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ヘル・クラフト  作者: 佐藤謙羊
第2章
96/109

30 てんやわんや

 天国で行なわれる、『神築』イベントのことが地獄に広まると、地獄の中心部にある『地獄山』は蜂の巣を突いたような大騒ぎになった。


 それは、塀の外にある『ヘルロウ村』から見て取れるほどの大騒動。

 地獄の内部で毎日のように行なわれていた、亡者たちへの責苦はいったん中断され、すべてを巻き込んだ受け入れ準備が始まる。


 なにせ当日は、天国からの使者がやって来るのだ。

 いうなればこれは、地獄という支社に、天国という本社のお偉いさんがやって来るも同義。


 地獄では逆らう者のいないエンマ大王ですら、使者を土下座して迎える。


 なぜならば、使者といってもエンマ大王より格上なうえに、地獄内部の視察も兼ねている。

 さらに天国の者たちは完璧主義なので、少しでも不手際などあろうものなら、エンマの首などあっという間にすげ替えられてしまうからだ。


 なお、使者がやって来ると、盛大な歓迎パーティが行なわれる。

 使者の好みにあわせて、地獄じゅうの美形のメス鬼や、イケメン鬼たちが集められ、酒池肉林でもてなされる。


 エンマ大王は宴の最中、使者に擦り寄って、こっそりと袖の下を渡すのが慣例になっていた。


 地獄はいま、その準備で大わらわというわけである。


 ちなみに『神築』イベントに行くことになったのは、『等活地獄』の鬼であるゴルバとアローガ。

 そして同地獄にいる、20人の亡者たち。


 表向きはゴルバとアローガが選んだことになっているのだが、選別はヘルロウが行なっていた。

 『神築』では天国での石積みをして、トイレを作らされるということだったので、特に『ヘルロウイズム』を体得している者たちを選んだ。


 あとは、当日を待つばかり……だと思っていたのだが、ひとつ問題が発生。



「だーっ!? ずるいのだっ! ゴルバとアローガだけが天国に行くだなんて……! わたしも天国に行ってみたいのだ~っ!!」



 ダーツエヴァーが駄々っ子と化してしまったので、なだめるのにひと苦労。



「おいダーツエヴァー。天国なんて行っても、堅っ苦しいばかりで楽しいことなんてなんにもないぞ」



「それに拙者たちは遊びに行くのではないのでござる!」



「お土産話をいっぱい持って帰ってあげるさかい、大人しく待っているんどすえ」



「そうだよダーツエヴァーちゃん! 私たちといっしょにお留守番してようよ、ねっ!?」



 ヘルロウと鬼たちがさんざんなだめすかして、ダーツエヴァーもようやく納得しかけていたのだが……。



「ふぅ。天国は雲の上にあるそうですが、その雲はふわふわでやわらかいそうですよ。食することもできて、とても甘いそうです。その甘さは、ふだん小生たちが食しているサツマイモの数倍にもなるそうです」



 ある空気の読めない鬼の一言で、台無しになってしまった。



「ふわふわしてて、とても甘い……!? だぁぁぁぁぁーーーーっ!? わたしの大好きなものが合わさっているなんて、ますます行きたくなってしまったのだ! 行きたいのだ行きたいのだ、行きたいのだぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」



 ダーツエヴァーのせいで……いや、空気の読めない鬼のせいで……。

 『神築』イベントに直接関係ないヘルロウ村まで、てんやわんやになってしまった。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 そして『神築』イベント前日。

 使者が迎えに来る日となった。


 その日は、地獄にいるすべての者がひれ伏していた。


 亡者はもちろんのこと、鬼たちも、エンマ大王さえも。

 天空に瞬いた一等星のような存在に、完全に平伏していたのだ。


 それは、箱船だった。

 黄金の光を放ち、大勢の楽隊が乗っていて、楽しげな音楽を奏でながら、ゆっくりと降りてくる。


 それはまるで太陽が迫ってくるようで、近づいてくるたびに、地獄全体がこうこうと照らされた。


 あまりにも神々しいその姿に、地獄の者たちは、心まで屈服する。

 天からの威光にを疑う者など、この地には誰ひとりとしていないはずであった。


 しかし、ただひとり……。

 ひとりだけ、違っていた。


 その名は、ヘルロウ……!


 彼だけはひとり、自らが興した村に立ち……。

 身体も心もスックと立たせたまま、箱船を見上げていた。


 神そのものともいえる存在を前にしてもなお、膝を折らぬその姿は……。

 まさに絶対不屈にして、絶対無頼……!


 彼はさながら、邪悪なイカロスであった。

 蝋の翼を溶かされてもなお、太陽に仇なすのを、あきらめていないかのように……。


 まばゆい光を手で遮ることも、目をしばたたかせることもせず……。

 こともあろうに、神々の使わした箱船に、大胆不敵な笑みを向けていたのだ……!



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 そしてついに、『神築』イベント当日。

 天国にある、ゼウスの第1居住城。


 件の城壁の前には広大な庭園があるのだが、そこには巨大な野外スタジアムがあった。

 今回の『神築』に対し、わざわざ建設されたものである。


 客席には、すでに何十万という観客が詰めかけていた。


 まず一番下の一般客席には、矯正施設に送られた子供たち。

 その他にも、見学に来た天国の住人などが大勢いる。


 つぎに中階にある特別客席には、ヘルロウのクラスメイトをはじめとする天使たち。

 もちろん見学に来た他の天使たちもいる。


 そして、いちばん上の階。

 いわゆるVIP席と呼ばれる、個室の客席には……。


 ケージバードをはじめとする、神々が……!


 ちなみにケージバードは、地上での『神輿』の起源となった、担いで移動できるタイプの家の中にいる。

 引きこもりのケージバードに対して、ヘルロウが発明した『移動できる家』であった。


 さらに余談となるが、神々のなかに、ゼウスの姿はなかった。

 ゼウスほどの上級神となると、この程度のイベントには顔も出さない。


 今回の『神築』の対象になった第1居住城は、彼の所有物なのだが……。

 彼が下級神の頃に建てた城だったので、今ではもっと大きな城に住んでいる。


 もはや近寄ることもなくなっていて、観光地として一般に開放するほどに興味を失っていたのだ。


 話を元に戻そう。

 いま客席にいるすべての者たちは、中央にあるステージを見つめている。


 そこにはひとりの天使がいて、両手と翼、そして両の眼をこれでもかと広げていた。


 彼は自慢の黄金の瞳をキラキラと輝かせ、客席を見回しながら叫んだ。



『キンキラキーーーーーン! 今回の『神築』の司会進行は、皆様ご存じのキンメダールだキンっ! 天国のみんなに金メダルを! 地上のみんなに銀メダルを! そして地獄のみんなには糞メダルをあげちゃうキン!』



 それは鉄板の自己紹介ギャグだったようで、客席はどっと沸く。

 天国の笑いのレベルは、わりと低かった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最後のギャグでにやついてしまった私は地獄行きでしょうか
[気になる点] そういえばこの世界の 天国 人間界 地獄 って それぞれが異世界のようになっていて特定の場所から移動したり特別な道具や魔法が必要なんでしょうか それとも全部同じ世界で空に天国、地上に人…
[良い点] 一気にイベント当日までなりましたか!(大喜)  イベント日まで いろいろな準備とかで 時間がかからなくて良かったです!(大喜) ヘルロウも 大胆不敵な笑みということは 準備完了してるようで…
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