立ってるのが、そいつらだキン!』
キンメダールが指さした先には、ゴルバとアローガ、そして亡者たちが。
鬼たちは地獄にいる時と同じ虎縞の水着だか、亡者たちは黒いローブで全身を覆っていた。
亡者はガリガリで醜悪ということで、天国に呼ばれた場合は、全身を覆う黒いローブを着させられる。
フードを深く被り、顔も肌も一切露出しないという決まりになっていた。
客席にいた一部の者たちは、下卑た笑いを浮かべている。
「へへへ……! これが楽しみで、観にきたようなもんなんだ!」
「見ろよ、あのオス鬼! 頑丈そうで、壊しがいがありそうじゃねぇか!」
「オスなんてどうでもいいよ! それよりもあのメス鬼だよ! ひょぉぉ、色っぺえ!」
「あのツンとすましたところがたまんねぇな!」
「でもあんな顔ができるのも今のうちだけだぜ! 最後は素っ裸に剥かれて、これだけ大勢の前で生き恥を晒すんだからよ!」
「あの鬼どもがメチャクチャにされたら、どんなふうに泣き叫ぶんだろうなぁ!?」
「これが本当の、鬼の目にも涙だぜ! ぎゃははははははは!」
鬼や亡者たちが紹介された途端、客席に黒い感情が渦巻きはじめた。
それも、通常行なわれている『ガス抜き』とは比較にならないほどの、えげつない感情が。
なぜならば、『情操教育』……!
情操教育の儀式陣のなかでは、ありとあらゆる感情が増幅されてしまうからだ……!
今回、儀式陣はスタジアム全体を覆うように敷設されている。
となれば、その憎悪のパワーも計り知れない。
もし爆発してしまったら、鬼たちは『生き恥』どころか……。
生きてこの天国から出られるかも、わからないのだ……!
『さあっ! それではここで、地獄軍のリーダーに一言聞いてみるキン! おい、なんか言うキン!』
地獄軍のリーダーは、ゴルバということになっていた。
ゴルバは天国に来たときから緊張しっぱなしで、業務用の冷蔵庫のようにカチコチになっている。
『せっ……せせっ、拙者は……!』
『はぁい、つまんないからそこまで~!』
完全にフリとして使われ、ゴルバは嘲笑に包まれていた。
キンメダールは次に、ルールの説明に入った。
『さぁて、ここから「地上軍」と「地獄軍」に分かれて戦ってもらうキン! 「地上軍」はさっき紹介した、悪魔の石垣を修繕してもらうキン! 「地獄軍」は、そのへんにトイレでも作ってもらうキン! その出来映えを観客のみなさんに判断してもらって、多くの支持を得たほうが勝者となるキン!』
言いながら、金色のメダルを取り出すキンメダール。
『勝ったほうの軍勢には、この金メダルをあげちゃうキン! そして、負けたほうには……』
キンメダールはステージから少し離れたところにある、木を指し示す。
よくみるとその木の枝には、紐のついた巻き糞がぶらさがっていた。
『あそこにある、糞メダルをあげちゃうキン!』
「あーーーーーーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはーーーーーーーっ!!!!」
これには客席も、今日いちばんの大爆笑。
まさかキンメダールの口癖である『糞メダル』が本当に作られているとは思ってもみなかったのだ。
ちなみに本物ではなく模型なのだが、観客たちは大喜び。
これは、『情操教育』の効果が作用しているせいもあるのだが……。
天国のお笑いというのは、小学生レベルであるというのが大いに起因している。
笑いはいつまでもおさまらなかったのだが、ふと、
『はははは……!』
地の底から響くような、不穏な笑い声が被さり、会場は静まりかえる。
『ははははは……! はっはっはっはっはっ……!』
キンメダールの顔から笑顔が消えた。
『ええっ!? な、なんなんだキン!? こ……この笑い声は、ま……まさかっ……!?』
『あっはっはっはっはっはっはっはっ!! あーーーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!』
あの悪魔の、高笑いっ……!?




