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ヘル・クラフト  作者: 佐藤謙羊
第1章
40/109

40 再会

 地獄に、またひとり新たな亡者がやって来た。


 彼が、三途の川の渡しにふらりと現れた頃……。

 ヘルロウはそこにある渡し橋をバージョンアップしているところだった。


 ひとり石を積み上げ、欄干を創っていたところ……。

 亡者は通りすがりにヘルロウの横顔を見て、ハッと息をもらした。



「へ、ヘルロウ様っ!? あなた様はもしかして、ヘルロウ様ではございませんかっ!?」



 ヘルロウが振り返ると、そこには年老いた亡者が立っていた。


 それだけであれば、今までここを訪れてきた多くの亡者と変わりないのだが……。

 その老人は、うっすらと身体が透けていた。


 ヘルロウはそのことも気になったのだが、それよりも相手に見覚えがなかったほうが気になった。



「ああ、俺はたしかにヘルロウだが……。どっかで会ったっけ?」



「わたくしでございます! ルシエロ領でお世話になりました、ブリッヂメイカーですじゃ!」



 それでようやく、ヘルロウは思い出した。



「……ああ~っ! ブリッヂテンダーの息子かぁ! ちょっと見ない間に、大きくなったなぁ! っていうか、ジジイになったなぁ~!」



「ヘルロウ様にお会いしたのは、もう何十年も前ですので……! ヘルロウ様は、ぜんぜんお変わりありませんなぁ!」



「いちおうあの時は天使だったからな。いまはもう違うけど」



「ヘルロウ様が堕天したとは伺っておりましたが、まさかこのような場所でお会いできるとは、思いもよらなんだ……! いやあ、ありがたや、ありがたや……!」



「俺も会えて嬉しいよ。もっと若い姿で来てくれたらもっと嬉しかったんだが……まあいいや、俺の村に来いよ」



 ちなみにではあるが、地上で死亡して、亡者となった者の姿は、その者の想いによって変わる。

 生前、想い残すことが強かった年代の姿になるので、若返った姿になる者もいるのだ。


 死んだときのままの姿で亡者となる者は、生前に未練のない者か、または死ぬ間際に大きな未練を残した者である。


 ヘルロウは、ブリッヂメイカーはなんとなく後者だと思った。

 なぜならば、彼の身体が透けていたからだ。



「身体が透けているのは、まだ死亡が確定してない亡者なんだ。ようは、フライングしてこっちに来ちまったヤツのことだな。ということはブリッヂメイカー、お前は地上で不慮の事故にあったんじゃないか?」



 ヘルロウ村にあるヘルロウ宅に招き入れ、話を聞くことにしたヘルロウ。

 ブリッヂメイカーは奇跡の占い師に言い当てれらたみたいに、顔のシワが伸びてなくなるくらいにあんぐりと驚いた。



「はい、ヘルロウ様……! ヘルロウ様はやっぱり天使様じゃ……! なんでもお見通しだなんて……!」



「お見通しというか、推理みたいなもんだよ。まぁ、ココ(●●)は地上と違って時間もタップリあるし、なにがあったのか話してみろよ」



 ブリッヂメイカーは、ルシエロ領で起こったことの一部始終を、ヘルロウに告白した。


 年老いたので、息子であるブリッヂレイカーに、領主の座を譲ったこと。


 ブリッヂレイカーがヘルロウの石橋をすべて壊し、ダメルシアンに頼ったこと。


 ダメルシアンのトンデモ橋のこと。


 そのトンデモ橋によって、白アリが大量発生し、ルシエロ領は絶滅しかけたこと。


 そして……殺虫剤を創ったこと。



「ふうん、俺の教えた殺虫剤があれば、白アリなんてイチコロだろ」



「はい、そうなのですが、ワシはそれを、息子のブリッヂレイカーに託そうとしたのですじゃ。息子がこうなってしまったのも、親であるワシの責任……。それに、息子を助けたい思いもありました。しかし、ブリッヂレイカーは……」



 殺虫剤の瓶を、叩きつけて割ってしまったのです……!



