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ヘル・クラフト  作者: 佐藤謙羊
第1章
54/109

54 夜明け

 ルシエロの地に、静寂が戻る。

 すべての者が死に絶えてしまったかのような、物言わぬ世界。


 その世界の、いちばんの高みにいた、ブリッヂレイカー。


 彼は、涙をこぼしていた。

 膝から崩れ落ち、嗚咽をもらした。


 それから四つ足になって、号泣した。


 すっかり空っぽになってしまった溜池に転がり落ち、泥沼の中でのたうちまわった。


 血のような涙を、真実を……。

 そして今更ながらに気付いた愛を、魂の叫喚とともに、身体の奥底から押し出すように……。


 いつまでもいつまでも()いていた。



「うっ……! ううっ……! うううっ……! うわあああっ……! うわああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」



「父上は……! 父上は……! 私があれほど悪魔だと罵った、父上は……! 私や、私についてきた領民たちを守るために……!」



「自分の領地だけでなく、私の領地をも洪水から守るために……! 水門を……! 水門を創っていただなんて……!!」



「私はそれを……! それを、壊してしまった……!! そして……私についてきてくれた、多くの領民たちを、死なせてしまった……!!」



「おおおおっ……!! うおおおおおっ……!! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!」



「私は……! 私はなんてことをしてしまったんだ……!! そして、なぜここまでの事が起こらなければ、気付かなかったんだ……!!」



「父上は、信じていたのだ……! この領地を長きにわたって支えてきた、ヘルロウのことを……! そして……! この私のことも……!」



「ヘルロウは……いや、ヘルロウ様は……! 悪魔なんかじゃなかったんだ……! なぜならばヘルロウ様のクラフトは、このルシエロの地に根付いていたではないか……! 石橋として……! ダムとして……! 水車として……!!」



「それに比べて、ダメルシアンのクラフトはどうだった……!? 半年も持たずに腐り果てたばかりか、このルシエロに大いなる厄災をもたらした……!!」



「ああっ……! やっと……やっとわかった……! 誰が本当の天使で、誰が本当の悪魔なのかを……!」



「俺が……! 俺こそが……! 悪魔に魅入られた、愚かな人間だったんだ……!!」



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 それから数日後。

 天国にいるダメルシアンは焦っていた。


 もうとっくの昔にルシエロの地は浄化され、自分を讃える祭りが領地をあげて行なわれていなくてはならないのに……。

 一向に、その気配がなかったからだ。


 しかも、ブリッヂレイカーを問いただそうにも、行方知れずになっていた。


 天使であるダメルシアンがその気になれば、逃げた人間を探し出すのは造作もないこと。

 雨を降らせたように、自分以外の天使の力を借りればの話であるが。


 しかし他の天使に探索を頼もうにも、それに見合うだけの対価はすでに使い果たした後。

 それに見つけたところで、もはやどうにもならないのはわかりきっていたので、敢えて探すことはしなかった。


 かわりに、彼が問いただした相手は……。



「なんでしょん、ダメルシアンさん」



「レインコション。キミは本当に、100パーセントの力で、ルシエロに雨を降らせているのかい?」



「もしかして、疑っているしょん? もらった分の働きは、ちゃんとさせてもらってるしょん」



「ならどうして、ヘルロウの石橋は流されていないんだい? それどころかルシエロは雨が降る前より、遙かに豊かになっている……これは、どういうことなんだい?」



「そんなこと、しょんに聞かれても知らないしょん。しょんは雨を降らせているだけしょん」



「しらばっくれるのはよしてくれないか。聞いたぞ、キミは他の地域にも雨を降らせているそうじゃないか」



「それが、どうかしたしょん? 雨を降らせるのは、天候天使である、しょんの役目しょん」



 悪びれもせず、ヌケヌケと答えるレインコション。

 ダメルシアンは思わず叫び出しそうになっていたが、ぐっとこらえた。



「くっ……! 他の地域に雨を降らせる余力があるということは、ルシエロに降っている雨は、100パーセントの力じゃないということじゃないか」



「なにか、誤解をしているしょん。しょんの力の最大は、別に100パーセントじゃないしょん。100パーセント以上の力を持っているしょん。100パーセントの分はちゃんとルシエロに回して、残った力で他の地域に雨を降らせていたしょん」



 ……この天候天使は、ようはモノサシの違いだと言いたいようだった。


 ちなみにレインコション基準の場合、最大の力は150パーセントである。

 ようは、3分の1ほど力を余らせていたのだ。


 なぜそんなことをしたかというと、それにはふたつの理由があった。


 まずひとつは、成績確保のため。


 天候天使の場合は、雨を降らせることによって人間に感謝され、それが信心となる。

 そうやって獲得した信心が、天使学校での成績として認められる。


 となれば、150パーセントの力を駆使して雨を降らせるほうが良いのだが、今回は30億(エンダー)の対価を受け取っているので、あえて成績が少し落ちるのもいとわず、雨を他の天使のために使ったのだ。


 ちなみにこういう助け合い(●●●●)のようなものは、天使間では普通に行なわれている。


 時にはそれが、相手を蹴落とすことにも使われる。

 そしてそれこそが、レインコションが力を余らせていた、もうひとつの理由であった。


 今回ダメルシアンがルシエロ領にこだわっていたのは、自分を讃える祭りを、何がなんでも再開させるため。

 祭りというのは高得点とみなされるので、全力を傾けてブリッヂメイカー潰しにあたっていたのだ。


 もちろんそれすらも、他の天使頼みだったのだが、期待していたのだ。


 レインコションが全力を出せば、ヘルロウのクラフトを打ち崩せるだろうと。

 それにレインコションに100パーセントの力を出させれば、レインコションは他の地域に雨が降らせられなくなり、彼の成績は下がるだろうと。


 30億(エンダー)の出費は痛いが、自分の成績はさらに上がり、ライバルの成績はさらに下がる……。

 一石二鳥の妙案だと、思い込んでいたのだ……!


 しかし、やられてしまった。

 やり返されてしまったのだ。


 30億(エンダー)を奪われてしまったうえに、手抜きの雨を降らされてしまうという……。

 踏んだり蹴ったりの、ペテンを……!


 もちろんレインコション自身もルシエロにかまけることになるので、成績は多少落ちるだろうが……。

 しかしそれ以上に、なんの成果もあげられなかったダメルシアンの成績は、目も当てられないことに……!


 天使学校の成績というのは、自分が獲得した得点が重要なのではない。

 順位こそが重要視される。


 従って、高得点を目指すのも良いのだが……。

 それよりも、相手の順位を落とすほうが、効率的なのだ……!


 ダメルシアンは激怒した。

狐兎とん様からレビューを頂きました、ありがとうございます!

おかげでやる気ゲージが一気に回復しましたので、連載再開です!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 待ってましたああああああああああああああああああああああああああああああ!(大喜) さて馬鹿息子 やっと気づきましたか! そしてクズ天使たちは 仲間割れで自滅でしょうかな!(ニヤリ) [気…
[良い点] 再開待ってました! [一言] ようやく息子は気付いたようですね!そしていよいよダメ天使にざまあ発動ですね、楽しみにしてます!
[良い点] この作品の連載再開に、私が泣いた!(首を長くしてお待ちしておりました。) ブリッヂレイカー、やっと己の間違いに気がつきましたか(まぁ、「親の説教と冷酒は、後からくる」といいますから。)。ダ…
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