58 還りの会
『還りの会』の進行役である、クラスメイトからは『委員長』と呼ばれている少年の声が、シミひとつない教室の壁に……。
そしてみなの心に、染み入るように響いていた。
……ダメルシアン君は、此度の学内試験において、順位を落としてしまいました。
この天使学校では、みなが優秀な天使となるために日々、切磋琢磨しています。
そのため、順位の変動というのはよくあることでしょう。
多少の下落であるならば、この会の議題にする必要もないのですが……。
しかし今回のダメルシアン君の成績は、最下位でした。
……みなで誓ったはずです。
このクラスを堕落させていた存在を放逐し、真の天使として上を目指せる、向上心に満ちたクラスに生まれ変わろうと。
その矢先に最下位の生徒が出てしまったことは、非常に残念です。
調べてみたところ、ダメルシアン君は学園内の素行は問題ありませんでした。
しかしながら、筆記試験においては1問、誤っていました。
天使にとっては満点が当たり前のテストで、ダメルシアン君もずっとそうだったのに……。
今回のテストにおいては、1問も誤っていたのです。
そして獲得した『信心』は、前回の試験よりも大幅に下がっていました。
この要因こそが、ダメルシアン君を最下位たらしめたのです。
それでは、ダメルシアン君に伺います。
……あなたはこれまでの間、なにをしていたのですか?
「ちょ、ちょっと……たたっ、体調が悪くて……」
……それで、信心を得るのを怠っていたというわけですか?
「あ、おおおおっ、怠っていたというか、ででで、できなかったというか……。で。でも、ももももう大丈夫ですっ! なっ、治りましたので、つぎっ、次の試験には元の順位に、かかかかっ、返り咲いてみせます!」
……本当ですね?
『天国法』、論議ノ章、第195682章、『論議ニオイテハ、イカナル議題、状況、心理、体調ニオイテモ、虚偽ノ発言ヲシテハナラナイ』。
体調不良であったというのが証明できなければ、失点が加算されますよ?
「うっ……! ううっ……! ほっ……! ほほほ、本当です……! わわわ、我が創造神、ヘパイストス様に誓って……!」
……自らの主神に誓うというのであれば、本当なのでしょうね。
「はあっ!? はっ……!? はっ……!? はっ……! はひぃぃぃぃぃっ……!!」
教室で立たされっぱなしのダメルシアンは、池の鯉のように口をパクパクさせていた。
全身は、服のままサウナにいるかのように、汗でびっしょり。
しかし、極寒の地に放り出されたかのように、ガクガクと震えていた。
それほどまでに彼は追いつめられていたのだ。
ちなみにウソをついているかどうかは、天技があれば簡単に見通すことができる。
しかしその能力を持っているのはごく一部の上級天使のみ。
末端の天使たちが集う『還りの会』ごときの場で、その技が適用されることはまずない。
ダメルシアンはそこに賭けたのだ。
やむない理由をでっちあげた場合、その証明をしなくてはならない。
しかし、『主神に誓う』ことで、追求の手から逃れようとしていた。
『神に誓う』という言葉はよくあるが、神が実際に存在するこの世界においては、かなり重みが違う。
なにせ神というのは、すべての生殺与奪を握る存在にして、天使の統括者であるからだ。
これは、天使にとっての最終手段であった。
主神に誓った天使を疑うということは、その主神をも疑うことになるからだ。
しかし当然、主神に誓っておきながら、虚偽の発言をするということは、その主神を冒涜していることなる。
追求からは逃れることができるが、バレたらタダではすまない、諸刃の剣……!
しかしダメルシアンは、この場をおさめたいがために、握ってしまった……!
『体調不良』という、いかにも絞り出したウソを、さらに塗り固めるために、とっさに……!
刃が剥き出しになった、柄を……!
落ち着いて確認すれば、大怪我をするのはわかっている柄を……!
震える手を、押さえ込みたいがいために、力いっぱいに……!
そして、気付く。
前のほうの席にいた、とある生徒が振り返っていることに。
汗にまみれた丸顔を、こちらに向け……。
穢れた太陽のように、ニタニタと笑っている、それに……!
ダメルシアンの背筋に、鋭い刃で手のひらを切ったときのような、ぞくりとした感覚が走った。
「はい、委員長」
……なんですか? レインコションく……。
委員長の言葉は、空飛ぶ被告によって遮られてしまった。
……ドガッ……シャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
ダメルシアンが、レインコションに飛びかかっていったのだ。
粛々とした法廷は一転、怒号と悲鳴に包まれる。
「だっ……! 黙っててくれるんじゃなかったのかよぉぉぉぉぉぉぉーーーーーっ!?!?」
「なっ……!? なんのことだしょんっ!? 口止め料までは、もらってないしょん!?」
「きっ……! 貴様貴様貴様貴様っ……! 貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!! 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやるっ!! 殺してやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーっ!!!!」
「ぐげえっ!? だっ、だすけてじょん! ぐるじいじょん! ぐるじいじょんっ!! ぐええぇーー! 悪霊退散悪霊退散!!」
レインコションは首を絞められ、ドンドンピンクになっていった。
……結局、ダメルシアンには降格処分が下された。
罪状としては、クラスの和を乱す行為、虚偽の証言、クラスメイトへの暴言と暴行。
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●大天級
レインコション
●小天級
↓降格:ダメルシアン
○堕天
ヘルロウ
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いままで天使として優秀な成績をおさめていたダメルシアンにとって、これは初めての挫折となった。
しかし、階級の下落だけであれば、努力すれば再び這い上がることが可能であろう。
しかし……しかしである。
『人間に敗北してしまった』という事実だけは、致命的……!
これは例えるならば、奴隷の焼き印を、額に押されてしまったようなもの……!
ダメルシアンの天使生命は、風前の灯火となってしまったのだ……!
東焼豚様よりレビューを頂きました、ありがとうございます!