 ……パリンッ!!



 息子は、ワシに向かってこう言いました。



「悪魔が創った薬なんて使えるかっ! 父上……! いいや、ブリッヂメイカー! 悪魔の創った薬で、生き物を駆除しようなどと考えるとは、貴様は心まで悪魔に売り渡してしまったようだなっ!! 見ていろよ、俺は俺のやり方で、このルシエロを復興させてみせる! 貴様らが悪魔の力を借りて白アリを一掃するように、俺は天使様の力をお借りして、お前たち悪魔をこの地から一掃してやるんだっ! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!!」



 そして息子は逃げだし、行方知れずとなりました。


 ワシは仕方なく、殺虫剤を使って白アリを駆除しました。

 ヘルロウ様から教えていただいた殺虫剤は効果抜群で……領内からはすぐに白アリの姿がなくなりました。


 ワシが白アリを退治したことで、分かれていた者たちもワシを頼りにするようになって……。

 ルシエロはまた、ワシが領主を続けることになったんです。


 でもワシの頭の中にはずっと、息子のことが残っておりました。

 いつか帰ってきくれることを信じて、ずっと……。


 すると最近になって、息子はみんなの前に姿を現したのです。

 物乞いのように痩せこけ、ボロボロの格好をして、悪魔に魂を売り渡したような、恐ろしい目をしていて……。


 ワシや領民に向かって、こう言ったのです。



「ここは、悪魔に支配された呪われた地! 今から天使様の力で、この不浄を洗い流してくれようぞ! しかし、今なら許しを与えよう! 悔い改めた者は私の新領地に来るのだ! 審判の時は近い! ワッハッハッハッハッハッハッ!」



 息子はなんと、かつてワシを山奥に追いやったように……。

 ずっと湖のそばの僻地で暮らしていたようです。


 そして、それからです……。

 ルシエロの地に、大雨が降りそそぎはじめたのは……。


 ヘルロウ様もご存じのとおり、ルシエロは雨がほとんど降らない土地です。

 それなのに息子の宣言以降、雨の降らない日のほうが珍しくなってしまって……。



「……それで、川が今まで以上に氾濫するようになっちまったんだな」



「はい。それでもヘルロウ様のお教えくださった石橋は無事でした。でも、家屋は流れてしまい……。一部の領民のなかには、ブリッヂレイカーを信ずる者たちも出てくるようになりました。しかも、川が氾濫するのはワシらの土地だけで、ブリッヂレイカーのいる土地は川が氾濫しませんでした。本当に、天使様の力を借りているようだったのですじゃ」



「立場が逆転しちまった、ってワケだな」



「はい。それでとうとうルシエロ領は、ワシとブリッヂレイカーとで二分されてしまったのです。ワシはブリッヂレイカーを説得するために、大雨のなか、ブリッヂレイカーの新領地に向かったのですが……」



「その途中で、死んじまったってワケか」



「はい……。川の氾濫によって押し流されてきた流木にぶつかり……。気がついたら、ここに……! ワシは先行き短い老人ですじゃ。でも……残された者を不幸にして、先立つわけには……! うっ……ううっ……! うわぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」



 話し終えたブリッヂメイカーはヘルロウにすがると、子供のように泣きじゃくりはじめた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 祝!連載再開! 他の作品と同時連載で大変かもしれませんが、ハンブルシープさんのペースで、無理せず頑張ってください。 [一言] 父親の想いをないがしろにしたバカ息子を許せないのはもちろんです…
[良い点] 馬鹿息子 とうとう悪魔に魂を売りましたか! もう完全に救えませんね!(ニヤリ) そして父領主 ヘルロウと再会しましたか!(汗) [気になる点] とりあえず馬鹿息子に手を貸した天使って ダメ…
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