34 地上軍の崩壊
最初の石を運び終えた地獄軍の亡者たちは、ふたつのグループに分かれて作業していた。
ひとつは、運んできた石を地面に埋め込み、石畳状に並べるグループ。
これが、これから創られるトイレの基礎、すなわち土台となる。
その手際は、地上にいるプロの神殿建築作業員も顔負け。
速さも正確さも、ピッチリと並べられていく石畳のように、一分のスキもなかった。
亡者たちになぜ、これほどまでの能力があるかというと……。
彼らはかつて、同じような作業をそれこそ延々と繰り返していた時期があったからだ。
そう……!
ヘルロウ村へと繋がる、『ヘル・ロード』を創るために……!
土台ができあがるまでの間に、もうひとつのグループは木組みを創りあげていた。
これは、高いところで作業をするための足場となる。
ということは、地獄軍の創ろうとしているトイレは、かなりの高さがあるものということだろう。
天国と地獄では幾度となく、『ものづくり勝負』が行なわれてきた。
といってもそれは名ばかりのもの。
実態は、亡者たちがありもしない力と知恵を振り絞る様を、天使たちがあざ笑うという、『ガス抜き』。
死に物狂いになってもなお、ゴミしか作れない亡者たちに、ゴミを投げつけて屈辱にまみれさせるという、歪んだイベントであった。
今日行なわれている『神築』も早々に、その様相を呈するであろうと思われていたのだが……。
今回招かれた地獄軍は、ひと味もふた味も違っていた。
地上軍の人間たちは、ゼウス城の石垣の改修箇所に沿うように、足場を組んでいる間に……。
地獄軍はすでに、基礎工事を完成させていたのだ……!
地獄軍、進捗度合において、一歩リード……!
作業対象の規模がそもそも違うので、マトモに作業している以上、この差は必然的に生まれるものであった。
しかし相手が亡者たちである以上、許されることではなかった。
『きっ……キンキラキーンッ! 地獄軍の亡者たちは、石を埋めたり、木を組み合わせてへんなものを作りはじめたキンっ! どうやら、よっぽど糞メダルが欲しいようだキンっ!』
MCのキンメダールがなんとかして、彼らの作業をバカにする方向に持っていこうとしても、無駄であった。
なぜならば、わかってしまうのだ。
創造天使でない、石積みに素人な天使たちから見ても……。
『ヘルロウイズム』により創り出される物の、見事さが……!
それは思わず見とれるほどで、会場はしん、と静まり返っていた。
その雰囲気は、空気の読めないヒコスターもさすがに察する。
一級のパフォーマンスを台無しにするように、声を荒げた。
『イエス! 我らが正義の使徒よ! 正義の慈悲はここまでだ! ここからは本気で作業をして、悪の地獄軍のの者たちに、思い知らせてやるのダッ! いくらがんばっても、悪の栄えたことはない現実をっ!』
神にどやされた地上軍の人間たちは、慌ててペースアップする。
そこに、ステージ下にいたハゲ社長も加わった。
『ヒコスター様のおっしゃる通りじゃ! 貴様ら、いつまでダラダラやっとる!? これからは一秒でもモタついた者は、即クビにしてやるからなっ! わかったら死ぬ気で作業するんじゃ!』
これほどの大勢の前で、公開パワハラ……!
そして何を隠そう、パワハラは天国の『隠れお家芸』のひとつでもあった。
しかもこの『神築』の会場には、『情操教育』の儀式陣が敷かれている。
儀式陣は感情を増幅させる効果があるのだが、観客の天使たちは、地獄軍の手際の良さに焦りを感じ始めているところであった。
それが増幅されてしまったら、どんなことになるかというと……。
「おいっ! ふざけんなっ! もっと早くやれよっ!」
「そうだよっ! 亡者のヤツらは、基礎工事を終えて、石積みをはじめてるんだぞっ!」
「それなのにお前らは、まぁだチンタラ足場なんか作ってやがって!」
「早くしねぇと、あのハゲがクビにする前に、クビをちょん斬るぞっ!」
怒号が城攻めの砲撃のように、地上軍を責め苛む。
人間たちは顔面蒼白、こんなハズじゃなかったのにという表情で、作業を無理やりペースアップ。
それは『ものづくり』の姿とは程遠かった。
オートメーションの工場のような、速さだけを重視したものとなる。
もちろん彼らが本当の機械であるならば、それでもよかった。
しかし彼らは人間である。
人間がそんなムチャをしてしまったら、どうなるかというと……。
ただの、強制労働……!
そしてついに、作業員の間での意思疎通も失われていく。
足場の鉄パイプを運ぼうとして、他の作業員の後頭部にヒットさせてしまったり……。
慌ただしくすれ違う際に、肩がぶかって、もつれあって倒れたり……。
ジタバタするのは、本来亡者たちに期待されていたことであった。
しかし現場は、真逆の有様……!
亡者たちはめざましい勢いで、石を積んでいくのに対し……。
かたや人間たちは、水に浮いたアリンコのようにもがくばかり……!
そしてとうとう、最悪の事態を迎える。
何本もの鉄パイプを、奴隷のように運んでいた作業員が、躓いてしまい……。
組んでいる途中の足場に、それをぶちまけてしまったのだ……!
……ドガッ……シャァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーンッ!!
地震で倒壊する、手抜き工事のビルのように、脆くも崩れ去る足場。
地上軍の今までの作業が、すべて台無しにっ……!
これにはとうとう、これまで決して起こることのなかった、前代未聞の事態を引き起こしてしまう。
観客たちは激情に突き動かされるように立ち上がり、足元に設置されている箱から石を拾いあげると、
「ふざけんなよっ! なに崩してやがんだっ!」
「またイチからやり直しじゃねぇかっ!」
「この人間のクズっ! ゴミっ! ブタぁ!」
「いますぐそのヘマをしたヤツを殺せっ! 殺せぇぇぇぇーーーーっ!!」
握りしめた石を罵声とともに、地上軍めがけて投げつけたっ……!




